コンサート雑感、今回は令和7(2025)年5月31日に聴きに行きました、ボヘミアン・フィルハーモニック第10回記念演奏会のレビューです。
ボヘミアン・フィルハーモニックさんは東京のアマチュアオーケストラです。ボヘミアの作曲家に魅せられて首都圏の大学生が集まってできたオーケストラですが、第5回ではシベリウスを取り上げていたりと、必ずしもボヘミアの作曲家だけを取り上げているわけではないですがボヘミアの作曲家の作品が必ずプログラムに入っているのが特徴です。
https://bohemian-phil.jimdofree.com/
私も過去3回演奏会に通っています。
回を重ねるごとに良くなってきているという印象を受けていますが、しばらくいろんな団体とバッティングしていたり私が難病に罹患してしまったりと、なかなか第5回以降足を運ぶことが出来ずにいましたが、今回は万難を排して他にも魅力的な演奏会があったにもかかわらず今回は足を運びました。それは、第10回記念演奏会としてプログラムされたのが、スメタナの連作交響詩「わが祖国」全曲だったからです。ホールは第5回と同じ大田区民ホールアプリコ。私も大田区民第九合唱団でベートーヴェンの第九を2度歌ったホール。さて、その素晴らしいホールを如何に使いこなして演奏してくれるのか、楽しみに足を運びました。
今回、パンフレットには6曲ある作品を「神話の時代に思いを馳せる」「ボヘミアの豊かな自然と風土」「ボヘミアの勝利と栄光の歴史譚」の3つに分けて分類していました。私も大きくはこの3つだと思っていますが、ただ1曲だけこの分類には当てはまらないというか、隠しテーマがあると考えている曲があるのですが、その曲をどう演奏するかが今回注目していました。
①ヴィシェフラド
第1曲はヴィシェフラド。「神話の時代に思いを馳せる」と分類された曲で、この分類は正しいと思いました。ヴルタヴァ河畔の高い山の上にある廃城とその栄華をしのぶ曲ですが、この「高い城」は実はプラハ城とちょうど川を挟んで相対しているような位置にあります。日本でもこういった城は実はかなり残っていて、中世から戦国時代にかけてはそういった城は日本でも結構あったため今でも残っているケースが多いので、是非とも皆様探して足を運んでいただきたいと思います。ちなみに7月に私は関西万博に行く予定を立てていますがその途中で彦根城の見学を予定しています。この彦根城を例に取れば、彦根城がプラハ城、そして東海道本線や近江鉄道、名神高速道路を挟んだ向かいに、実は佐和山城の跡が残っておりそれが「高い城」に相当すると思っています。佐和山城主と言えば石田三成の居城でしたが、関ヶ原の戦いで石田三成が負けて井伊家が一度入りその後彦根城が出来てから廃城になっています。このヴィシェフラドで描かれている城も廃城となって墓地になっており、スメタナとドヴォルザークも眠っています。日本人だと彦根城と佐和山城と想像して聴いてみるのもいいかもしれません。
もしかすると彦根城と佐和山城に足を運んだかのような、単にゆったりとしたテンポではなくリズム感もしっかりと感じられさらに美しく力強さもある演奏。まさしく「神話の時代に思いを馳せる」という分類に相応しい演奏でした。そして弦に痩せた音が一切聴こえてこない!いやあ、第10回で本当に見事な成長を遂げられたと思います。ここまでの道のりもさぞかし大変だっただろうと思いますと、第1曲目から感動で打ち震えていました。
②ヴルタヴァ
