今回のマイ・コレは、BCJのバッハ カンタータ全曲演奏シリーズの第2集です。
この一枚はバッハのカンタータのうち、ミュールハウゼン時代のものを取り上げており、その第2回目ともなっています。
まず、第71番「神はわが王なり」です。この曲は1708年2月4日に聖マリア教会にて行われた、市参事会員交代式の礼拝用の作品です。バッハのカンタータをカテゴリー分けをしますと、こういった「教会における特別な目的用」の作品があります(結婚式用もその一つになりますが、それは「世俗カンタータ」とはまた別になります)。
それにしましても、ききなれない言葉が出てきました。「市参事会」って、どういうものなのでしょうか。
その説明が、ウィキのこのカンタータの説明で出ていました(これはウィキGJです!)。
神はいにしえよりわが王なり
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E3%81%AF%E3%81%84%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%88%E3%82%88%E3%82%8A%E3%82%8F%E3%81%8C%E7%8E%8B%E3%81%AA%E3%82%8A
概要欄にこうあります。
「領主が直接支配するヴァイマルやケーテンと違い、(ミュールハウゼンでは)市の有力者で構成する参事会で市政を担当していた。」
実はこの制度、戦前の日本でもありました。
市制
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%82%E5%88%B6
この中の、「1888年(明治21年)制定の市制」欄にこうあります。
「市には市会を置き、土地所有と納税額による選挙権制限と高額納税者の重みを大きくした三等級選挙制によって市会議員を選出した。市は条例制定などの権限を持つ。市長は市会が候補者3名を推薦し、内務大臣が天皇に上奏裁可を求めて決めた。市会は別に助役と名誉職参事会員を選出した。市長、助役、名誉職参事会員で構成される市参事会が市の行政を統括した。」
このカンタータが持つ背景は、おおむねこの日本の戦前の市制で説明されていると言っていいと思います。つまり、戦前の日本の市制は、このミュールハウゼンのようなバロック時代の自治都市のような制度であったということなのです。ですので、この制度を頭に入れるほうがこの曲を理解しやすいと私は思います。キリスト教でいう神を天皇に置き換えたわけですから。
ミュールハウゼンは神聖ローマ帝国内の自治都市でした。そのため、市民から選ばれた参事による市参事会が市行政を担っていまして、それが交替するときに教会にて宣誓式をすることとなっていました。その式典用のカンタータなのです。そのために、最後の第7曲めに皇帝であるヨーゼフのなが出てきますし、また3拍子で神を表わし、4拍子でこの世を表わすということをやっています。
つまりこのカンタータは、当時のヨーロッパの自治都市の形態をよく表している曲でもあるのです。そのせいか、曲はとても華々しく、かつ編成も大規模であるがゆえに堂々たるものになっています。
次は第131番「深き淵より主よ、われ汝に呼ばわる」です。1707年7月ごろに行なわれた、5月に発生した大火を悔い改める礼拝用に作曲されたされたとされ、ミュールハウゼンで一番古い作品であり、バッハのカンタータの中でも2番目の作品であるとされています。
この曲のコアが悔い改めになっているせいか、全体の構成はシンメトリーになっていまして、第3曲目の合唱を中心として、第1曲目と第5曲目が合唱、第2曲目と第4曲目がコラール付のアリアもしくはアリオーソとなっています。
こういう構造を取る時はかなりテーマとして重いものを扱っていることが多く、この場合も戦乱の中での平和がテーマとなっています。それを神に求め、安易に混乱を作ることに乗じることなきよう、耐え忍ぶことを説いています。
第3曲目は第106番「神の時は最上の時」です。1707年の夏に書かれたとされる葬儀用のカンタータです。その相手はわかっていませんが、それにしても日本の葬儀という感覚からは想像できないほど、透明感と美しさ、そして明るさに満ちています。
こういった曲を聴きますと、日本に居ながらヨーロッパの死生観の違いを垣間見ることができる幸せを感じます。これはバッハの死生観の通してということになりますが、それにしても暗い点があまりないのにびっくりします。
そもそもレクイエムにしても葬儀用カンタータにしても、重要なのは亡くなった方ではなく、遺された遺族に向けられているという点です。その癒しを神に求めているわけで、その点を見誤ると、解釈を間違うことになりかねません。
バッハはカンタータを200曲近く残しているだけに、ヨーロッパの宗教観といったものを私たちに教えてくれると同時に、私たち日本人の死生観や宗教観を顧みさせてくれます。
演奏面では、カウンターテナーの米良美一がBCJのカンタータの演奏メンバーとして初めて登場しています。その伸びやかな声は素晴らしいです。今ではすっかりかげをひそめてしまいましたが・・・・・そして、もうひとりBCJになくてはならない、テノールのゲルト・テュルクも登場しています。この第2集からテノールがある曲はほとんど参加しています。彼の軽くかつ力強い声はいつききましても素晴らしいですが、そのクオリティがいまだに維持できているという点も高く評価すべきだと思います。
そして、先日ワイルでもご紹介したバスのペーター・コーイ。バッハでもワイルでも自在な表現力は、聴く者をその作曲家が持つ世界へと導いてくれます。
そういったアーティストが参集するBCJは、まさしく日本の宝でしょう。
聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第71番「神はいにしえよりわが王なり」BWV71
カンタータ第131番「深き淵より主よ、われ汝に呼ばわる」BWV131
カンタータ第106番「神の時は最上の時」BWV106
鈴木美登里、柳沢亜紀(ソプラノ)
米良美一(カウンターテナー)
ゲルト・テュルク(テノール)
ペーター・コーイ(バス)
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
(BIS CD-781)
※この時は国内盤である、KKCC-2203を購入しています。国内盤だと日本語解説がついているので重宝するのですが、今では輸入盤でしかこれは手に入らないはずです。
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