かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:NHK交響楽団 創立75周年

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、NHK交響楽団の創立75周年を記念した演奏を収録したアルバムをご紹介します。

NHK交響楽団が日本を代表するオーケストラであることは、ほぼ多くのクラシックファンの同意を得るところでしょう。では、そのNHK交響楽団がいつ創立されたのかということに関しては、あまり知られていないのではないかという気がします。歴史あるオーケストラということは知られているとは思いますが・・・

NHK交響楽団は、1926年に「新交響楽団」の名称で設立されました。現在ある同名のオーケストラとは異なります(現在の新交響楽団はアマチュアオーケストラです)。

www.nhkso.or.jp

ja.wikipedia.org

放送法に基づくオーケストラですので、ヨーロッパの放送交響楽団と同じ体制です。実際、NHKとは「日本放送協会」のローマ字の略称ですし。欧州風に表記すれば「日本放送交響楽団」とも言えるでしょうか。

それゆえに、NHKの放送に貢献する一方、オリジナルのコンサートを開催し、それを放送するということが主な活動になっていますが、ボランティアなども行っており、プロアマ問わず、日本のオーケストラの礎を築いて来たオーケストラと言えます。

民放があまり海外のオーケストラの公演を放送しないのは、視聴率の問題もありますが、むしろ放送交響楽団を持っていないという点にこそあると私は考えています。実際、NHK・FMではNHK交響楽団だけでなく、ヨーロッパ各国の放送交響楽団のコンサートも放送されることが多いです(ベスト・オブ・クラシック 月曜から金曜日19時30分~21時10分)。これはそもそも、NHKが傘下にNHK交響楽団を持っているからこそだと言えます。民法で現在傘下にオーケストラを持っている局はなく、メディア全体に広げてやっと読売日本交響楽団があるだけです(読売新聞傘下であり、日本テレビ放送網の傘下ではない)。

そのNHK交響楽団は、今年(2024年、令和6年)で創立98年をを迎えることになります。このアルバムはそれよりも23年前の2001年に、創立75周年を記念して収録されたものです。ですが、それだけで私は借りては来ません。実はこのアルバム、録音場所がNHK交響楽団がいつも使っているNHKホールやサントリーホールではなく、武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールなのです。

www.musashino-music.ac.jp

NHKホールは多少デッドな、響きとしては残響時間が少なめなホールですが、一方でサントリーホールベルリン・フィルハーモニーを参考にしたクラシック専門の残響時間が長いホールです。武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールは、その中間的なホールですが残響時間は長く、シューボックス型と言われるホールになります。音楽大学にはたいていこの様な優れたホールがあって学生の学習に寄与していることが多いですね(以前このブログでも取り上げた小田急新百合ヶ丘駅にあるテアトロ・ジーリオ・ショウワも同じ役割を持ったホールです)。

NHK交響楽団は、本拠地NHKホールがデッド(そもそも紅白歌合戦もやるホールなので当然ですが)とはいえシューボックス型、そして定期演奏会をたまに行うサントリーホールがワインヤード型と、異なったホールでコンサートと行うオーケストラであるがゆえに、この武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールではどんな響きと演奏を聴かせてくれるのか?と興味を持ち借りてきたのでした。

いやあ、さすが年末のベートーヴェン第九では共演する合唱団もある音楽大学のホールだと思います。NHK交響楽団がしっかりとホールの特性をつかんで、思い切った表現をした結果、残響のいい素晴らしいアンサンブルを味わうことが出来ます。

収録されている曲は3つで、武満徹の「遠い呼び声の彼方へ!」と「弦楽のためのレクイエム」、そしてチャイコフスキー交響曲第4番。実はこれらは全て2001年に定期演奏会で披露された曲でもあります。普通はその公演をCDとかにすることが多いのですが、あえて別のホールで収録してというのが珍しいのですが、それだけ自信をもって世に出したアルバムだと言えます。

武満の2曲は、いわば前衛音楽と言われる作品ですが、武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールの残響にぴったりだと言えます。聴いた途端、NHK交響楽団サウンドなのですが、その残響の美しさと長さに感動します。ヴァイオリンは諏訪内晶子さんですが、NHK交響楽団とのコラボを味わっているかのような演奏。人間の内面というよりは、音楽を風景に見立てたという作品ですが、なぜかしんみりする曲です。一方の「弦楽のためのレクイエム」は実際武満が死の影だったり、恩師の死に直面したりという経験に基づかれた作品であるだけに、暗い原始のような世界に引き込まれるかのようです。武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールの残響がまだいい味付けになっています。

チャイコフスキー交響曲第4番は、音が動き回るときとゆっくりな時の差が激しい作品で、まさにチャイコフスキーの内面が強く反映されたかのような作品です。指揮はシャルル・デュトワですが、第1楽章はちょっと急いでいる感じがして違和感があるのですが、第2楽章以降は丁寧なテンポで歌うような感じ。デュトワとしてはコントラストを明確にしたかったのだとは思いますが、ちょっと短絡的過ぎるかなという気がします。とはいえ、NHK交響楽団の演奏は実にステディで歌っています。魂の叫びと内面の独白のような緩徐楽章との対比は見事!やはり日本を代表するオーケストラだと思います。

もしかすると、この演奏を学生が見学していたのかもと思うと羨ましくもありますが、NHK交響楽団の理念にはボランティアもありますから、学生の助けになればという意識もあったのかもしれません。音楽大学のホールで演奏すると言うことは、学生が念頭にあっても不思議はないですし。実際、私はアマチュア合唱団員として大田区民第九合唱団にいた時に、リハーサルを小学生に開放するという機会があり、大田区民ホールアプリコでベートーヴェンの第九を歌った時、やはり小学生が念頭にありました。

こういう演奏がなんの意味があるのかと思う方もいるかもしれませんが、実は教育だったり、オーケストラの鍛錬であったりという側面もあるのです。その結果が私たちに喜びを与えてくれるのであれば、幸せなことはありません。ある意味、アマチュアオーケストラの演奏に近いスタンスだとも言えます。舞台に乗ったらプロもアマチュアもない・・・アマチュア合唱団にいた時、よく言われました。