第2曲ヴルタヴァは、プラハを流れるヴルタヴァ川を描いた曲として「ボヘミアの豊かな自然と風土」と分類された曲です。この分類は正しいとは思いますが、以前から申し上げていますがこのヴルタヴァ(昔は「モルダウ」と言われていた曲)は決してボヘミアの豊かな自然と風土だけを描いているのではなく、そこに民謡やコラールなどの旋律も入っておりかつ川の流れを表現することで実はこの後の歴史へと至る導入の役割も持っています。単独で演奏されるときは確かに「ボヘミアの豊かな自然と風土」ということでもいいと思いますが、6曲すべてを演奏するとなった時には、ヴルタヴァという曲が意味するのはそれだけにとどまらず第5曲と第6曲にかかってくる意味を持っています。そこを念頭に置いて演奏して下さるかという点が、「わが祖国」が演奏されるときに私が注目している部分です。特にドイツ語の「モルダウ」ではなくヴルタヴァとチェコ語の表記に従っているということは、スメタナが作品に込めた意味をどれだけしっかりとくみ取るかが重要だと個人的には考えるところです。
さて、その点に注目して聴きますと、冒頭テンポ速め!おお!これはいいぞと思いました。ですが主旋律が登場すると多少テンポダウン。ですがそこにリズム感がしっかりと感じられるので全く違和感がないのです。指揮者は山上紘生さんで第5回でもタクトを振られた方。第4回以降はずっと山上さんが振られているようで、関係性の深さを感じさせます。第1回と第2回は売り出し中の松本宗利音さんだったのでおそらく決まった音楽監督を置いていないと思いますが、第4回以降積み上げてきたものが今回ヴルタヴァでいきなり存分に出ているように聴こえました。
そのリズム感の良さが、ヴルタヴァ川が急流に来てさらに遠くへと流れていく様子がまるでチェコの歴史と重なるようで、素晴らしい演奏!昨年のミューザ川崎市民交響楽祭、今年逝去された秋山和慶さんが振られた「わが祖国」のような、説得力を持った演奏が若いオーケストラで聴けたのは幸せです。どこまでも生き生きとした演奏です。
③シャールカ
シャールカは神話の時代の女戦士の名前で、男性からの差別に抵抗する女性戦士の物語を描いた「神話の時代に思いを馳せる」に分類された曲です。まさに女戦士シャールカが、男性たちを眠らせ切り殺すというもの。いきなり激しい音楽で始まるのもまたドラマティックでよかったですし、何より生き生きとした演奏が、神話が現実の物語であるかようにチェコで語られていることを想起させます。女性は特に共感できる演奏だったのではないでしょうか。たいていこのシャールカが終ると休憩で当日もそうでしたが、疲れを感じることなく突っ走る演奏はさすが若い人も入っているオーケストラだと思います。ただその情熱的な演奏がフライング拍手になってしまったのは残念・・・私のすぐ近くの人だったのですが、当日「指揮者がタクトを下ろすまで余韻を味わってください」と何度もアナウンスがあったのですが守られなかったのが残念・・・ホールの残響時間を目安としてアナウンスするという方法もあったように思います。
また、ここまでの3曲特にティンパニが固くぶっ叩いてくれるのもいいです~。それがまた女性というのが素晴らしい!このシャールカでは特に共感しているのか美しくも意思をもってぶっ叩いているように聴こえました。それもまた物語にぴったりでした。
④ボヘミアの森と草原から
休憩後の第4曲はボヘミアの森と草原から。「ボヘミアの豊かな自然と風土」に分類される曲で、まさしくその通りの作品だと言えます。ですが単に風景ではなくそこには動物も描写されていると個人的には考えるところで、山上さんも同じ解釈をされているようでこの曲でも生き生きとしたリズム感を感じられる演奏になっているのが私好みです。アマチュアオーケストラだとそろそろ疲れてきてやせた弦の音とか聴こえてきてもいいのですが一切聴こえてきません。それだけでもレベルの高さが分かろうものです。まあ、この曲で滅多にゆったりとしたテンポの演奏を聴くことはないですが、たまーにあるので構えていましたがそんなことは一切なくこの曲でも情熱的ないいテンポの演奏。日本はどんどん指揮者の世代交代が進んでいるように思われます。
⑤ターボル
さて、この第5曲と続く第6曲は「ボヘミアの勝利と栄光の歴史譚」に分類される曲になります。それは実は第2曲「ヴルタヴァ」と係り結びの関係にあります。明かにその関係を山上さんは意識したタクトになっていたということなのです。これが本当に素晴らしい!その意味では、まさにヴルタヴァは二つの特色をアウフヘーベンした演奏でした。
