かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:ラスベート交響楽団第47回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年7月7日に聴きに行きました、ラスベート交響楽団の第47回定期演奏会のレビューです。

ラスベート交響楽団さんは東京のアマチュアオーケストラです。「ラスベート」とはロシア語で「夜明け」を意味するそうで、1999年に創立されたことから新世紀を意味したそうです。

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過去の演奏会のプログラムを見てみますと、ロシアの作曲家と言うよりは、ロシアの作曲家を中心にしながらもこだわらずという印象があります。ロシアの特殊性という現在のロシア大統領が主張することよりはむしろロシアのクラシック音楽のヨーロッパとのつながりという意識のほうが強いような選曲です。しかも、ロシアと言えばチャイコフスキーが特に有名ですが、むしろあまり有名ではない作曲家に焦点を当てているのが特徴です。主にグラズノフで、そこにカリンニコフやボロディンという名前が並びます。そこにたまにチャイコフスキーラフマニノフが入ってくるという感じです。そもそも、ロシア国民楽派の勃興もドイツロマン派やフランス共和制の影響を多分に受けて成立していますし、いい視点を持っているオーケストラだと思います。

今回のプログラムは以下の通りでした。

①ディーリアス 幻想曲「夏の庭で」
グラズノフ ヴァイオリン協奏曲
ラフマニノフ 交響曲第3番

まあ、現在のロシアであれば取り締まりを受けるような選曲です。つくづく日本に生まれて良かったと思う瞬間です。また、第1曲目がディーリアスというのも、アマチュアオーケストラらしいなあと思います。プロオケならマイナーな作曲家かつマイナーな曲であることから収益性が低いため避ける曲ですので。

「夏の庭」はディーリアスが1908年に作曲した幻想曲です。かれがその生涯のうち若き日に経験したキャリアの中で接した音楽の影響がふんだんに盛り込まれつつ、独創性にあふれたまさに「夏の風物詩」のような作品であることも魅力。その魅力を存分に引き出す指揮者と応えるオーケストラ。そしてそのレベルの高さ。このオーケストラもまたやせた音が散見されないレベルの高いオーケストラです。この第1曲目を聴くだけで、プロオケだけ聴いていると日本のオーケストラの真の実力と裾野の広さは分からないという典型例です。

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2曲目はグラズノフのヴァイオリン協奏曲。実はこのグラズノフが入っていたことが、このオーケストラを聴きに行きたいなと思った理由の一つです(もう一つはホールが自宅から近い武蔵野市民文化会館だったことです)。1904年に作曲された作品で、3楽章から成りますが連続して演奏されます。第2楽章は主にカデンツァという様式になっていることも特徴的。なので聴いているとあれ~カデンツァに入ったけれど楽章の分け目はどこ?と一瞬思ってしまいますがしかしそこで音楽がガラリと変わっているのでああここなのか!と後からわかるというちょっと癖のある作品。ソリストの丹羽さんはプロの演奏家ながらこのラスベート交響楽団さんのコンサートマスター兼トレーナーをやられているそうで、オーケストラのレベルの高さはこういう人が普通に混じっていることなのか!とわかります。倍音を聴かせる曲であるせいか多少その部分で力不足の点がソリストにはありつつも、オーケストラには全くやせた音が見受けられないのが唸ります。生命力は存分に表現されており、グラズノフがいかに意欲的な作品を生み出したのか、そしてその魂を掬い取っているかが明確な演奏でした。

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そして、最後のラフマニノフ交響曲第3番。なぜかラフマニノフ交響曲第2番はよく演奏されるのですが、第3番はあまり演奏されない曲なので、これも聴きどころだと思っていましたが、この演奏も生命力があって素晴らしい!金管ダイナミクスも安定しつつ力強く美しく、音楽の美しさとその内面性がしっかりと表現されていたのも魅力的。1936年に完成した作品なので、戦争の影なども影響しているのか、3楽章形式を取っていますが、その3楽章というのが意味するものを、譜面から掬い取ったかのような演奏は見事でした。

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会場の武蔵野市民文化会館は大ホールが多目的ホールなので決して響きのいいホールとはいいがたいのですが、しかし他の多目的ホールに比べますといい響きを持っているホールだと思います。そのホールを見事に楽器に変えるオーケストラの実力の高さも光ります。デッドな部分の影響があまり見られないんです。それは演奏自体のレベルの高さ、そして演奏に込める団員の想いが詰まっている故ではないでしょうか。やはり気持ちが乗っているというのはホールの状況を簡単に乗り越えていくものなのです。これがアマチュアオーケストラを聞く醍醐味でもありますし、また有名曲が並ぶプロオケでは楽しめない曲目の意外性も楽しみの一つです。アマチュアオーケストラを聞く意味というものを改めて思い出させてくれる、素晴らしいオーケストラだと思います。グラズノフ交響曲ツィクルスをやっても面白いだろうなと思わせるオーケストラだと思います。今後もチェックし続けたい団体です。

 


聴いて来たコンサート
ラスベート交響楽団第47回定期演奏会
フレデリック・ディーリアス作曲
幻想曲「夏の庭で」
アレクサンドル・コンスタントノヴィチ・グラズノフ作曲
ヴァイオリン協奏曲イ短調作品82
セルゲイ・ヴァシリエヴィチ・ラフマニノフ作曲
交響曲第3番イ短調作品44
丹羽道子(ヴァイオリン、コンサートマスター
小久保大輔指揮
ラスベート交響楽団

令和6(2024)年7月7日、東京、武蔵野、武蔵野市民文化会館大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。