この録音の後、日本にはいわゆるクラシック専用の「いいホール」が続々と完成しますが、その効果が今2024年という時に結実していると言えるでしょう。この録音がアマチュアオーケストラに与えた影響も想像するとき、やはりこういった演奏は必要だったのだと、いろんなアマチュアオーケストラの演奏を聴きますと強く感じます。やはり、NHK交響楽団は日本を代表するオーケストラだと言えるでしょう。

 


聴いている音源
NHK交響楽団 創立75周年
武満徹作曲
遠い呼び声の彼方へ!
弦楽のためのレクイエム
ペーター・イリイチチャイコフスキー作曲
交響曲第4番ヘ短調作品36
諏訪内晶子(ヴァイオリン)
シャルル・デュトワ指揮
NHK交響楽団


地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。

コンサート雑感:ユーゲント・フィルハーモニカ―第18回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年3月10日に聴きに行きました、ユーゲント・フィルハーモニカ―第18回定期演奏会のレビューです。

ユーゲント・フィルハーモニカ―さんは東京のアマチュアオーケストラです。実は、YouTubeチャンネルも持っていらっしゃいます。先日エントリを上げた、東京楽友協会交響楽団さんの第116回定期演奏会も、チラシはもらっていましたが最終的にはこのユーゲント・フィルハーモニカ―さんのYouTubeチャンネルで決断したのでした。

jugend-phil.com

www.youtube.com

そして、私の初ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの演奏体験も、実はYouTubeでした。

ykanchan.hatenablog.com

この体験以来、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのコンサートには足を運ぼうと思っていましたし、実はユーゲント・フィルハーモニカ―さんのチャンネルは私も登録してあります。YouTubeは私は鉄道関係を圧倒的に登録していますが(スーツさんや西園寺さん、鐡坊主さんもそうです)、いくつか音楽関係も登録しています。その中にはプロであるバッハ・コレギウム・ジャパンもあります。

そんな中に、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんも含まれており、コンサートが近くなってきて動画投稿が多くなってきた時に、今回の指揮者である橘直樹さんが動画に登場!その時に、東京楽友協会交響楽団さんのコンサートでも振られることを知ったのでした・・・先にチケットを取っていたのは、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのコンサートです。前日はお休みしようと思っていたのですが、せっかく同じ指揮者が、しかも「オルガン付き」を振り、かつ2プロでエルガーを振られるのであれば、ぜひともと思い、さらにチケットを取ったというわけだったのです。ですので、ユーゲント・フィルハーモニカ―さん様様なのです。

そして、実はそのユーゲント・フィルハーモニカ―さんが今回、オール・エルガー・プログラムでした!

①序曲「コケイン」
②チェロ協奏曲
交響曲第1番

そして、指揮者はエルガーの演奏に生涯をかけてきた、橘直樹氏。その熱い思いを動画で語っておられました。なので今回とても楽しみにしていきました。ホールは実は東京楽友協会交響楽団さんと同じミューザ川崎シンフォニーホール。つまり、2日連続で同じホールに足を運ぶということになりました・・・まあ、鉄道ファンである私としては、うれしいのですが。今回は全日の失敗があったので時間に余裕を持ってきました!乗った列車は2分遅れでしたが。

今回のプログラム、私としてはチェロ協奏曲以外は聴いたことがある曲です。エルガーは日本ではよく知られている作曲家である割には、評価は低い国だと思っています。それゆえ今回、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのテーマ「アマチュアオケだからできること(≒プロオケにはできないこと)」として、エルガーを取り上げたのだと思います。そもそも、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの創立が、コンクールに出場しヨーロッパ公演まで行った経験者たちによるものだったということを考えても、志が高い人たちだと言えると思います。

序曲「コケイン」は、1900年~1901年にエルガーが作曲した演奏会用序曲です。「コケイン」とは、実はロンドンの旧称で、決して特定疾病などではありません。

ja.wikipedia.org

フランス語の「理想郷」という言葉が下となっており、その後ロンドンの下町を意味する隠語となりました。そのためか、音楽は非常に愉快で楽しいもの。その愉悦や喜びを、思い切った演奏でいきなり表現します。勿論、やせた弦楽器の音などみじんもありません。このレベルの高さ・・・ぜひとも一度をの演奏をYouTubeでいいので体験されることを強くお勧めします。そのうち、今回の演奏もアップされることでしょう。

2曲目のチェロ協奏曲。エルガーが第1次世界大戦で傷ついた心をいやすために書かれた作品です。

ja.wikipedia.org

主題は1918年に書かれており、完成は同年8月。つまり、第1次世界大戦真っ只中です。エルガーにはドイツにも知己が多くいましたが、その多くは敵になってしまいました。そのことがエルガーを精神的に追い詰めたと言います。聴いていても、エルガーの「愛の挨拶」のような明るい前向きな音楽だけではなく、むしろ短調も多く存在し、時として強く鋭い旋律も存在します。なので、ソリストにはかなり技量と表現力が必要になると思います。

今回のソリストは、東京都交響楽団のチェロ副首席奏者である、江口心一さん。え?プロオケのサラリーマンがそんなことして本当に満足な演奏できるのか?と思う方もいるかもしれません。しかし、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんが信じて招へいしたソリストです。しかも、東京都交響楽団は、ナクソスにも登場するだけの、今や国際的なオーケストラでもあります。悪かろうはずがありません。見事な表現力でした。さすがプロオケの奏者だと思います。つまり、プロオケの奏者とは、実際にはソリストもできるだけのレベルを持っていることが、証明されたということになります。

同じ例を、私はエントリで挙げております。

ykanchan.hatenablog.com

このエントリで、私はこう語っています。

「在京オケの首席がソリストを務めるなんて、アマチュアオケで珍しいことでも何でもないですから。」

はいそうなんです。実はアマチュアオーケストラの演奏会に行きますと、ソリストはプロオケの奏者という例は結構あります。アマチュアにソロだけで活動している人を招聘するだけの経済力などありません。となると、すでに定職を持っていて、アルバイトで出来る人を招聘するしかない、となれば、当然プロオケの奏者ということになるわけです。そして実際私は、「王子様」ことNHK交響楽団の当時主席チェロ奏者だった藤村俊介氏(現在は定年のため嘱託)のチェロのすばらしさを聴いていましたから、東京都交響楽団なら当然それくらいのレベルの奏者であろうと判断したわけなのです。おそらく、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの団員の皆さんも同じ判断だったと思います。この辺りは、Facebookの非公開グループ「クラシックを聴こう!」で「王子様」こと藤村俊介氏の「追っかけ」をされている某女史に感謝しかありません。

