かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:上岡俊之とヴッパータール交響楽団によるベートーヴェンの第九

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、上岡敏之指揮ヴッパータール交響楽団の演奏によるベートーヴェン交響曲第9番のアルバムを取り上げます。

このCDを借りた時に、府中市立図書館にかなり新しいCDが入ってきており、しかもベートーヴェン交響曲第9番が幾つかあったため、このCDを含め借りています。その中でこのCDを選んだのは、指揮者が上岡俊之さんという、あまり日本では有名とは言えない指揮者だったことが大きいです。ただ、調べてみますと意外とこのCDを借りる前に日本へ凱旋公演を行っています。

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あら~神奈川県民だったのですねそもそもという驚きもあります。1学年先輩が大野和士ですが、同じ神奈川県民ということであれば今売り出し中の山田和樹も元々神奈川県民。いやあ、いまや都民の私ですが元県民としては誇らしいところです。

さて、オーケストラはこれもあまり聴いたことがないヴッパータール交響楽団。ですが私は鉄道ファンでもあるのでこの名前には聞き覚えがあります。実はヴッパータールという街は世界初のモノレールを走らせた街なのです。しかもそのモノレール、今だ現役です。神奈川県がらみで言えば、横浜にある原鉄道模型博物館に模型も展示されています。

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このモノレールを生み出せたのは鉄鋼業の街だったということもあります。こういう都市ではたいていオーケストラが生まれたりします。日本製鉄のUSスチール買収で注目を浴びたアメリカのクリーヴランド・クリフス。これもクリーヴランドが鉄鋼業の街ということを意味しますがその街にあるのがクリーヴランド管弦楽団。このように工業都市にはオーケストラがあるのが欧米です。日本もその影響を少なからず受けており、例えば九州交響楽団などもその一つだと言えるでしょう。拠点は福岡ですが八幡製鉄所があった北九州市という都市なくして福岡にオーケストラができることはなかったはずです(産炭地も抱えていたため)。

そういうヨーロッパの地方都市のオーケストラの実力がある意味丸裸にされてしまう作品が、ベートーヴェンの第九という曲でもあります。ヴッパータール交響楽団の歴史は比較的古く150年ほどの歴史を重ねており、かかわった音楽家もそうそうたる名前が並んでいます。

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このアルバムは録音が2012年なので、ヨーロッパを拠点としている上岡さんとしてはすでに手兵と言ってもいいオーケストラだと言えます。演奏に期待は膨らみます。

第1楽章からアグレッシヴに入っていきます。出だしは多少乱れますがすぐ立て直してその後は安定したアンサンブル。気持ちが前に行き過ぎていたのかもしれません。自分たちの演奏が日本でもより多くの人に聴かれるということで意識したのかも。ティンパニ連打は硬く私好みにぶっ叩いてくれます。第2楽章に入ってもアグレッシヴな演奏が続きます。テンポは速いのですがかといって急ぎすぎのような印象はあまり受けません。生命力のある筋肉質な演奏で、私としては決して嫌いではありません。特に中間部ではさらにテンポアップ。テンポが速いので面喰う人もいるかもしれませんが楽譜などを参照すると意外とオーソドックス。

第3楽章は一転ゆったりとしたテンポですがそれでも比較的速めのテンポ設定ですがこれも第2楽章までがかなりアグレッシヴなのでそれほど速く感じません。演奏時間は12分ですからかなり速いはずですが、それでも速いと感じないのです。この辺りのハンドリング、上岡さんはうまいですね~。ここまではあまり奇をてらう様子がありません。

それがガラリと変わるのが第4楽章。アグレッシヴさは変わりませんがここからある意味楽譜通りとはなっていないような演奏が連発されます。まずはオーケストラが歓喜の調べを大きな音で演奏する、通常ユニゾンと呼ばれるところ(正確にはここはユニゾンではないのですが)。金管を朗々と鳴らしつつ弦楽器はとにかく伴奏に徹しつつ、その金管がとても柔らかいのです。ほとんどの演奏がここで強く演奏しているのにしなやかなのです。それでいて全く違和感がなくむしろ美しさで感動してしまいます。その指示を忠実に再現するオーケストラ・・・この部分でヴッパータール交響楽団の実力の高さを実感します。