その演奏を受けての「結び」第1幕がターボルということになります。2曲ともフス戦争を描いており、チェコが大国に弾圧されそれへの抵抗という意味合いを持っています。ある意味、私はこの6曲の連作交響詩は明らかにこの2曲が言いたいことになっていると考えますし、山上さんも同じ考えのように思われます。
特に、冒頭の旋律はコラール「汝ら神の戦士よ」から採用されており、フス戦争がプロテスタントの宗教改革に先んじていることを考えますと、スメタナの頭の中にはバッハのカンタータあるいは受難曲が念頭にあったのかもと個人的には思うところです。
そのコラールで始まり音楽は激しくなっていくことでカトリックとの抗争が始まったことを表現していますが、まだここでは勝利が見えていません。終止は中途半端になっており解決していないことを意味するわけです。さて、ここで次の曲に至るのをどのようにするのかが重要なのです・・・
⑥ブラニーク
第6曲ブラニークは、フス戦争が始まって激しい抗争が続いていることを示すターボルから受けての曲です。それをどれだけ演奏で示せるかが重要だと書きましたが、なんと!当日ほぼアタッカでたった一呼吸置いただけで音楽が始まったのです!これはライヴらしい選択だと思いますし、また私が好きな録音であるヴァ―ツラフ・スメターチェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏に限りなく近い演奏になっていました。
そのうえで、ここまで演奏でかなり気合が入っていて疲れているはずなのに、ほとんど弦に痩せた音が聞こえてきません。一瞬聴こえたかなと思ったところもありますがそれ以外は全くやせた音が聴こえてこないのです。むしろその迫力にホルンが圧倒されていて軽めの音がなかなか出ないというハプニングが散見されて・・・普通アマチュアだと逆のことが多いのですが、本当に弦セクションが素晴らしいんです。特に今回、ヴァイオリンは対向配置になっていてお互いの音を聴きあうのは難しいはずなのですが、アプリコというホールの残響時間の長さをうまく利用してお互いの音を聴きあっているように見受けられました。
ゆえに、まさにフス教徒の勝利の音楽であるブラニークが、力強く壮麗な音楽になっているのが素晴らしい!美しさも忘れていません。またこの曲もフス戦争がテーマなので当然ながらターボル同様コラールが旋律に採用されているわけなんですが、そのコラールも本当に力強く美しい!
どうしても力任せになりがちで「ヴィシェフラド」では多少その力任せの部分もあったのですが、最後のブラニークでは力強さとしなやかさが同居し、美しい勝利の音楽が繰り広げられ、まさにスメタナが描いたチェコの未来が表現されていました。どんな支持を山上さんが出されていたのでしょうか・・・気になります。私が7月に彦根城を見に行く時に、今回の演奏がリフレインされそうです・・・
最後は残響を最後まで楽しめました。残響が終ったとたんに「ブラヴォウ!」をかけさせていただきました。本当に考え抜かれた素晴らしい演奏でした。
次回は10月に杉並公会堂でドヴォルザークの交響曲第2番と第7番とのこと。しかも夜公演。これはコンサートはしご確定の様です。アプリコよりは小さめの杉並公会堂でどんな演奏が聴けるのか、今から楽しみです!予定に入れておきます!
聴いて来たコンサート
ボヘミアン・フィルハーモニック第10回記念演奏会
ベドジヒ・スメタナ作曲
連作交響詩「わが祖国」全曲
山上紘生指揮
ボヘミアン・フィルハーモニック
令和7(2025)年5月31日、東京、大田、大田区民ホールアプリコ大ホール
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。