休憩の後の、交響曲第1番。ティンパニの小さな連打の後、静かに主題を奏する弦楽器。低音からヴァイオリンへと受け渡していく時の繊細さ。ffでのダイナミックかつ力強さ!まさにエルガーの作品が持つ特徴である「ノビルメンテ(高貴な・上品な・気品のある)」を壮麗な音楽と共に演奏しているのが印象的です。それゆえに、チェロ協奏曲がどれだけ苦しい中でエルガーが生み出したのかがコントラストとして浮かび上がります。オーケストラも第1番の「ノビルメンテ」に最大限の共感をしているのが聴き取れますし、また体の動きでもみてとれます。

エルガー交響曲は保守的なのでダメ!という向きもあるのですが、その「保守的」というのはエルガー自身の反骨精神だったように見えるのです。当時ヨーロッパでは、伝統的な交響曲は衰退基調で、交響詩全盛の時代を迎えていました。リヒャルト・シュトラウスがその典型です。エルガーはそれ自体を否定はしませんが、自身は取り組まず、あくまでも無表題の交響曲にこだわったのです。保守的なイギリス人ゆえに、伝統的なドイツ的音楽を、イギリス風味たっぷりに「ノビルメンテ」で作曲したと言えるでしょう。そこへの共感も多分にあったのでは?と思います。なにしろ、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのコンセプトを思い出してみてください。

「アマチュアオケだからできること(≒プロオケにはできないこと)」

です。プロオケだと、どうしても金を稼がないといけないので、市場がもとめる音楽を演奏しがちです。それは、端的に言えばドイツ音楽優先主義です。私自身ドイツ音楽は好きなのでそれ自体を否定しませんが、それだけが音楽ではないとも思っているので、このユーゲント・フィルハーモニカ―さんの姿勢には強く共感するのです。

その、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの姿勢が、エルガーへの共感として強く表れていると感じました。ソリストのアンコールも日本人作曲家の稲本響さんの作品で、不協和音を多用しつつ味わい深い作品を感情強く演奏されましたし、オーケストラのアンコールが、何と!前日東京楽友協会交響楽団さんが2プロで採用した、エルガーの「エニグマ変奏曲」の最終曲だったのです。

実は今回、隠れたもう一人のソリストがいます。それは、「コケイン」で気づかれた方もいらっしゃるかと思いますが、オルガニストです。そのオルガニストが、梅干野安未さん。そう、前日の東京楽友協会交響楽団さんのコンサートでオルガニストを務めた方なんです!

コケインでも、エニグマ変奏曲でも、オルガンは強くは弾かれず控えめにオーケストラとアンサンブルしますが、前日の東京楽友協会交響楽団さんのサン=サーンス「オルガン付き」で披露した強いアインザッツだけでなく、繊細な演奏もすばらしいその点が、今回のユーゲント・フィルハーモニカ―さんの演奏でも同様でした。むしろ、その自在な表現力が、今回のエルガーにぴったりだと思いました。

おそらくですが、今回の日程は、指揮者橘さんとオーケストラ、そしてオルガニストの間で議論して決めたと思います。2日続けて演奏がある場合、違うホールだとその分調整が大変になります。それなら、2日間同じホールのほうがいいという判断があってもおかしくありません。梅干野安未さんがオルガニストだったから、同じホールだったと考えていいとおもいます。それが、一方のオーケストラでは「オルガン付き」で、一方のオーケストラではエルガーだったということではないかとおもいます。こういった指揮者が、日本にもいるんですよね。プロオケだけではなく、アマチュアオーケストラの演奏会にもぜひとも大勢の方が足をはこんでいただきたいと思います。

私自身、再びユーゲント・フィルハーモニカ―さんの演奏会を楽しみにしたいと思います。定期演奏会は年1回しかやられないんですが、実はもう一つ、福島で毎年演奏をされています。今年はその福島で「オルガン付き」を演奏するとのこと。今年は東北・山形新幹線にE8系がデビューしますし、たまには新幹線に乗って福島までいこうかと、現在画策中です。

 


聴いてきたコンサート
ユーゲント・フィルハーモニカ―第18回定期演奏会
エドワード・エルガー作曲
序曲「コケイン」作品40
チェロ協奏曲ホ短調作品85
交響曲第1番変イ長調作品55
エニグマ変奏曲より第14変奏終曲(アンコール)
ヨハン・クリストフ・ペツェル作曲
塔の音楽(プレ・コンサート)
稲本響
船長(チェロ・ソリストアンコール)
江口心一(チェロ)
梅干野安未(オルガン)
橘直樹指揮
ユーゲント・フィルハーモニカ―

令和6(2024)年3月10日、神奈川、川崎 ミューザ川崎コンサートホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。

コンサート雑感:東京楽友協会交響楽団第116回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年3月9日に聴きに行きました、東京楽友協会交響楽団の第116回定期演奏会のレビューです。

東京楽友協会交響楽団さんは、東京のアマチュアオーケストラです。なんと、創立は1961年。それほど歴史のあるオーケストラとはわかりませんでした。何しろ、若い人しか見えなかったので・・・

www.tokyo-musikverein-symphoniker.org

このコンサートは、チラシはもらっていたのですが、行く決断をしたのは、その翌日に予定していた、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのコンサートがきっかけです。実は、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんはYouTubeチャンネルを持っていらっしゃいまして、その動画内で、同じ指揮者がその前日にも振られると発言があったのです。もしやと思い、チラシを確認したら、そういえば・・・となったのでした。なお、当該動画はユーゲント・フィルハーモニカ―さんのYouTubeページにあります。YouTubeにて「ユーゲント・フィルハーモニカ―」で検索をお願い致します。

