神奈川県立図書館所蔵CD、モーツァルト全集からピアノ・ソナタを取り上げていますが、今回はその第4回目。第12番〜第14番を取り上げます。
が、この4つ目では、幻想曲K475が入っています。これは全集の内この第4集だけです。
モーツァルト全集では、クラヴィーア曲に関しては、ピアノ・ソナタとそれ以外で分けられています。にも関わらず、K475だけはピアノ・ソナタの項に入れられたのです。
バロック時代から古典派に掛けては、ある作品に対しその導入としての作品が作曲されることがあり、モーツァルトも幻想曲に関しては同様の扱いをしていたようです。そしてその傾向が一段と強いのが、K475なのです。
ピアノソナタ第14番 (モーツァルト)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF%E7%AC%AC14%E7%95%AA_(%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88)
幻想曲と言えば、もっと有名なのがK397なのですが、それを入れずむしろK475を入れて、そしてアタッカの様に第14番K457へと突入していくのは、内田さんが2曲を一体と考えているということになります。
勿論、二つの作品が初めから一対で作曲されたわけではありません。しかし、モーツァルトが一対で出版していることから、作曲されたタイミングは異なりますが、一対で考えていた証拠でもあります。
ただ、一対とは言え、幻想曲はともすればギャラント風なのに対し、第14番は短調でしかも第1楽章はまるで嵐のようです。第12番から第14番までを作曲した時期というのは、モーツァルトがウィーンへ出て、またコンスタンツェと結婚した時期とも重なり、幸せな時期なのですが、年表を見て目に飛び込んでくるのは、1783年に長男を亡くしていることです。
長男亡くした年に作曲されているのが、この第4集では第12番と第13番であり、ともに明るく、すでにギャラント様式から脱却しつつあり、新しい様式を確立していく気風に富んでいますが、長男を亡くしてしばらくたった時期に作曲された第14番は、すでにベートーヴェンの香りがします。ベートーヴェンが強い影響を受けたのがこの第14番だといわれていますが、まさしく現代の聴き手にはベートーヴェンを彷彿とさせるに十分な内容を供えています。
ピアノソナタ第12番 (モーツァルト)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF%E7%AC%AC12%E7%95%AA_(%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88)
ピアノソナタ第13番 (モーツァルト)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF%E7%AC%AC13%E7%95%AA_(%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88)
つまり、ここで跳躍が起きていて、時代が一気に後の時代に近づいたようになっているのです。
そもそも、モーツァルトはピアノ・ソナタを作曲し始めた時から短調を多用しており、自らの気持ちを素直に出すツールとして使っているようにも思われます。だとすれば、当時のいろんな哀しみを、第14番を作曲した時点で爆発させたのかもしれません。
しいて言えば、第12番の第1楽章には転調部分で短調が使われていますが、それだけではモーツァルトの気持ちが素直に出されているとは言いがたいように思います。ただ、出したいんだけれども・・・・・・という気持ちが第14番の時点になって、ようやく素直になれたとすれば、やはり長男の死がそこに影響しているといえるのかもしれません。
明るい曲が多いモーツァルトが短調の作品を書くとき、それは彼の気持ちを強く反映しているというのが学者の共通認識ですが、その立場に立てば、明らかに何らかの気持ちの吐露であるのですが、タイミング的にずれているということはなぜなのかを考える時、それはモーツァルトに生涯の伴侶が見つかったという点にこそ、見出せるでしょう。
ベートーヴェンも自分の気持ちをストレートに出すツールとしてピアノ・ソナタを作曲し、しかも実験的なことまでやりましたが、それはモーツァルトに範を取ったのだなということがよく分かる作品だと、第14番は言えるでしょう。でも、それをあまり知られたくないシャイなモーツァルトは、バロック期にならい、幻想曲を作曲した・・・・・
だとすれば、内田さんが音楽史にのっとって、幻想曲K457を第14番の前に持ってきたのは、至極自然なことであるといえるでしょう。
それにしても、ギャラント風の優雅で天国のようなのんびりとした雰囲気と短調の嵐のような部分とを、明確に弾きわけているのは見事だといえます。そのコントラストが聴き手をぐいぐいと引き込みます。非常に端正な演奏でありながら、ドラマティックさをも兼ね備えているのは、私は名演と言えるだろうと思います。
聴いている音源
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲
ピアノ・ソナタ第12番ヘ長調K.332(300k)
ピアノ・ソナタ第13番変ロ長調K.333(315c)
幻想曲ハ短調K.475
ピアノ・ソナタ第14番ハ短調K.457
内田光子(ピアノ)
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
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