かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:橋本國彦 交響曲第1番・交響組曲「天女と漁夫」

今月のお買いもの、今回はナクソスから出ている日本作曲家撰輯シリーズの橋本國彦のアルバムをご紹介します。ディスクユニオン新宿クラシック館での購入です。指揮は沼尻竜典管弦楽東京都交響楽団です。

このアルバムは実は前から目をつけていたものではあるんですが、様々な事情でなかなか買えなかった一枚です。某SNSのコミュのイヴェントで交響曲第1番を聴いて以来、欲しかった一枚です。

まず、橋本國彦の説明から参りましょう。

橋本國彦
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%8B%E6%9C%AC%E5%9C%8B%E5%BD%A6

このウィキの記述はほぼあっていると思います。ほぼ間違いなく、出典がこのナクソス盤のブックレットだと思われるからです。

橋本氏は、主に戦前の日本で活躍した音楽家でした。作曲家という表現を使わないのは、元々彼はヴァイオリニストとして東京音楽学校へ入学したからです。在学中に信時潔氏に師事して作曲を学んでいます。

時代のせいか、後期ロマン派から印象派など、当時のヨーロッパ先進の音楽潮流の影響を受けた作品を書いた作曲家で、それ故 便利に使われることが多かった人でもあります。その上、彼は東京音楽学校という官立学校出身であったため、国家を背負った作品も数多く作曲しています。

まず第1曲目の交響曲第1番もそんな作品です。実はこの曲がライブラリにほしくて購入したのですから・・・・・

以前、皇紀2600年祝典曲を集めていますと述べたことがあり、そのうちイベールブリテンはご紹介していると思います。実はそのうちの一つがこの交響曲第1番なのです。その特徴が一番よく現われているのが、第3楽章です。

この曲は第3楽章にこそ特徴があるといっていい作品です。もちろん、他の楽章も特徴があり、第1楽章の後期ロマン派的な旋律や、第2楽章の沖縄の旋律を使った三部形式などは本当に素晴らしいのですが、第3楽章はクラシックの伝統である変奏曲を持ってきていて、その主題に「紀元節」を用いているという点なのです。

交響曲第1番 (橋本國彦)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E7%AC%AC1%E7%95%AA_(%E6%A9%8B%E6%9C%AC%E5%9C%8B%E5%BD%A6)

歌曲「紀元節
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%80%E5%85%83%E7%AF%80#.E6.AD.8C.E6.9B.B2.E3.80.8C.E7.B4.80.E5.85.83.E7.AF.80.E3.80.8D

この作品は実はこういった特色を持ち、さらに他の祝典曲同様楽譜が行方不明になっていたため、演奏機会が無かった作品なのです。ただ、様式的にはいろんな特色をもった優れた作品であることは事実です。まず、3楽章形式というのが面白い点です。私はよく当時の日本がこの3楽章形式を許したなあと思います。なぜなら、3部形式はフランス式であるからです。

ただ、それが許されたのは、恐らくこの交響曲自体が国民楽派的ではなく、むしろ新古典主義と判断されたからではないかと思います(まあ、それ故プロパガンダ的要素もあるわけですが)。第2楽章で南方、ジャワあるいは本人いわく琉球(私自身はどちらでもいいと思っています。というのは、日本は当時南洋諸島信託統治国であったからです)の旋律を使っていること、第3楽章で歌曲「紀元節」を主題として使っていること、その上で、三楽章形式はフランス風であるがゆえに、新古典主義作曲家オネゲルが作曲した交響曲で使われている様式であることです。

アルテュールオネゲル
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%8D%E3%82%B2%E3%83%AB

このような特色を考えますと、確かにこの曲は戦前の大日本帝国プロパガンダの臭いがプンプンするのでその点は差し引いても、芸術作品としてはきちんとした評価をしなければならない作品であるということが言えるかと思います。そして、この作品を作曲してから日本の敗戦までが、橋本氏の絶頂期だったのは間違いありません。それが終わるのが敗戦だったというのは、何とも寂しいことだと思います。彼は単に器用な作曲家であっただけなのですが、彼はそれ以来一線からは身を引きます。そして、1949年に45歳でこの世を去ります。

しかし、この交響曲第1番だけでも素晴らしい構成と様式をもつ作品なのに、もう1曲の「天女と漁夫」もこれまた素晴らしい作品なのです。プロパガンダ的要素が廃されている分、素直なナショナリズムがそこに存在しますので、戦後生まれの私にとってもすっと共感できる部分が多々あります。民俗音楽を巧みに舞曲へと仕上げたこの曲、そう、交響組曲とあるのですが実はバレエ音楽なのです。ですので、ウィキの表記でも間違いではありません。1933年の作曲で、渡欧前の作品です。当時日本舞踊でも前衛的舞踏家が活躍し始めていました。その中の花柳寿美からの委嘱で作曲されたのがこの「天女と漁夫」なのです。

テクストは所謂「羽衣伝説」です。天女と漁夫の2人の幻想的な様子が日本的旋律でもって巧みに表され、聴く者を捉えて離しません。ぜひとも実際のバレエが見てみたくなるような作品です。なぜならば、全部で7曲からなりますが、ほとんどが連続して演奏されるため、バレエであればまるで絵巻物を見ているかような錯覚に陥るだろうと思うからなのです。そして、様式としては印象派のようでもあり、また新古典主義的でもあります。それは交響曲第1番とはまた違った作品に仕上がっています。

さて、皆様、こういった作品、どこかで取り上げていません?という方もいらっしゃるかと思います。そうです、実はアルヴェーンそっくりなのです。アルヴェーンから影響を受けたという記述はないのでアルヴェーンとの関係は言えませんが、おなじように中欧から文化がどのようにして流入するかという点において、まるで平安時代に造東大寺司が廃止され仏師が全国へ散って行ったのと同じような受容過程が、スウェーデン、日本どちらにも共通しているということだけは、言えるかと思います。だからこそ、アルヴェーンの交響曲を御紹介した時に、私はこう述べたのです。

今月のお買いもの:アルヴェーン 交響曲全集2
http://yaplog.jp/yk6974/archive/969

「ただ、その後進性ゆえに、アルヴェーンのような作曲家があまりわが国では評価されていないという点はぬぐえないと思います(それは同時に、我が国の文化に対しても同じように地方には時代遅れのものしかなく見るべき文化財がないという意識をはっきりと持っている証拠でもあるのです)。」

それどころか、橋本氏の作品には先進性というか、同時代の先進を取り入れるという、古代は遣唐使から明治の文明開化期にかけて日本人が外来文化を受容する伝統をきちんと守っている点でも、本来は日本ではアルヴェーン以上に評価されなければいけない作曲家なのではないかという気すら、このアルバムからはします。

ナクソスはそのメッセンジャーとして沼尻/都響というコンビを選んでいます。都響は最初のオムニバス作品集でも登場したオケですが、まさしく公務員の仕事として相応しい演奏をしています。沼尻氏も淡々とした中でオケを歌わせているのも高評価です。ともすれば、国粋主義的な演奏も可能であろうこの曲を実に冷静に引き締め、曲が持っている様式美と「自然で素朴なナショナリズム」という特色を引き出すのに成功しています。

それにしても、この演奏が都響であれば、こういったことは本来私だけの仕事ではないんですけれど・・・・・



聴いているCD
橋本國彦作曲
交響曲第1番二調
交響組曲「天女と漁夫」
沼尻竜典指揮
東京都交響楽団
(Naxos 8.555881J)



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