さて、東京楽友協会交響楽団の今回のコンサート、プログラムは以下の通りでした。

ヴェルディ 歌劇「ナブッコ」序曲
エルガー 「エニグマ」演奏曲
サン=サーンス 交響曲第3番「オルガン付き」

実は、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの動画で知ったのですが、指揮者の橘さんは、日本におけるエルガーの第一人者だそうです。東京楽友協会交響楽団さんも、それを知ってか、2プロでエルガーを入れてきたのかもしれません。とはいえ、橘さんは後期ロマン派の作品に対しては素晴らしいタクトをされるという印象を持っています。例えば、先日聴きに行きました、オーケストラ・ルゼルではブラームス交響曲第2番を振られていますが、これも素晴らしい演奏でしたし、解釈だったと思います。

ykanchan.hatenablog.com

なので、エルガーもそうですが、特に後期ロマン派の作品を振られるのを得意としている印象があります。実際今回も、メインはサン=サーンスの「オルガン付き」ですし。

当日、間に合うようには出たつもりでしたが・・・バタバタしてギリギリで出た上に、上野東京ラインが遅延・・・ホールに着いた時には、すでに「ナブッコ」序曲が始まっていました。ただ、ティンパニの音はかなり鋭く聞こえてきており、そのレベルは比較的高いと判断していました。

なので、しっかり聴けたのは2プロのエルガーから。エニグマ変奏曲と言われていますが、正式名称は「管弦楽による独創主題による変奏曲」です。

ja.wikipedia.org

エニグマとは、謎という意味ですが、何が謎なのかってところですが、どうやら、エルガーは主題になぞかけをしているようです。それが故に「エニグマ変奏曲」と言われているようですが、エルガー自身はこの曲が謎なのではなく、「謎と変奏」と言っていることは重要だと思います。つまり、主題になぞかけしているよ、その主題の変奏曲だと明確にしているように私は思います。

ところで、普通変奏曲と言えば、あまり切れ目がなく連続して演奏されることがしばしばですが、この「エニグマ」変奏曲においては、それぞれの変奏は独立しており、まるで楽章です。その意味では、古典的というか、バロック的ともいえる雰囲気を持っています。なのでともすればアンコールにも使われることすらあります。

そんな作品を、東京楽友協会交響楽団さんは、のびのびと、そして弦にやせた音なく演奏するんです!やはり、レベルは高かった・・・東京のアマチュアオーケストラは、もうセミプロと言ってもいいくらいのレベルに達していると思います。エルガーが友人たちを想像しながら変奏を作っていった過程を楽しむかのように、楽しそうに演奏しているのが印象的。

そして、メインの「オルガン付き」。冒頭の比較的高音のpは結構弦楽器でも難しいと思うのですが、これが難なく演奏して実に繊細。これだけでもう感動ものなんですが、それからの盛り上がりも素晴らしい!躍動と繊細さがしっかり同居し、生き生きとした演奏に。同じホールでプロの東京交響楽団も演奏していますが、それに匹敵すると言ったらウソだと言うかもしれませんが、いや、本当のことです。

そして、圧巻は最終部分でオルガンが入ってくるところ。圧倒的なオルガンの音がホールを包み込みますが、そのアインザッツが強烈!かつ、pでは繊細な部分もあります。オルガニストは梅干野安未(ほやのあみ)さん。オルガンを自在に扱っているように感じます。ホールはミューザ川崎ですが、パイプオルガンが設置してあるホールはどこもそうですが、指揮者とオルガニストとの距離は遠いのですよね。そこをしっかり連携できている点でも、素晴らしいと思います。おそらく、橘さんとの関係性がいいんでしょうね(というのは、実はユーゲント・フィルハーモニカ―さんの演奏会でも登場しているからです!)。かつ、ミューザは舞台上だと音が自分にかえってきません。そこをしっかり演奏しきれるのはさすがです。もう、こういったホールに日本人がしっかり慣れており、当たり前になってきている証拠だと思います。

オーケストラも、この曲を味わい尽くしている感じの演奏です。ノリノリで演奏していますし、楽しんでいるなと感じます。作品への共感にあふれています。アマチュアの演奏は、その共感している演奏が楽しめるのが魅力だと思います。勿論、プロでもそれは同じなのですが・・・アマチュアだと、自分たちが弾きたい!としてプログラムを組んでいるわけなので、その金銭的な部分ではない意志を楽しめるのが魅力なのです。ともすれば失敗することだってありますが、そこをどう立て直すのかも楽しみの一つですが、その失敗なく素晴らしい演奏で楽しませてくれるのは、もう魂の喜び、愉悦です。

また一つ、聴きに行きたいオーケストラが増えて、私は正直うれしい悲鳴を上げております。そろそろ、一覧表とか作らないと、コンサート行脚に支障をきたしそうです・・・

 


聴いて来たコンサート
東京楽友協会交響楽団第116回定期演奏会
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
歌劇「ナブッコ」序曲
エドワード・エルガー作曲
独奏主題による変奏曲 作品36

愛の挨拶作品12(アンコール)
シャルル・カミーユ・サン=サーンス作曲
交響曲第3番ハ短調作品78「オルガン付き」

梅干野安未(オルガン)
橘直樹指揮
東京楽友協会交響楽団

令和6(2024)年3月9日、神奈川、川崎、ミューザ川崎コンサートホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。

コンサート雑感:カラー・フィルハーモニック・オーケストラ第23回演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年3月3日に聴きに行きました、カラー・フィルハーモニック・オーケストラさんの第23回演奏会のレビューです。

また、はしごしたんでしょ!という、ア・ナ・タ。鋭いですねえ。ええ、はしごしちゃいました・・・この日、先日3月10日のエントリに出したオーケストラ・エレティールさんの後、夜のコンサートだったのではしごにしてしまいました。ホールも東急東横線都立大学駅近く(と言っても10分ほど歩きますが)のめぐろパーシモンホールだったことも、はしごにした理由でした。調布から都立大学までであれば、京王と東急で行けますし乗り換えも渋谷を除いてはそれほど大変ではありません(しかし、当日は実は世田谷線利用だったのですが、それについては触れません。因みにそのルートは鉄道動画にて。探してみて下さいネ!)。

