かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:オーケストラ・チェルカトーリ第1回演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和5(2023)年8月5日に聴きに行きました、オーケストラ・チェルカトーリの第1回演奏会を取り上げます。

オーケストラ・チェルカトーリは、2022年7月にうぶ声をあげた新興のアマチュア・オーケストラです。ホームページはなく、インスタグラムとツィッター(現X)で情報発信していらっしゃる団体です。アカウントは検索してみてください。PCからだとツィッターは表示できますがインスタグラムは表示できないことがありますので、今回は掲示は避けさせていただきます。お手数をおかけしますがご容赦の程、よろしくお願いいたします。

さて、こんな新興のオーケストラをなぜ聴きに行きたいと思ったかといえば、まずは会場が近場(調布市グリーンホール)であったこと、そして指揮者が佐藤寿一氏であったこと、です。コアな読者の方なら、もしかすると中大オケの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんがその通りです。佐藤氏はオーケストラの音楽監督ではなく今回客演だったようですが、佐藤氏がタクトを振るのはワクワクするなと思い、足を運んだのです。

プログラムは以下の通りです。

①リスト ハンガリー狂詩曲第2番(フランツ・ドップラー編曲版)
小山清茂 管弦楽のための「信濃囃子」
ドヴォルザーク 交響曲第8番

リストの「ハンガリー狂詩曲」はもともとピアノ曲ですが、いくつかのオーケストラ版が存在します。その中でも特に有名なハンガリーの作曲家で指揮者であったドップラーが編曲したものが演奏されました。冒頭の金管を聴いた途端、「このオケはただ者ではない」と判断しました。堂々と安定した音!朗々とホールいっぱいに響くサウンド。そしてやせた音が全く聞こえてこない弦。プログラムでは練習時間があまりなかったとの団長さんの記載がありましたがそれでこのサウンドなのか!と驚きを隠せません。いきなり第1回の演奏会でこのレベルをたたき出すのか!と、舌を巻きました。しかも快活で生命力ある演奏!

2曲目の「信濃囃子」。実はこの曲名を見て聴きに行きたいと思ったでもありました。小山清茂はあまり知られていない作曲家かもしれませんが、実は小学校の音楽鑑賞の副読本などでは必ず出てくる作曲家でもあります。「管弦楽のための『木挽き歌』」といえば、ああそういえば!と思いだす方もいらっしゃると思います。

ja.wikipedia.org

「木挽き歌」は九州の民謡が題材ですが、今回演奏された「信濃囃子」は小山のデビュー作と言ってもいい作品です。発表が1946年ですから終戦の翌年。そんな時期にとても民族的な作品が生み出されていたとは!と驚きを隠せない人も多いのではないでしょうか。小山は長野市篠ノ井の出身で、小さいころ西洋音楽にほとんど触れることなくお囃子や民謡が回りにあった生活だと言っていいでしょう。私の父が長野県諏訪市の出身で小山とは36歳年下なので小山のように西洋音楽が全くないということはなかったのですが、時は1914年。父が生まれた諏訪同様に小山が生まれた長野市篠ノ井村山にも篠ノ井線の他に信越本線がすでに開通はしていましたが、その住所を見てみると安茂里、今里、篠ノ井の各駅からは結構距離がある場所です。父はまだ甲州街道沿いでしたが、小山が生まれた里は駅や街道からそれているため、そう簡単に文化が波及することもなかったことでしょう。しかもラジオもまだない時代です。となれば、小山の記憶の中にその地域に根差す音楽は強烈に残っていたと想像できます。実際小山も著書の中でそのように記載しているそうで、プログラムに引用がありました。まさに「信濃囃子」はその小山が生まれた里の音楽の旋律を使った作品であり、まさに新古典主義音楽と言っていい作品です。コル・レーニョ(弦楽器の「腹」を叩く演奏技法)や大太鼓を撥でたたくなど、まさにお囃子です!