そしてバリトン・ソロから合唱が入ってきますが、ソロも合唱も何と口語体(Bruederだけ文語体)!そのあと続くソプラノとアルト、テノールソロも口語体で統一。ここでここまで速いテンポでアグレッシヴに来たのは第4楽章が口語体だからだと気が付きます。ベートーヴェンの第九という曲は第4楽章はあくまでもドイツ語のリズムに沿って作曲されていますが、それは文語体が前提です。ですがそれを口語体にした場合、erは長音になるためどうしてもテンポが走りがちなのです。ならば思い切ってテンポを速くして情熱的な演奏にしてもいいという発想です。テンポが速いので古楽演奏を考慮したのではと思いがちですが個人的にはより近代的な演奏を目指したがためだと思います。それが合唱部分が口語体であるということに集約されていると言えましょう。しなやかさと強さもこの辺りからは合わせ持ちます。

そして、私が常に問題にするvor Gott!の部分。何と、vor1拍に対しGott!は4拍、しかも1拍休符で6拍めでアラ・マルシアに突入・・・完全な変態演奏です!ですがこれも余韻が冷めやらぬうちに次に突入することで緊張感を演出。飽きさせません。オーケストラの情熱的な演奏の後の、練習番号Mの何と豊かで美しいことか・・・もう泣きそうです。しかもこのMの部分の直前のホルンは明らかに新ベーレンライター原典版で演奏されていることを意味します。

続く合唱とは一転ゆったりとしたテンポで朗々と歌わせて置いて、二重フーガではまたテンポアップ。合唱団もよくついて行ってますね~。勿論プロだから当たり前だとは言えますが、それでもいわゆるテンポが揺れる演奏でついて行くのは正直大変です。第九という作品はまだいくつかの部分に分かれているから何とかなることもありそれが合唱団にとっては有利に働いています。また上岡さんもそのあたりはしっかりと踏まえたテンポ設定にしています。とはいえ、二重フーガへと突入するところはほぼアタッカで入っているので合唱団がついて行くのがやっとというのが分かります。一応ライヴ録音なのでそのライヴで熱くなってしまったという可能性は否定できません。ま、それがライヴの醍醐味ではありますが。なお、ホールは上記ヴッパータール交響楽団ウィキペディアページにあるヒストリシェ・シュタットハレです。音響素晴らしすぎる・・・まるで教会です。

最後のプレスティッシモでさらにテンポアップして突っ走ります。それもまた爽快!19世紀的な終わり方をして、残響が完全に消えてから万雷の拍手!マナーがいいのもあると思いますがそれよりも聴衆が光悦状態にあるのが分かります。私もこの演奏をライヴで聴いたらおそらく同じように光悦状態になったと思います。PCでTune Browserでリサンプリング再生していても泣きそうなんですから。

この演奏を借りた後に、上岡さんは日本でもいろんなオーケストラの指揮で名前を見かけるようになりました。この演奏を聴きますと当然のように思われます。日本のクラシック音楽界は小澤征爾亡き後どうなるのかという心配の声も聴かれましたが私はこの上岡さんの指揮も聞いていましたし勿論山田和樹の演奏も聞いていましたので全く心配していません。小澤征爾の冥福を祈るとともに、後に続くものたちがしっかりと歩んでいることは楽しみでしかありません。すでに小澤征爾越えの演奏もちらほら出始めており、日本は今や有能な指揮者が割拠する時代にはいったと言えましょう。その象徴的な演奏だと思います。

 


聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
アンナ=カタリーナ・ベーンケ(ソプラノ)
ステファニー・イラーニ(メゾソプラノ
ロベルト・キュンツリ(テノール
トーマス・ラスケ(バリトン
ヴッパータール・コンサート協会合唱団
ヴッパータール歌劇場合唱団(共に合唱指揮:マリエッディ・ロセット)
上岡敏之指揮
ヴッパータール交響楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。