カラー・フィルハーモニック・オーケストラさんも以前エントリを立てているアマチュアオーケストラですが、実力があるので今回も行こうと思いました。ただ、直前まで結構悩んだのが、括弧で触れましたが、駅からちょっと歩くんですよね・・・かつてそこには駅名にもなっている東京都立大学があった場所なので、敷地は広大ですが駅からちょっと離れているのです。まあ、健康な人ならなんてことない場所なのですが、リウマチの私にとっては、難儀します。ですが、リハビリのつもりで、しかもカラー・フィルハーモニック・オーケストラさんなので、行こうと決めました。かれこれ5年はめぐろパーシモンホールに来ていませんでしたが、記憶だけでたどり着きました・・・

www.persimmon.or.jp

カラー・フィルハーモニック・オーケストラさんは2014年創設のアマチュアオーケストラ。カラーというのは襟のことではなく色のほう。様々な「カラー(色)」を持つ人たちが集まって音楽を紡ぐという精神をもって活動されている団体です。それはまさに、音楽の基本にたちかえることをも意味すると思います。

colorphil.jimdofree.com

以前ブルックナーを聴きましたが、今回はチャイコフスキーの「悲愴」がメイン。そこに、メンデルスゾーンバルトークが加わっています。アマチュアバルトークというのはある意味冒険である意味逃げなのですが・・・

メンデルスゾーン ルイ・ブラス序曲
バルトーク ヴィオラ協奏曲
チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」

まずは1曲目の「ルイ・ブラス」序曲。ブラスという言葉が入っているのでブラスバンドの曲?と勘違いそうです。実際見事な金管で始まりますので。しかし、この曲はメンデルスゾーンが戯曲に付けた序曲なのです。

ja.wikipedia.org

道理で随分と快活な曲なはずです。カラー・フィルハーモニック・オーケストラさんはこの曲を本当に生き生きと楽しく演奏されますし、また思い切った演奏もします。後期ロマン派を中心に演奏される団体らしさが前面に出ていました。めぐろパーシモンホールの残響の良さを見事に楽器として使い、豊潤な演奏が聴けたのは本当にアマチュアらしからぬことです。

続くバルトークヴィオラ協奏曲。バルトークによって完成はされずティボールによって補筆・完成された曲ですが、バルトークらしい和声・リズムは備わっています。そのせいのか、この曲に関しては演奏において、弦楽器にやせた音が出ていました。なかなか体が使いにくそうです・・・そのあたり、ソリスト佐々木亮氏はそもそもNHK交響楽団の首席ヴィオラ奏者なので、難なく弾いています。オーケストラもそれでも必死に食らいつき、リズムそしてアンサンブルは崩壊しないのですから、やはりその実力の高さを感じます。バルトークのような作曲家の作品は難しいのでアマチュアのレベルの低さをごまかせるのですが、むしろカラー・フィルハーモニック・オーケストラさんの実力の高さを物語る演奏になっていました。

ja.wikipedia.org

そして、メインの「悲愴」。低弦で始まるその弦、そしてダイナミックな演奏。生き生きとした弦楽器は、息を吹き返しやせた音が全くない!すべてのパートが躍動し、体いっぱいを使って、まるで慟哭、悲哀、喜びが入り混じる、作品の魂を掬い取るような演奏。これだけでもプロオケを聴きに行く必要がないと思うくらいの演奏です。しかも、ヴィオラにはソリストN響佐々木氏が入って浮かないのです!それだけで実力の高さが分かろうもの。第3楽章の明るいスケルツォも躍動感満点!それがむしろ、第4楽章の哀しみに打ち震えるような叫びとの対比となり、見事!チャイコフスキーがその人生の最後期に自らの人生を振り返るかのような作品に対する、共感が見られるのです。

なのに、平均年齢はそれほど高くないですし若い人も多く、実際めぐろパーシモンホールにも多くの若い人が足を運んでおりました。やはり、若い人であればあるほど、「共感」というのが一つのキーワードではないかと思います。その共感を、年齢が高い人たちがどれだけしているか・・・そこが、クラシックコンサートにおいて、若い人が足を運ぶかどうかの分かれ目な気がします。

実際、めぐろパーシモンホールは駅からの距離で言えばちょっとだけ離れていますし、駅から目黒通りを渡りますので実距離よりも遠く感じるホールです(しかも、上り坂)。それでも足を運ぶ人が多いと言うことは、それだけカラー・フィルハーモニック・オーケストラさんの実力を知っている人が多いことと、若い人に支持されている証拠だと思います。

こういうオーケストラがあることがあまり知られていないなあと、某SNSのグループの投稿を見ると思います。プロオケだけがコンサートではないんですが・・・日本のアマチュアオーケストラの実力が上がっているというアップデートがなされていないんだなと感じます。その意味ではさらに、私のブログの役割は大きくなっていることを感じています。母校の高校校歌の歌詞にある通り「文化の守り」であるという意識を、これからも持ち続けたいと思いますし、今回のカラー・フィルハーモニック・オーケストラさんの演奏で再認識させられました。次回もまたできるだけ足が運べればと思います。

 


聴いて来たコンサート
カラー・フィルハーモニック・オーケストラ第23回演奏会
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
ルイ・ブラス」序曲作品95
バルトーク・ベラ作曲
ヴィオラ協奏曲Sz120
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
交響曲第6番ロ短調作品74
佐々木亮ヴィオラ
金山隆夫指揮
カラー・フィルハーモニック・オーケストラ

令和6(2024)年3月3日、東京、目黒、めぐろパーシモンホール大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。

東京の図書館から~府中市立図書館~:ブクステフーデ カンタータ集2

東京の図書館から、前回と今回の2回シリーズで、府中市立図書館のライブラリである、ブクステフーデのカンタータ集を取り上げていますが、今回はその第2回目となります。

ブクステフーデのカンタータを全部・・・と言いたいところなのですが、第2集が抜けており、実はこれは第3集となります。ですが、この第3集、結構興味深い内容です。おそらく、バッハのカンタータを聴きなれている人だと、これはバッハだ!と叫びたくなると思います。

収録されているカンタータは以下の通り。ブクステフーデのカンタータはブクステフーデ自身は「カンタータ」と名付けていないことを付言しておきます。BuxWVとはブクステフーデの作品の整理番号です。

