かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:マイスターとウィーン放送交響楽団によるマルチヌー交響曲全集

東京の図書館から、3回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、コルネリウス・マイスター指揮ウィーン放送交響楽団によるマルチヌーの交響曲全集、今回は第2回目、第2集を取り上げます。収録曲は交響曲第3番と第4番の2つです。

交響曲第3番
交響曲第3番は、1944年に作曲された作品です。ボストン交響楽団の指揮者であったセルゲイ・クーセヴィツキのボストンでの活動20年を記念して書かれました。

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そのせいか、曲は全体的に暗くまた3楽章制を採用しています。タイミング的にまだ戦争が終わっていないこともありますが、クーセヴィツキがロシア系ユダヤ人ということもあったのではと考えます。3楽章制ということは隠れテーマは「自由」ですから。

この作品は第1楽章の冒頭がとても印象的なのですが、通常の演奏はその一節の最後の音をバサッと切るような演奏にして後は残響に任せるというものが多いのですが、マイスターはオーケストラに最後の音を丁寧に伸ばすという、演奏に於いてはオーソドックスなことを要求しています。それが生み出すのは、秘められた悲しみの感情がにじみ出ること。その悲しみへの共感と、ドイツとオーストリアユダヤ人虐殺あるいは迫害に加担してしまった歴史の重みへの意識が、演奏ににじみ出ているように思われます。

実は、私はマルチヌーと表記していますがCDではマルティヌーと表記されています。それは欧米の表記に従ったとも言えますが、マルチヌーの音楽はもはやチェコのものだけではなく人類が共感できる普遍性を持つものへと変わっていることを示すように思われるのです。それが演奏に、迫害への反省とその苦しみへの共感として表れており、それが第1楽章冒頭を丁寧に演奏することにつながっているのだと思います。

私はバサッと切る演奏のほうが好きですがかといってこの丁寧な演奏がダメとも思いません。戦争で傷ついた人たちの苦しみ、特に迫害され虐殺されたユダヤ人への哀悼の意が込められているとも感じると、心が持っていかれるような印象を持ちます。この曲にこのような表現があったか!と思うとやはりプロは一味違うと感じるところです。

第2楽章以降は他の演奏とあまり変わらず特に第3楽章は音をバサッと切るような演奏になっていますが、むしろそれが第1楽章とのコントラストになっており、余計第1楽章が悲劇の始まりを予感させる、暗い感情が渦巻くように聴こえるのです。マイスターの才能の高さを感じざるを得ません。最後の部分の明るさが救いですがそこに持っていくために3楽章制を採用したマルチヌーの魂を掬い取っているのもまた魅力的な演奏です。

交響曲第4番
交響曲第4番は、1945年に作曲された作品です。マルチヌーの交響曲の内唯一の長調であることも特徴です。第2次世界大戦の後に作曲されたことから、祖国チェコへ帰国できる希望が反映されていると言われています。この曲もアメリカでの作曲です。

楽章は4楽章になっているため古典的な様式をそなえていますが、勿論和声は20世紀音楽であるため不協和音が多用され鳴り響きます。4楽章という形式と不協和音の多様と言うのは、第1番と第2番とに共通する形になっており、まさに祖国への想いが詰まっている作品だと言えます。

その魂を掬い取るかのように、この第4番ではマイスターはこれまた丁寧な演奏をさせています。自分たちが同じ立場だとしたらどう感じるのかという視点から、喜びを分かち合うかのような演奏になっているのもいいです。マルチヌーの音楽がまさにマルティヌーという表記に変わったことの意味を存分に表現しているように聴こえるのは私だけなのでしょうか。

明るい中で時々散見される陰鬱な音も含め、まるで憧憬のように書かれている内容を、実にあこがれをもって、リスペクトして演奏しています。それがまたすばらしく聴いているこちらも喜びに満ちてきます。

マルチヌーの精神を自分事として捉え、表現しているこの演奏は誠に素晴らしいものです。

 


聴いている音源
ボフスラフ・マルティヌー作曲
交響曲第3番H.299(1944年)
交響曲第4番H.305(1945年)
コルネリウス・マイスター指揮
ウィーン放送交響楽団

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