かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:イベール 管弦楽曲集

今回のマイ・コレは、ナクソスから出ているイベール管弦楽曲集です。佐渡裕指揮、ラムルー管弦楽団です。

佐渡さんと言いますと、先月ちょうどベルリン・フィルへのデビューを果たしたばかりですね!たまたまなのですが、タイムリーになりました。

このCDを買いましたのは14年ほど前です。ちょうど日本人の指揮者が海外で数多く活躍するようになってきた時期で、佐渡さんもその一人です。そういった興味と、収録曲に惹かれて購入しました。

その収録曲に関しては後程触れるとしまして、まずはイベールという作曲家の説明から参りましょう。

フルネームをジャック・イベールと言いまして、1890年パリに生まれ、1962年に没したフランスの作曲家です。時代的には現代音楽に属する作曲家と言っていいでしょう。1910年にパリ国立音楽院に入学していますから、彼が音楽の基礎を学んだ時すでに20世紀だったのですから。

オネゲル、ミヨーと三人組を結成して、フランス現代音楽をけん引した人です。さらに彼の守備範囲はヴァラエティに富んでいまして、その中でも特にすばらしいのが管弦楽だと言われています。オーケストレーションの色彩の豊かさは抜群で、それゆえ映画音楽も作曲しているくらいで、それもこのCDに収録されています。

ジャック・イベール
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%AB

さて、そんなイベールの音楽がこのCDには詰まっているわけですが、当時私はフランスものというのはあまり好んで聴いていたわけではありませんでした。しかし、佐渡さんの指揮でなおかつ祝典序曲が入っているということで買ったこのCDが、その後私をフランスものの世界へ連れて行ってくれるきっかけになろうとは、その時は全くしるよしもなかったですね。しかし、確実にそのきっかけになったCDです。

まず、第1曲目はバッカナールです。「管弦楽のためのスケルツォ」という副題をもつこの曲は、1956年にイギリスBBC第三放送10周年の委嘱作品として作曲されました。スケルツォというだけあって三つの部分からなっていまして、それがまた明るい音楽となっています。まず私はこの曲を聴いて「ぶったまげ」ました。現代音楽と言いますと何となく不協和音が鳴り響く不安を書き立てられる音楽を想像するわけなのですが、この曲にはそんな点は全くありません。むしろ旋律線もはっきりしているくらいです。

第2曲目はディベルティメントです。その題名とは違いもともとはラビッシュの「イタリアの麦藁帽子」の付随音楽として1929年に作曲された曲で、その後組曲としてまとめられたのがこのディベルティメントです。ですので、伝統的なディベルティメントとはちょっと違い、おのおの「前奏曲」、「行進」、「夜想曲」、「ワルツ」、「パレード」、「終曲」という名称がついています。劇は若者が結婚式で麦わら帽子を取り戻そうとするというドタバタ劇で、そんな様子が全曲を貫いているためとても楽しい、面白さが伝わってくる曲です。特に「行進」ではそのあらすじから想像される通り、メンデルスゾーンの結婚行進曲が使われています。

第3曲目は祝典序曲です。1940年に作曲されたこの曲は、日本政府の委嘱により、皇紀2600年祝典のために書かれた作品です。そう、私はブリテンの時に触れましたが、皇紀2600年の式典で演奏された曲のステレオ録音を探し求めていました。

マイ・コレクション:青少年のための管弦楽入門他 ラトル/バーミンガム市響
http://yaplog.jp/yk6974/archive/585

曲としてはこのブリテンとは打って変わって、とても穏やかかつ雄大な音楽が存在しています。フランスと言いますと第二次大戦ではドイツに占領されレジスタンスを余儀なくされましたが、この時はまだその直前。しかもイベールは真摯に日本政府の要請にこたえています。その割にはこの曲にはなぜか運命的なものが付きまといます。日本政府からの委嘱時、イベールはイタリアにいて、ローマのフランス・アカデミーの館長をしていたためこの曲はまずローマで作曲されたのですが、6月にフランスへ帰国するときに紛失、書き直しを余儀なくされました。その後曲自体は無事東京で初演を迎えましたが、その後ドイツ軍によるパリ占領により演奏が出来なくなり(ドイツの同盟国のために書いたにも関わらず!)、フランスでの初演は1942年になってようやくでした。ちなみにフランス初演時はシャルル・ミュンシュ指揮パリ音楽院管弦楽団の演奏で、大成功をおさめました(世界初演山田耕作指揮、紀元二千六百年奉祝交響楽団)。

日本初演についてはウィキに説明が載っています。

皇紀2600年奉祝曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%87%E7%B4%802600%E5%B9%B4%E5%A5%89%E7%A5%9D%E6%9B%B2

第4曲目は海の交響曲です。交響曲と言っても実際には交響詩と言うべき作品で、映画「S.O.Sフォックス号」のBGMとして1939年に作曲されました。つまりは映画音楽なのです。映画で使われた音楽をまとめて交響詩にしたのがこの曲です。そのせいか、とても幻想的で、この曲からは彼が生きていた時代が現代音楽に属する時代なのだということを実感される、不協和音の多用が目立ちます。聴いていますと様々な「音」が音楽で表現されており、イベールの音楽は楽しいだけではないぞということを教えてくれます。実はこの曲を初演したオーケストラはこのCDのラムルー管弦楽団で、指揮は祝典序曲のフランス初演時同様シャルル・ミュンシュです。

最後の5曲目は「寄港地」です。イベールの代表曲とも言うべきこの曲は1922年に書かれました。まだ彼がパリ音楽院在学中の作品で、この作品は留学先のローマと、パリにて作曲されました。きっかけは留学生としての義務によるもので、これは第10回目の提出作品です。これが若書きと思ってはいけません。すでに色彩感あふれるイベールらしさが前面に押し出されています。彼はすでにこの時期に自分の音楽の方向性を定めていたということになるかと思います。もともとは単に第1番から第3番までの番号を与えた組曲でしたが、のちに出版社からの要請により第1番に「ローマ―パレルモ」、第2番に「チュニス―ネフタ」、第3番に「ヴァレンシア」と名付け、交響組曲としました。

実はこの説明はブックレットを見てそれを参照して書いています。しかも日本語です。こんなことはナクソスではめずらしいことで、私はこのほかにはもう一枚しか日本語解説が入っているものはナクソスでは持っていません。その意味でこのCDはナクソスとはいえ、イベールの音楽への理解のためにとても重要な一枚だと思います。

フランス音楽は何となく面白くないなあなんて思っていらっしゃるそこのアナタ!この一枚は是非お勧めですよ!指揮者とオーケストラの息もぴったりです。だてに帯に「私たちは互いに恋に落ちた」なんて書かれていません。これ、実は佐渡さんのコメントなんですけどね^^;

それだけのことが言える自信作だと思います。ご本人がおっしゃるように、自慢作かどうかはわかりませんが・・・・・それは、聴かれる方すべての人に判断をゆだねましょう。一つ一つの音がしっかりと聞き取れる素晴らしいアンサンブルであることは間違いありません。それがイベールの音楽の特徴である色彩感は十二分に表現していると思います。

さすがイベールの作品の初演を数々行なってきたオーケストラなのだなあと思います。そういった誇りをもったオケと「恋に落ちた」指揮者は、あまりいないと思います。

その点からしても、私は自信作であるのは確かだろうと思います。日本人としても誇りに思っていい演奏だと思います。



聴いているCD
ジャック・イベール作曲
バッカナール
ディベルティメント
祝典序曲
海の交響曲
交響組曲「寄港地」
佐渡裕指揮
ラムルー管弦楽団
(Naxos 8.554222J)



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