声楽コンチェルト BuxWV77 BuxWV46 BuxWV39 BuxWV79
コラール楽曲
アリア
混合       BuxWV51

なんと!コラール楽曲とアリアに属するものがなく、声楽コンチェルトもしくは混合(声楽コンチェルトとコラールなどいくつかの様式が混在しているもの)というカテゴリのものしか収録されていません。そして、ウィキペディアで「カンタータ」と記載があるものはBuxWV77、BuxWV46、BuxWV51、BuxWV39の4つであり、BuxWV79はコンチェルトとの記載です。これから見いだされるのは、カンタータという名称を使い始める時期の作品であろうと言うことです。ウィキペディアには成立年の記載がないので断定はできませんが、バッハに似た様式を持つことを考えれば、かなり晩年の作品と考えてもいいのでは?と思います。

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その意味では、バッハはすでにアルンシュタット赴任の時期あたりから、ブクステフーデのカンタータの強い影響の下自身もカンタータを作曲し、発展させていったことが明確です。バッハはブクステフーデの後任とまでは行きませんでしたが、それでもブクステフーデが勝つ栗した様式の継承者だとはっきり言えましょう。アルンシュタット、あるいはそのあとのミュールハウゼンの作品も私は聴いていますが、実にブクステフーデのカンタータに様式的に似通っています。それは、ブクステフーデがいかに当時偉大な作曲家であり、影響力が強かったかを意味します。勿論、バッハ自身の傾倒もありますが。

こうなると、恐らくこの曲集はトン・コープマンアムステルダム・バロック管弦楽団との全集でしょうから、全部聴いてみたいという欲求がふつふつと湧き上がってきます。ハイレゾでありやなしや・・・ちょっと調べてみたいと思います。というのも、指揮者コープマンのタクトは、演奏者にのびのびと謳わせていますし、その自然さゆえに曲が持つ魂が、聴き手に迫ってくるのです。朴訥な演奏ながら、ソリストの声楽も自在ですし自身の共感も伝わってきます。

ソリストたちも、実は今後取り上げますが、バッハのカンタータ全曲演奏に携わっている人も多いですし、さらに言えば、バスのペーター・コーイと言えば、バッハ・コレギウム・ジャパンの初期において、ソリストを務めた人でもあります。私もBCJのCD、あるいはコンサートにおいて、何度その美声に酔いしれたことか・・・今や、その位置に日本人の加耒徹氏が座るようになり、時代は移り変わりましたが・・・それでも、やはりペーター・コーイの太く且つ美しい声は、清廉な印象を受けます。

バッハ以前の作曲家なんて!と思うなかれ。ブクステフーデのその革新性は、バッハを聴きますと際立ちます。バッハが好きな人なら、確実にブクステフーデのカンタータの魅力に気が付くのではと思います。まずは図書館で借りてみて、気に入ったら購入するという使い方も、図書館の使い方として有効だと思います。税金だけで使えるのですから、使い倒さなければもったいないですよ!

 


聴いている音源
ディートリッヒ・ブクステフーデ作曲
何ものも私たちと神の愛を引離すことはできない BuxWV77
あなたたち愛するキリスト者よ、喜べ BuxWV51
私はこの世を去って BuxWV46
主よ、私はあなただけをもち得るなら BuxWV39
すべての人よ、いま神に感謝せよ BuxWV79
バルバラ・シュリック(ソプラノ)
モニカ・フリンマー(ソプラノ)
マイケル・チャンス(アルト)
クリストフ・プレガルディエン(テノール
ペーター・コーイ(バス)
ハノーヴァー少年合唱団
トン・コープマン指揮
アムステルダム・バロック管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。

東京の図書館から~府中市立図書館~:ブクステフーデ カンタータ集1

東京の図書館から、今回と次回の2回に渡り、府中市立図書館のライブラリである、ブクステフーデのカンタータ集を取り上げます。

ブクステフーデはドイツの作曲家です。バロック期に活躍し、バッハもその音楽を学んだ一人です。

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実際、バッハはブクステフーデを訪ねており、カンタータやオルガン曲はブクステフーデの影響を強く受けています。それだけ、当時ブクステフーデは偉大な作曲家だったわけです。

そのブクステフーデが作曲したカンタータを収録しているのが今回ご紹介するアルバムなのですが、カンタータと言っても当時はその呼び名はなかったようで、単に会衆が声を合わせて歌うものをさしたようです。1曲はいくつかの章から成っているのはバッハと一緒ですが、バッハほど手が込んでいないのは確かだと思います。

だから取ってブクステフーデのカンタータはさして重要ではないのかと言えばそうでもありません。題名を見ているとバッハに受け継がれているものもたくさんあります。例えば、この第1集で言えば、5曲目に収録されている「主に新しき歌を歌え」がそれです。バッハも同名のカンタータを書いています(第190番)。さらに言えば、この題材はメンデルスゾーンも引き継いで、オラトリオ「エリア」で採用されています。

それだけ、ブクステフーデはドイツにおいて、音楽の租とも言うべき地位にある作曲家だと言えます。ドイツ音楽と行った時交響曲がやり玉にあげられ、声楽曲は出てこないことが多いのですが、ベートーヴェンだけがドイツ音楽ではないのです。それは実際メンデルスゾーンベートーヴェンではなくバッハ、そしてその源流であるブクステフーデに題材をとったことが何よりの証拠なのです。

ブクステフーデのカンタータはおおむね声楽コンチェルト、コラール楽曲、アリアに分けられるようです。この第1集の楽曲はそれぞれ以下の通りの分類になります。なお、BuxWVというのはブクステフーデの作品の整理番号で、バッハで言うBWVと一緒です。

声楽コンチェルト BuxWV44 BuxWV12
コラール楽曲   BuxWV29
アリア      BuxWV72 BuxWV56

あれ?43が抜けてますね?ウィペディアによれば、この作品は偽作となっています。あまり私は違和感を感じませんでしたが、一つ指摘すれば、かなり明るく派手目な作品であることは確かです。それがブクステフーデらしからぬと言えばそうかもしれませんが・・・何とも言えません。ただ、ブクステフーデのカンタータには音で圧倒するような作品が、少なくとも第1集にはBuxWV43以外には見受けられないのは事実です。ただそんな理由で偽作という判断がされるわけはないはずなので、他の理由があって偽作の判定がなされたものと思います。

