神奈川県立図書館所蔵CD、モーツァルト全集からピアノ・ソナタを取り上げていますが、今回はその第5回目となります。第15番から第18番までを取り上げます。
この番号も、旧全集に基いていますが、新全集では実際の作曲順で番号を付け直しています。
この旧全集を新全集の番号順に並べると、第18番(第15番)、第15番(第16番)、第16番(第17番)、第17番(第18番)となります(カッコ内が新全集の番号になります)。
その中でも、ひときわ異色なのが第18番でしょう。実は、ピアノ・ソナタとして成立したのは、1788年なのですが、第3楽章は1786年に「ロンド」として単独に作曲されています、その後、第1楽章〜第2楽章が作曲され、「ソナタ」として出版されているのです。
ただ、この異色作は、その2年間、モーツァルトがピアノ・ソナタを作曲していないことを教えてくれます。いや、その前の作品となる第14番とも2年あいています。この時期はモーツァルトの「予約演奏会」が始まった時期に当たり、精力的にピアノ協奏曲を書いている時期なのです。天才モーツァルトも、さすがにピアノ独奏曲を書く余裕がなかったことを意味します。
ソナタというジャンルは、それ以前もそれ以降も、比較的個人的な作品であり、ピアノの専門家でなければそれほど精力的には書かないものです。恐らく、モーツァルトも元々チェンバロの専門家だったこともあり、協奏曲を優先したのだと思います。
バロックから古典派という時代は、何と言っても協奏曲の時代なのです。それこそ、演奏者や作曲家が自分の力量を示す機会でした。ですから、個人的な作品を発表するのは、ないとは言えませんが少なくとも独奏曲をとなると優先順位は低くなる傾向がありました。
それを打開し、変えたのがベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタなのです。モーツァルトの時代まではそこまでたどり着くことはできかなったのです。
それでも、有名なギャラント様式風のかわいく美しい第15番の第1楽章第1主題には、実はよく知られた旋律の後に、短調が含まれており、その転調は見事です。
ピアノソナタK.545
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BFK.545
一応、私は旧全集の番号で述べていますが、本来はウィキの様にケッヘル番号のみで表記するほうがいいのかもしれません。まあ、考えてみれば、第15番だけ他の3つより先に成立しただけで、後は旧全集も新全集も順番は同じだとも言えるわけです。
恐らく、旧全集は完全な形で成立しているものを優先して番号を振っていったのだと思います。そのため、楽章の成立時期が異なるK.545は第18番とされたのだと思います(実際、第3楽章はK.494で、それが先に成立しました)。新全集はその点を是正し、出版でも先となっているので第15番としたのだと思います。
いずれにしても、この4曲が成立した時期は、ピアノ協奏曲が多数作曲されていた時期で、それは生活を成り立たせるためでした。このころの予約演奏会は盛況で、実入りもよかったのですが、モーツァルトの浪費癖もあり、生活は苦しかったといいます。
多分、ベートーヴェンは同じピアニストとして、そしてベートーヴェンの場合は、初めからピアニストとして、生活を成り立たせるにはどうしたらいいのか、考えたうえで32曲のピアノ・ソナタの成立を始めているといえるでしょう。出版を重視しているのがその証拠であり、仮に演奏したとしても演奏者は一人ですから、実入りはモーツァルト以上にいいと想定されるのです(とはいうものの、実際はベートーヴェンもそれほど実入りがよかったわけではありませんでしたが)。
このモーツァルトの4曲は、その後の多くのピアノ曲作曲家の「人生」を決定づける、出発点であったと言えるでしょう。ピアノ協奏曲と比べればギャラントな雰囲気もある作品たちですが、短調への転調が数多くみられるこれらの作品群は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタを準備したというのに十分な内容を供えています。
最期の第17番は1789年の作曲ですが、実際はもう少しモーツァルトは長く生きています。最晩年にピアノ・ソナタが書かれなかったことが、モーツァルトがピアノ・ソナタというジャンルをまだ実験段階だとみなしていたとも言えるでしょう。それでも、この第17番だけは、最もベートーヴェンを準備しているにふさわしい、華麗さと転調の美しさを持っています。
内田さんは、それを淡々と、ここでは殆どリタルダンドせず演奏しています。それは古典派の時代の演奏法のスタンダードですが、それゆえに作品それぞれの特色が、しっかりと浮かび上がり、私たちにしっかりと、モーツァルトのメッセージをはこんでくれています。「僕の実験結果を受け取ってくれたかい?感想を聴かせてもらえたらうれしいな」という、茶目っ気たっぷりのモーツァルトの表情が浮かんできそうです。
聴いている音源
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲
ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545
ピアノ・ソナタ第16番変ロ長調K.570
ピアノ・ソナタ第17番ニ長調K.576
ピアノ・ソナタ第18番ヘ長調K.533+494
内田光子(ピアノ)
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