休憩の後のメインはドヴォルザーク交響曲第8番。小山の作品の解説をプログラムで読み、さらに今小山が生まれた場所をPCで検索して地図で見てみると、なんとつながりがあることだろうかと驚きます。そもそもチェルカトーリさんは一つのテーマを設定して演奏会を開くことにしており、今回のテーマが「作曲家が探求した民族音楽の世界」。チェルカトーリというのも「探求者たち」という意味であり、第1回の演奏会にエポックメイキングなテーマを持ってきたなあと思います。では、どのようにつながりがあるんでしょうか?

ドヴォルザーク交響曲第8番は、ドヴォルザークアメリカへ渡る前に作曲された作品で、故郷ボヘミアの旋律やリズムを存分に使いつつ、さらに鉄道のリズムをモティーフに使った作品です。一方、小山が生まれた長野市篠ノ井村山という地域も、遠くに鉄道が走る里です。明らかに意識して小山の作品を持ってきているなあと思います。他にも民族的な作品はいくらでもあるにも関わらず、我が国の小山清茂を持ってきてそのあとにドヴォルザークというのは、私風に言えば「鉄分(鉄道風味)たっぷりだなあ」としか言えません!地図でさらに確認してみると、小山が生まれた里はさらに篠ノ井線稲荷山駅姨捨駅にも等距離で、篠ノ井線に乗ったことがある人であれば、姨捨と言ったとたんに絶景を想起すると思います。この区間には実は今でもスイッチバック篠ノ井線に存在し、特に姨捨駅は「日本三大車景」の一つに数えれ、現在鉄道でたどり着ける唯一の場所となっています。私も学生時代、サークルの春合宿で帰りに篠ノ井線に乗りましたが今でも姨捨からの絶景は忘れられず、再び行きたいと思っています。ちょうど青春18きっぷの時期ですし・・・・・

そんな風景が、演奏を聴いていると自然と湧き上がってきます。私の中で思わず鉄道系youtuberカコ鉄さんの動画がフラッシュバックします。テンポも適度で若干ゆったりしているところもありますが、佐藤氏の優れたタクトは、最後アップテンポの部分もありゆったりと感じさせずむしろ情熱的な演奏にさせています。最後は疲れてきたのか若干やせた音やアインザッツが不安定な部分もありましたが些細なことで、全体的には熱いものが混みあがってきます。演奏後「ブラヴォウ!」がかかったのは当然でしょう。私自身かけようかと思っていたくらいですから。

アンコールもテーマに沿ったものであり、1曲目が小山の「弦楽のためのアイヌの唄」、そして2曲目がドヴォルザークのスラブ舞曲第2集から第7番と、てんこ盛り!演奏はさらにヒートアップして団員も体をいっぱいに使って楽しそうに演奏しているのが印象的でした。それにしても、今回のホールは調布市グリーンホールで、それほど残響がいいとは言えないホールですが悪くもありません(実際、調布国際音楽祭ではメイン会場の一つですしバッハ・コレギウム・ジャパンも演奏をしています)。ですが残響が短いため、演奏のアラは目立つわけです。そんなホールを最初に選択するということは、自信に満ち溢れている証拠でもあるわけですね。実際全くそん色ない演奏でした。次回は神奈川県民ホールとのこと。いやあ、私も横響第九で合唱団員として舞台に立ちましたが、ここもアラは隠してくれないホールです。これは次回もいかないとと思ったオーケストラです。東京にまた一つ素晴らしいオーケストラが誕生した瞬間でした。

 


聴いてきたコンサート
オーケストラ・チェルカトーリ 第1回演奏会
フランツ・リスト作曲
ハンガリー狂詩曲第2番(フランツ・ドップラー編曲版)
小山清茂作曲
管弦楽のための「信濃囃子」
アントニン・ドヴォルザーク作曲
交響曲第8番ト長調作品88
アンコール
小山清茂作曲
弦楽のためのアイヌの唄
アントニン・ドヴォルザーク作曲
スラブ舞曲第2集作品作品72第7番
佐藤寿一指揮
オーケストラ・チェルカトーリ

令和5(2023)年8月5日、東京調布、調布市グリーンホール大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。