このアルバムの演奏はトン・コープマン指揮アムステルダム・バロック管弦楽団、ハノーファ少年合唱団なのですが、録音は1987年。今から30数年前です。ブクステフーデが再評価され始めたのは最近ですから、まだ研究が進んでいない段階で収録されたと考えていいでしょう。それも、このコンビは実はブクステフーデの作品をすべて収録しているのですが・・・とりあえず、ブクステフーデのものとされているものは全て収録しようという意図だったと思われます。収録された後に偽作判定されたとすれば、このように混在したのは当然だったと言えるでしょう。それにしても、BuxWV43だって、見事な作品です。おそらく、バッハの偽作と同じように、ブクステフーデの名をかたるほうが都合がよかった人の作曲でしょう。だからと言ってさげすんではなりません。むしろその名をかたらないと発表できないような閉鎖性があった可能性も否定できないのですから。

ブクステフーデ自身は開かれた人でしたし、当時の名だたる作曲家たちとの交流もありました。ですが一方で、名声を得るということはそれだけ閉鎖的な部分がでてくることもしばしばです。ブクステフーデに閉鎖性があったようなことは証拠がありませんが、取り巻きが忖度してという可能性は否定できないんですよね・・・それと、ブクステフーデが閉鎖的でなかったとしても、当時の音楽界が閉鎖的であれば、ブクステフーデの名をかたればそれだけ売れます。ブクステフーデががその名をかたることを許可した可能性も否定できませんし。そうでないと若い才能が埋もれる可能性もあるわけです。それだけ、ブクステフーデが生きた時代は若い才能が必ずしも正当に評価されないこともあります。もし仮にBuXWV43がバッハの作であったとしても不思議はないと思います。バッハ当時アルンシュタットが任地で、休暇を取ってブクステフーデに会いに行っていますが、ブクステフーデから吸収しアルンシュタットに帰り、ブクステフーデ風に書いたら評判が悪かったという記録も残っています。なら、他の土地でブクステフーデの名で残しておくという方法を、ブクステフーデとバッハが採用した可能性だって否定できません。仮にバッハの作だったら、ですが・・・もちろん、バッハによる偽作であるとされているわけではなく、あくまでも私の推測に過ぎません。

恐らく、コープマンも、偽作の疑いがあるとしても、その作品のレベルの高さを評価してこの第1集にいれたのでしょうし、演奏を聴いていても、のびのびと歌われており、かつ堂々としています。他の作品に対しても、ブクステフーデが持つ素朴さが朗々と歌われています。バッハに比べて素朴であるからこその魅力がブクステフーデにはあるように思います。バッハよりも古いからこその質素さと、それゆえの素朴さが、見事な芸術として結実していますし、その芸術を味わっている様子が聴いていて演奏から聴き取れます。こういった表現はさすがプロでしょう。ブクステフーデという作曲家の再評価にコープマンが貢献したのだとすれば、当然の結果だと言えましょう。

 


聴いている音源
ディートリッヒ・ブクステフーデ作曲
手をたたいて喜べ BuxWV29
私の心は喜びに溢れる BuxWV72
エスの甘き思い出 BuxWV56
私は甦りである BuxWV44
主に新しき歌を歌え BuxWV12
今日神の子は勝利なさった BuxWV43
バルバラ・シュリック(ソプラノ)
モニカ・フリンマー(ソプラノ)
マイケル・チャンス(アルト)
クリストフ・プレガルディエン(テノール
ペーター・コーイ(バス)
ハノーヴァー少年合唱団
トン・コープマン指揮
アムステルダム・バロック管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。

コンサート雑感:オーケストラ・エレティール第69回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年3月3日に聴きに行きました、オーケストラ・エレティール第69回定期演奏会のレビューです。

オーケストラ・エレティールは東京のアマチュアオーケストラです。1988年に東京電機大学のOB達が中心になり、共演経験のある他大学のメンバーも入って設立された団体です。

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少子高齢化が進む我が国において、このように1大学だけで集まるのではなく、広く人材を集める姿勢を、1988年という時点ですでに持っていることが驚きです。その時点で少子高齢化を考えていたかはわかりませんが、どんな理由であろうとも、結果的には開かれた姿勢が現在の結果を作っていると、演奏を聴いて感じています。

それは、何と言っても、その実力の高さです。特に、弦楽器。全くやせた音がないだけでなく、圧巻の表現力です。ppからffまでのダイナミクス、それが生み出す「歌」。アマチュアオーケストラとは思えないくらいです。体をよく使った演奏も、その表現の幅の大きさにつながっているのだと思います。

そんなオーケストラ・エレティールさんですが、私は聴くのは初めてです。今回足を運んだ理由は、メインがスメタナの連作交響詩「わが祖国」だったから、です。

「わが祖国」は全体で70数分かかる曲です。令和に入って、「わが祖国」が取り上げられる機会が増えたように思います。そして、今年はスメタナ生誕200年、没後140年だそうで、いわばスメタナ・イヤーです(ちなみに、実はベートーヴェンの第九初演200年にもあたり、スメタナベートーヴェンの第九初演の年に生まれた人だったと言えます)。

「わが祖国」と言えば、毎年5月にチェコプラハで行われる「プラハの春」音楽祭で初日に演奏され、チェコ大統領が臨席されることでも有名です。私も、クーベリックチェコ・フィルに復活して振った「わが祖国」の演奏をNHK・BSで見たのを思い出します。その時も、当時の大統領ハベル氏が臨席されたことは思い出深い出来事です。

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オーケストラ・エレティールさんは常設の音楽監督は置かず、自主運営でその都度指揮者を選任するという形を取っているようです。今回は小森康弘氏。実はこの方、東京芸術大学で師事したのが小林研一郎。その小林研一郎は、2002年の「プラハの春」音楽祭で「わが祖国」を東洋人として初めて指揮しています。しかも、担当オケはホスト役であったチェコ・フィルハーモニー管弦楽団。その時、小林氏はチェコ・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督だったのです。学生だった小森氏はプラハまで行って小林氏の指揮をその場で聴いたそうです(今回のコンサート前に言及されておりました)。結構こういうことは音楽をやっているとありまして、私自身も、アマチュアながら入っていた宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」音楽監督だった故守谷弘の、「飛翔」以外の演奏に付き合ったものです。彼の自作の作品「北のシンフォニー」初演のために室蘭まで行きましたし、毎年伊東で行われる「按針祭」に合唱団員として何度も参加いたしました。小森氏も同じようにお付き合いをしたのだなあと思います。そりゃあ、それがチェコ・フィルでプラハのルドルフィルムなら、お金があるのであれば行きたい!と思うのは当然だと言えます。

