コンサート雑感、今回は令和7(2025)年8月28日に聴きに行きました、女声合唱団サーナ・テクセレの第5回演奏会のレビューです。
サーナ・テクセレは声楽家加耒徹さんが設立したアマチュア女声合唱団です。
https://sanatexere.jimdofree.com/sana-texere%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
過去2回、第3回と第4回を聴きに行っています。
よほど気に入っているのですね!という、ア・ナ・タ・。勿論気に入っているからですが、なおかつこの合唱団には知人が参加しているということもあるのです。今回もその知人が参加しているので足を運びました。また3年連続で地元小金井市の小金井宮地楽器ホールということもあります。
今回は「日本×ドイツ声楽曲の夕べ」と題し、日本語とドイツ語の作品が演奏されました。
①加藤昌則 同声合唱曲「あしたのうた」
②シューベルト 詩篇23番
③ブラームス 4つの歌
④ヘンデル オンブラ・マイ・フ
⑤シューベルト 流れの上で
⑥シューベルト セレナーデ
⑦信長貴富 女声合唱とピアノのための「くちびるに歌を」
クラシックファンの方だとオンブラ・マイ・フくらいしかなじみがないと思いますが、合唱を長くやれらていた方だとメインの曲名でなぜそんな難しい曲を?と思った方いらっしゃるかもしれません・・・私も聴いてびっくりした曲です。これだけでも意欲的な合唱団なのですよね。
①加藤昌則 同声合唱曲「あしたのうた」
ピアニストでもある加藤昌則氏が声楽家宮本益光さんの詩に作曲した作品で、シンフォニーヒルズ少年少女合唱団から委嘱されました。初演は2007年3月25日、葛飾シンフォニーヒルズモーツァルトホールにて宮本益光指揮加藤昌則氏のピアノ、シンフォニーヒルズ少年少女合唱団に寄ります。初演は混声合唱ですが同声、つまり男声でも女声でも歌える作品となっています。その後歌曲集となりそちらでは多くの詩人も加わり現在では13曲の作品となっており、第9~13曲がこの曲に当たります。
小学生でも歌える曲なので簡単でしょと思うなかれ。そういう曲ほど粗が出るので要注意。まずは簡単な曲で喉ならしと言ったところですがそこで気を抜くと悲劇が待っています・・・今回はそういう悲劇もなく安定した歌唱でノビノビ歌っていらっしゃいました。この辺りはそもそも指導し指揮もされている音楽監督である加耒さんがそもそもバリトン歌手であるということが有利に働いていると思います。おそらくですが練習中に歌いながら「こう表現してほしい!」という指導がなされていることと感じます。
②シューベルト 詩篇23番
シューベルトは歌曲のみならず合唱曲も数多く作曲しています。シューベルト自身が聖歌隊に所属していたことで歌曲よりは合唱にゆかりがある人ならでは。しかしなかなかCDがないのがさみしい・・・宗教合唱曲も多くこの詩篇23番のその一つ。1820年に作曲され、そもそもはピアノ伴奏ですが今回はハープで演奏されました。
合唱は本来混声なのが女声に。そこにハープという変更も加わった今回の演奏は、まるで天国にいるみたい・・・詩篇23番は葬式用ではないのですが西欧では葬儀で演奏されることも多いそうで、そこを意識したのかもしれませんが、その天上の音楽は本当に美しいものでした。むしろハープのほうがいいのではと思うくらい・・・指導者の要求に応える合唱団と、指導力ある指導者故の演奏でした。
③ブラームス 4つの歌
ブラームスも合唱曲を数多く書いている作曲家の一人で、特にアマチュア向けの作品が多いことでも知られています。ブラームス27歳の時に書かれたのが「4つの歌」です。ハープと2つのホルン、女声合唱のための作品。つまりこの作品の演奏にはホルンも加わっていることになります。
今回ホルニストは信木碩才さんと松原秀人さんの二人。ハープは太田咲耶さん。シューベルトで天上の音楽を奏でたハープにさらにホルンが2つ入ると、朗々と音楽が鳴り響きつつそこにふわっと天国が現出するような音楽に。美しい女声が加わると気品もあります。ちょうどピアノ協奏曲第1番を作曲しその評価が低かったことで失意の底にいたブラームスが、希望を見いだすかのような作品ですがとにかく美しい・・・清潔な声がブラームスが音楽に見いだしていた希望を歌い上げているように聴こえました。
④ヘンデル オンブラ・マイ・フ
このヘンデルから後半。まずはソリストの歌曲から始まります。ヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」はオペラ「セルセ」の中の有名なアリア。声楽パートはオペラではソプラノのカストラートが歌っていますが現在は様々なパートで歌われます。
今回はアルトの杉山由紀さん登場。杉山さんは本当に表現力ある人で、今回もまさにオペラで愛を歌い上げるそのものを表現していて聴いているこっちもうっとり・・・やはりプロは違いますね~。サーナ・テクセレさんだとこのような合唱だけではなくソリストの舞台もあるのが魅力的。伴奏はピアノで尾藤万希子さん。第1曲目と第3曲目でも、感情豊かなピアノとまたご自身の表情も素晴らしい!今回到着がギリギリでホール最前列で聴いたのですが、お顔がしっかり見えるのはいいですね~。普段は最後列を選ぶのですが、小金井宮地楽器ホールだと最前列もありだなと思います。はやり一応多目的ホールなので残響という意味では短いので・・・ですが最前列だとお顔の表情も味わえて残響もそれなりにあるので、大満足です。
