東京の図書館から、今回と次回の2回にわたりまして、府中市立図書館のライブラリである、パブロ・エラス=カサド指揮、フライブルク・バロック・オーケストラ他によるベートーヴェンの第九と合唱幻想曲を収録したアルバムをご紹介します。
パブロ・エラス=カサドと言えば、現在旬の指揮者と言っていいでしょう。2024年にはNHK交響楽団も指揮しました。
今回指揮しているオーケストラは、フライブルク・バロック・オーケストラで、古楽の団体です。以前このブログでもバッハのロ短調ミサのアルバムをご紹介していますが、そのバッハを基本演奏するような団体でベートーヴェンをやるという意欲的なアルバムです。しかも、交響曲第9番と合唱幻想曲という、2つのロマン派に片足を突っ込んでいるような作品をということになります。とはいえ、日本人としては毎年バッハ・コレギウム・ジャパンとテレマン室内管弦楽団が第九を演奏しているので特段珍しくはないのですが、しかし海外の団体でバッハの作品も演奏している古楽団体がベートーヴェンの第九を演奏するとどうなるのかという興味があって借りてきています。
2枚組で、第九と合唱幻想曲に分かれていますので、まず今回は第1回目として、第九の演奏を取り上げます。
第1楽章はかなりアグレッシヴに入ります。古楽演奏あるあるではありますが、それにしても速いテンポ・・・この謎は第4楽章でわかります。ティンパニも硬くぶっ叩いてくれます。いいわあ。そもそも、モダン演奏であっても私としてはアグレッシヴに行ってほしいところではあります。
第2楽章は一転、モダン演奏に勝るとも劣らない多少どっしりとしたテンポ。スケルツォなので速めのテンポでもいいのですが、古楽演奏にしてはどっしり目です。ppとffの差も明確で、まさに古典派というアプローチ。この辺りは、カサドがあくまでも交響曲第9番という作品をロマン派ではなく古典派の作品だという意識で振っていると言えます。第1楽章のアグレッシブで速いテンポもその表れです。
第3楽章は緩徐楽章ですがテンポは速め。演奏時間としては第2楽章よりも短い・・・ですがそれゆえに筋肉質な演奏が楽しめます。またppはしっかり弱いので、テンポがめっぽう速いのに静謐な印象さえ受けます。ゆえに中間部の金管のファンファーレの荘厳で美しいこと!
そして、第4楽章はまずアグレッシヴに入ります。歓喜の調べがオーケストラで受け継がれていく部分はむしろ静謐さが漂います。この当たりでも、カサドが第九をロマン派ではなく古典派の作品と捉えているのが明確です。ですが実は、カサドが速いテンポを選択したのはそれだけが理由ではありません。
バリトン・ソロも速いテンポですが、合唱が入ってからお!と気づくのです。実は、ドイツが口語体で歌われているのです。古楽の団体で、ドイツ語を口語体で歌わせるとは・・・若いカサドらしい柔軟性です。普通は学究的に行くのであれば文語体を選択する者ですが、カサドはそうではなく古楽演奏であっても口語体を選択したのです。これはあっぱれ!第九という作品は第4楽章に於いてリズムはあくまでも文語体の発音に則って作曲されているのですが、それを口語体で歌わせることでテンポは速くならざるを得ません。古典派の速いテンポを採用するのであれば、口語体でもいいのではという発想は若いカサドならではでしょう。さすがです。
そのうえで、私が常に問題にするvor Gott!の部分。vor1拍に対しGott!は5拍。かつ、残響が2拍・・・完全な変態演奏です。ですがそれが全く違和感ないのは、速いテンポ設定ならではと言えるでしょう。むしろそこに荘厳さと生命力が同居します。
アラ・マルシアの部分は特段速いテンポに感じませんがそれでも生命力を感じます。その後のオーケストラが聴かせる部分もアグレッシブでいい!そして、練習番号Mでの美しく力強い合唱・・・もうたまりません!
その後は多少テンポダウンしますが最後のプレスティッシモでは再びテンポアップ!喜びを爆発させるという感じで、感動的です。さすが聴かせますね。中堅であるカサドの若い血潮満載です。それにこたえる合唱団とオーケストラもいい仕事してます。
全体的には、ヨーロッパのオケの演奏にしては多少残響が短いかなと思うのですが、実はロケーションがベルリンのテルデックス・スタジオ。え?そんな広いスタジオがあるの?と思う、ア・ナ・タ。あるんです。以下はオーディオサイトのPhile Web Audioさんのウェブサイトですが、これだけ広くしかも残響もあるスタジオって、日本人としては羨ましい限りですが、その代わり日本にはたくさんのホールがあるわけで、最近足を運んだホールでは京都府長岡京記念文化会館に近い残響です。その点でも、京都の方は誇りを持っていいと思います。
合唱幻想曲はどんな演奏になっているのか、この第九を聴きますとワクワクします。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
クリスティアーネ・カルク(ソプラノ)
ゾフィー・ハルムセン(アルト)
ヴェルナー・ギューラ(テノール)
フロリアン・ベッシュ(バス)
チューリヒ・ジング・アカデミー
パブロ・エラス=カサド指揮
フライブルク・バロック・オーケストラ
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