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恐らく、オーケストラ・エレティールさんがそんな小森氏に白羽の矢を立てたのだと思います。今回のプログラムを見れば、あ!と思われる方も多いかと思います。

スメタナ 歌劇「リブシェ」序曲よりファンファーレ
チェコ国歌
スメタナ 「わが祖国」

①と②は当日発表だったのですが、これ、実は「プラハの春」音楽祭で「わが祖国」が演奏されるときと全く一緒のプログラムなんです!以下はまさに、2002年の「プラハの春」音楽祭、小林研一郎指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏のYouTube。「リブシェ」序曲のファンファーレの後、チェコ国歌が奏され、そのあとに「わが祖国」が演奏されています。「リブシェ」のファンファーレの時には、当時の大統領、ハベル氏の臨席も見えます。

www.youtube.com

 

今回の演奏会では、チェコ大統領の臨席は当然なかったのですが、できればチェコ大使の臨席もあっても良かったかなという気はしました。大使が恐れ多いと辞退した可能性はありますが・・・ですが、大使とは相手国における自国の代表です。チェコであれば、大統領の名代とも言えますので、できればチェコ大使の臨席が、このプログラムであればあっても良かったかなと思います。「わが祖国」を演奏するという場合には、他の団体だとチェコ共和国大使館の協賛が在ったりします。今回は諸事情で協賛が取れなかった、あるいはその判断をしなかったと考えられます。

この「リブシェ」を入れるというのは、実は私自身も、某SNSで主宰していた「ネット鑑賞会」でやっています。チェコ国歌の音源がなかったのでチェコ国歌を入れず、その代わり「リブシェ」序曲全曲にしています。このアイデア、実は亡きマイミクさんのアイデアでもあります。私が借用したのでした。

オーケストラ・エレティールさんの演奏は、府中市交響楽団さんの時とは異なり、自分たちの「歌」が最初から徹底されていたという点です。チェコ・フィルをまねるのではなく、自分たちの実力を信じて自分たちを歌を歌うことが徹底されていました。実は、第2曲「ヴルタヴァ」は私好みの少し速いテンポではなく、比較的ゆったり目のテンポで、それほど好きではないテンポなのですが、しかし聴いているうちに自分の魂から湧き上がってくる感動や喜びが分かるのです!それははっきりと演奏に説得力があることを示しています。プロオケではなく、アマチュアオーケストラで説得力のある演奏が聴けるとは!

しかも、独特なこともやっており、それはトロンボーンが4本だったこと。前半の3曲、「ヴィシェラフト」~「シャールカ」まではトロンボーンが4本なのですが、後半の「ボヘミアの森と草原より」~「ブラニーク」はトロンボーンが3本なのです。ウィキペディアによればトロンボーンは3本という記載がありますし、通常はどんなオーケストラ曲でも3本です。それをあえて前半は4本、後半を3本にしたのは、特に後半2曲「ターボル」「ブラニーク」にコラールが使われていることを念頭に置いたものだと想像できます。これだけでもアマチュア離れしています。

その意味では、ホールが調布グリーンホールだったことは、ちょっと残念に思いました。仮にこれが、府中の森芸術劇場どりーむホールだったら・・・と思いましたし、あるいは三鷹市芸術文化センター風のホールであったら・・・と。まあ、府中の森芸術劇場どりーむホールは当日日本フィルが使っていたので無理だったのですが。


その高い技術により自分たちの歌を歌うと言うことがなぜ実現できたのかを想像するとき、やはり創設時に東京電機大だけで固まるのではなく当時交流のあった白百合女子大実践女子大も巻き込んだからと言えるのではないかと思います。中央大学管弦楽団が、中央大学だけでなく周辺の大学の学生を受け入れて、少子化に対応し裾野を広げているのと一緒です。クレセント・フィルハーモニー管弦楽団中央大学管弦楽団と協働しているのとも一緒です。中央大学管弦楽団もクレセント・フィルハーモニー管弦楽団も近年急速に力をつけてきており、同じ現象が起こっていることを考えると、むしろオーケストラ・エレティールさんが模範を示し続けてきた成果が、中央大学管弦楽団やクレセント・フィルハーモニー管弦楽団という中央大学の関連で花開いているのではと思います。実際、当日も若い学生オケと思しき人たちの姿も大勢見かけました。

プロオケの演奏会に老人しか見かけないと嘆く向きが多いのですが、一方でアマチュアオーケストラに目を向けてみると、何と多くの若人が聴きに来ていることか!私たちクラシック・ファンが高いレベルをもとめることはいいことですし実際私もそうなのですが、しかしどれだけの人が若い人の成長を見守っているだろうかという気はしています。お金があるのでついプロを聴きに行くのでしょうが、そのお金の半分でもアマチュアに使えば、3倍程度クラシック音楽のコンサートに足を運べます(ひいては、それが公共交通の維持につながります)。プロオケを聴きに行きそだてることも大事なのですが、少子高齢化を考えた時、プロだけなくアマチュアも育てる必要があるように私は思います。

そのため、私は今後もアマチュアオーケストラの演奏会に足を運び続けたいと思います。スメタナが「わが祖国」という曲に託したチェコという国の未来を考えた時、私自身がクラシックファンととして同じようにできることは何だろうかと、強烈に考えさせられた演奏でした。今後も、できるだけオーケストラ・エレティールさんの演奏会に足を運びたいと思います。時には、中央大学管弦楽団を助けてもらえると、卒業生としては嬉しいです!

 


聴いて来たコンサート
オーケストラ・エレティール第69回定期演奏会
ベドルジハ・スメタナ作曲
歌劇「リブシェ」序曲よりファンファーレ
チェコ国歌
ベドルジハ・スメタナ作曲
連作交響詩「わが祖国」全曲
小森康弘指揮
オーケストラ・エレティー

令和6(2024)年3月3日、東京、調布、調布グリーンホール大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。