⑤シューベルト 流れの上で
シューベルトの「流れの上で」は1828年に作曲された歌曲です。普通はバリトンで歌われます。ということは・・・指揮者の加耒さんが今回歌われました。
また、ここでもホルンが登場し、今度は一つだけ。松原さんがホルンを担当、そこにピアノも伴奏に加わります。内容は恋歌なのですが、そのレルシュタープの詩がまるで野原の咲く花のよう・・・でも実は大海を吹き抜けていくというものなのですが。ですが海が見えずそこにいるはずの彼女に想いを馳せる内容なので、むしろ陸への憧れが反映されているように思います。それがホルンが入っているということだと思いますし、その情念を情熱をもって歌い上げるのは、さすがバッハ・コレギウム・ジャパンにも参加されている加耒さんならではの表現力でした。たまには歌曲のリサイタルに足を運んでもいいなあと思わせてくれます。
⑥シューベルト セレナーデ
シューベルトのセレナーデと言って、何を想像されるでしょうか。普通は歌曲の方を想起されるのではないでしょうか。ですが実は合唱曲も存在します。1827年の作曲でアルト独唱と合唱、ピアノという編成で、第1稿が男声合唱、第2稿が女声合唱となっています。今回は勿論第2稿。情熱的かつ清潔感もある杉山さんの歌唱に、合唱団も負けていません。前回まで散見されたぶら下がり気味の発声はほとんどここまで聴こえておらず、このセレナーデでも同様。普通ソリストと張り合おうと頑張りすぎることもアマチュアではありますが、頑張りすぎず集中力でアンサンブルできており、いい塩梅。指揮者が加耒さんなのでフレージングもしっかり。ゆえに本当に豊かな歌なんです。これがピアニストが指揮者だとフレージングが・・・ゲホンゲホン、誰か来たようです。
⑦信長貴富 「くちびるに歌を」
「くちびるに歌を」は、2005年に男声合唱団東海メールクワイヤーから創立60周年記念として委嘱された作品です。その後2007年に混成版が、2011年に女声版が出版されました。特徴なのが、歌詞がドイツ語と日本語が混ざっているという点です。作詞はドイツの葬送たる詩人たち、ヘルマン・ヘッセ、ヴィルヘルム・アレント、ライナー・マリーア・リルケ、ツェザー・フライシュレンの4人の詩から採用され、その日本語訳も歌詞の中で同居するという形です。パンフレットに依れば、ドイツ語は「ロマンティックな音像」を導き出し、日本語は「懐深くの情感」を呼び覚ますのが目的とのことです。その二つが同居して音として私たちに迫ってくるのは圧巻ですが、歌うほうとしては意外と難しい作業だと思います。同じ様に見えても異なる二つのものをアウフヘーベンさせるわけなので・・・
しかも、和声は不協和音も多用されている20世紀音楽。21世紀の作品なので当然ですが、そこもまた難しいところです。特に不協和音は声楽だととても難しいところで、しっかり周りの音を聴きあわないと難しいのです。ですがその二つが溶け合い、一つの芸術としてしっかりとこちらに迫り、魂を貫いて行くのは圧巻です。信長貴富さんの作品は難しいものが多い印象がありますが、それをしっかり表現しているのはさすが。本当に不協和音が歌っていて鳴り響くのは頭を使いますので疲れるのですが、難なくやってのけるのはさすが5回という回数を重ねているだけあります。
アンコールとして、宮本益光作詞信長貴富作曲の「うたうたう」が演奏され、体をゆすりながらも歌う姿がいい!それはメインまでも同じなのですが最後もまたそうやって感情を込めて歌うのは本当に素晴らしい!アマチュアオーケストラだとアンコールだけそうするという団体も普通なので・・・できればアマチュアオーケストラでもサーナ・テクセレさんのように体をゆすってでも表現するということをもっとやってほしいところです。特に日本人は体格の問題もあるので余計やるほうが私は演奏にプラスだと思っています。
次回は来年9月に、今度は場所をミューザ川崎に移して、ヘンデルのメサイアを女声合唱でやるというこれもまた意欲的なプログラムです。知人からは来年もぜひと言われており、勿論日程を空けておこうと思います。来年も楽しみです!
聴いて来たコンサート
女声合唱団サーナ・テクセレ第5回演奏会
加藤昌則作曲(宮本益光作詞)
同声合唱曲「あしたのうた」
フランツ・シューベルト作曲
詩篇23番 作品132
ヨハネス・ブラームス作曲
4つの歌 作品17
ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル作曲
オペラ「セルセ」より「オンブラ・マイ・フ」
フランツ・シューベルト作曲
流れの上で 作品119
セレナーデ 作品135
信長貴富作曲(ヘルマン・ヘッセ、ヴィルヘルム・アレント、ライナー・マリア・リルケ、ツェザー・フライシュレン作詞、高橋健二、上田敏、茅野蕭々、信長貴富訳詞)
女声合唱とピアノのための「くちびるに歌を」
うたうたう(宮本益光作詞)
杉山由紀(メゾソプラノ)
信末碩才(ホルン)
松原秀人(ホルン)
太田咲耶(ハープ)
尾藤万希子(ピアノ)
加耒徹指揮、バリトン
女声合唱団サーナ・テクセレ
令和7(2025)年8月28日、東京、小金井、小金井宮地楽器ホール大ホール(小金井市民交流センター)
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。