音楽雑記帳、今回はちょっと飛び石になりましたが、府中市立図書館のライブラリである、久石譲指揮ナガノ・チェンバー・オーケストラによるベートーヴェンの交響曲全集の続きとして、既にハイレゾで持っている交響曲第9番の演奏を聴いてみます。
この演奏はハイレゾで持っているものであるわけですので、既に取り上げております。
この演奏はスマホに入れているものなのでその後もイヤホンでさんざん聴いている音源なのですが、やはり改めてPCにて聴いてみますと、やはり当時感じたようにスピーカーで聴くほうがまるでホールにいるかのように聴こえます。それはエントリを書いた当時はまだ一つ前のPCで、アプリはソニーのMusic Center for PCで聴いていたわけですが、今回はTune Browserで聴いてみますとさらに臨場感あふれる演奏になります。正直現在ではアプリとしてはPCで聴くのであればTune Browserのほうが好きです。
そして、この第九では生命力あふれる演奏が際立ちます。オーケストラのメンバーは現在そのほとんどがフーチャー・オーケストラ・クラシックスに移って久石氏と共に活動していますが、このナガノ・チェンバー・オーケストラ時代の演奏は実に若々しい演奏です。情熱が迸る演奏です。
久石氏は古典派とロマン派ということを分けたり分けなかったりしますが、特にベートーヴェンの交響曲は古典派の頂点でありながらロマン派の扉を開いたという特徴があるため、作品によってアプローチを変えていますが、この第九に関しては片足をロマン派に突っ込んでいる作品でありながらも古典派として扱っているように思います。楽器編成からしても古典派よりははるかにロマン派の編成ですが、それでも久石氏はテンポ設定はあくまでも古典派です。それはもしかすると第8番の存在が念頭にあるのではという気がします。
交響曲第8番は第3楽章でメヌエットを復活させていますが実際はスケルツォと言ってもいいような構造を持ち、温故知新のような作品だと言っても過言ではありません。その路線を第九でも踏襲しているとすれば、普通第8番をロマン派的に演奏することはまれなので第九でも古典派のアプローチをすることは特段稀有なことではないと言えます。第8番の演奏については下記エントリでも触れていますがオーソドックスなテンポにしつつも音をばっさりと切るような演奏を採用し、明らかに古典派のアプローチをしているわけですが、基本的には第九でも古典派というアプローチを踏襲したことになります。
第九ではアグレッシヴなテンポにしているのは、古典派ということだけでなく、久石氏の作品に対する評価もあるのではと個人的には感じるところです。それは第九と言う作品が合唱を伴う作品であり、また楽器編成的にも新しいことを試していることです。ならロマン派的なテンポ設定でもいいわけですが、フレッシュさを表現しさらに歌詞が持つ当時としての新しさを表現するためには、むしろ古典派的アプローチこそ適切であると考えた可能性は十分あるわけです。実際、ブックレットには久石氏が全集にとりくむ姿勢をこう述べています。
「当シリーズにおける久石のコンセプトは、「作曲当時の小回りが利く編成で、現代的なリズムを活用した、ロックのようなベートーヴェン」、「往年のロマンティックな表現もピリオド楽器の演奏もロックやポップスも経た上で、さらに先へと向かうベートーヴェン」である。」
まさに全集の各演奏はこれが具現化された演奏でしたし、第九ではその総決算とも言える演奏が繰り広げられています。切れば血潮が吹き出るかのような、情熱的な演奏はまさにこの言葉を具現化させた故だと言えましょう。
それでいて決して粗野ではなく気品を持っていることも、この演奏の素晴らしいところです。以前より私はアマチュアを聴いて来た経験から日本のオーケストラに注目し海外オケではなくても十分喜びを味わえる環境が整ってきていると感じていましたがこの演奏でそれは確信に変わったと言ってもいいくらいの衝撃を始めて聴いた時に受けましたが、それは今でも何ら変わりありません。勿論海外オケが来日してそのサウンドが味わえることは幸せなことですが、かといって日本のオーケストラで本当に不満足なのかとも考えるのです。
最近は日本の国情もあって、欧米のオーケストラは日本をスルーして韓国や中国で公演をすることが多くなっていますが、なら今度は日本のオーケストラの存在感を高めて、欧米や韓国、中国のクラシックファンを日本に呼び寄せればいいのです。それだけの実力をすでに日本のオーケストラや演奏家たちはそなえています。この全集はその実力の証明でもあるわけです。いまだに中古CDもそれなりに高い値段がついていることを考えると、少なくとも日本のクラシックファンにおいて人気と評価が高い演奏だと言えます。また分売を基本していないこの全集に於いて唯一いまだに分売されているのがこの第九だけということも、その評価と人気の高さを物語ります。
この全集はある意味、これから日本のクラシックシーンはどの方向へ向かうべきかを、明確に示しているとも言えるのです。その集大成として、この第九の演奏はあると私は確信しています。
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。