コンサート雑感、今回は令和7(2025)年3月15日に聴きに行きました、アンサンブル・ディマンシュ第96回演奏会のレビューです。
アンサンブル・ディマンシュさんは東京のアマチュアオーケストラです。学習院大学や上智大学の学生が中心になって1976年に設立された歴史の長いオーケストラになります。元々はバッハを演奏する合奏団として出発したため、「アンサンブル」ということになっているそうです。
さて、今回足を運んだ理由は、曲目にあります。
オール・ベートーヴェン・プログラム
①「献堂式」序曲
②交響曲第9番「合唱付き」
第九が好きな私ですが、実はこの団体のコンサートをすっかりロストしていました。FBFから存在を教えていただき、足を運んだ次第です。FBFには感謝の言葉しかありません。おそらく私が第九が好きだと言うことを知っていたからでしょう。むしろ最初チラシをもらっていたオーケストラ・ディマンシュさんと勘違いしたほどです(上記ウェブサイトでも付言されていますが全くの別団体です)。
一瞬迷ったのは、ホールが調布市グリーンホールであること。多少デッドなホールなので、そこをどう考えるかでしたが、ほぼ即決で決めました。実は、紀尾井ホールにバッハの「ヨハネ受難曲」を聴きに行った日に、杉並公会堂では室内オーケストラがベートーヴェンの第九を演奏していたのです。私は今年は受難曲を優先すると決めていたので(FBFが参加しイエス役が加耒徹さんだったため)、見送っています。そのため、アンサンブル・ディマンシュさんは行く選択をしました。
アンサンブル・ディマンシュさんの演奏を聴くのは初めてなんですが、お誘いいただいたFBFとコンサートマスターは知人関係とのこと。かなりアグレッシヴで熱心な方だと聞き及んでいたため、かなり期待してホールにむかいました。
今回のプログラムを見て、気づかれた方はいらっしゃるでしょうか?第九が初演された時のプログラムといっしょだと言うことを・・・これが、アマチュアを聴く楽しみの一つです。
①「献堂式」序曲 作品124
「献堂式」序曲は、1822年に作曲された祝祭劇用の序曲です。その後、第九の初演時にも演奏されました。
元々ウィーンに新設されたヨーゼフシュタット劇場のこけら落としのために作曲されたものですから、堂々として祝祭感あふれる作品ですが、演奏はどっしりとしつつも生命力があるものでした。表面的な祝祭感だけでなく、そのこけら落としの喜びに満ちた演奏なんです。この辺り、アマチュアらしくて好きです。さらに、そのレベルの高さも素晴らしい!弦に痩せた音が全く聞こえてきません。どこかプロオケ、あるいは音大オケを聴いているかの様。素晴らしすぎます。途中のファンファーレで多少テンポが落ちたのはアマチュアだからだったのか、それとも強調だったのかすぐには判断突きませんでしたが、恐らく強調だと思います。指揮は平川範幸さん。若手ですが意外とキラリとした指揮をされるなあと思いました。打点も比較的わかりやすいため、多少テンポが揺れても演奏しやすいと思います。
②交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」
言わずと知れた「第九」は、1824年に作曲された作品です。合唱を伴う作品として有名です。
私も合唱団員として歌った曲ですが、今回オーケストラは対向配置。ヴィオラが客席から見て右手に位置するもの。最近対向配置(あるいは両翼配置)ではヴィオラとヴァイオリンとを対向させる配置が多いと思います。確かにそのほうが演奏しやすいと思います。特に第九ではヴィオラだけがヴァイオリンと異なる旋律を弾くというケースも第4楽章ではあるので・・・この辺りにも、指揮者平川さんが意外と力が在るなと思うところです。
第九では多少演奏が走り気味。ですがアンサンブルが崩壊することはなく則修正されるのでほとんど問題ないレベルです。つい気持ちが先走ったのでしょう。これが第九を演奏する時の怖さなんです。作品にそもそもエネルギーがあるので、演奏しているうちに自分の気持ちに引っ張られて演奏が走るということはよくあります。そこで、何に合わすのかと言えば普通はコンサートマスターのボウイングなのですが、アマチュアにおいてはそこまで徹底されていることは少ないため、ほとんどが指揮者のタクトに合わすことになります。その点で言えば、指揮者平川さんのタクトはわかりやすいという点でアマチュア向きだと思います。勿論だからと言ってプロに向かないということはないんですが・・・例えば、4つ振りですが先日逝去された秋山和慶さんのタクトはわかりやすいので、オーケストラは合わせやすいと思いますし、実際昨年のミューザ川崎市民交響楽祭では、川崎市内4つのアマチュアオーケストラの連合だったにも関わらず高いレベルの演奏をしてみせたわけです。
そのため、今回のアンサンブル・ディマンシュさんでも、平川さんのタクトはわかりやすいため、オーケストラは楽章が進むにつれて走ることが少なくなっていきました。また、硬い音のティンパニがいい!やはり、第九においてはティンパニはできるだけ固く「ぶっ叩いて」欲しいです。特に第九においては、どこか魂が高鳴る部分を表現しているように私は感じますので、ぶっ叩くティンパニは大好きです。
その中で、強弱のつけ方もよく雄弁なのもいいですね~。残響時間としては短い調布市グリーンホールをしっかりと自分たちの楽器として使っているのも高評価。素晴らしい!
また、特筆すべきは合唱団です。担当したのはフィルハーモニッシャ―・コール。企業合唱団のパイオニア合唱団を発展させて社会人合唱団にした団体だそう。
いやあ、非常に実力のある合唱団だと思います。ビブラート発声なんですが、今回参加したのはアンサンブル・ディマンシュさんが室内オーケストラであることを踏まえ60名ほどだったそうですが、オーケストラに対してそん色ないどころかアンサンブル・ディマンシュさんの演奏会なのにフィルハーモニッシャ―・コールさんが引っ張るんです!実は、合唱団は第1楽章から出てきており、スタンバイしていました。そのため椅子もしっかり設置されていましたが、それでも第3楽章からではと思っていたら第1楽章からスタンバイでした。これは合唱団もオーケストラの一パートであるとの認識を指揮者平川さんがお持ちだったからでは?と思っています。私も何度か第1楽章から舞台上でスタンバイした経験がありますがその時はたいてい指揮者が全体を聞いて第4楽章を歌ってほしいという指示を出していたため、私はそう判断しました。これは効果てきめんだったと思います。アマチュアだと100名程度で歌うことが多いにも関わらず、その6割ほどの人数でホールを満たす声楽が響き渡り、私自身もう感動で体が震えっぱなし。いつ泣き出すかという極限状態。第九は好きな曲ですがこんなことはかなり久しぶりです。
さらに、合唱団をほめるべきは、口語体だったのです!ソリストは男性が口語体で女性が文語体でしたが、合唱団は口語体で統一されていたのも素晴らしい!口語体だとリズムが取りにくいはずなのですがしっかりとリズムが取れていますし、そのうえで力強く生命力のある、文字通り喜びに満ちた歌唱が響きます。こういうことができるのは実力の高さの証明なのです。特に、人数が男女でほぼ同じだったことで、力強い男声が聴こえてくるのもいいですね~。アマチュアだと大抵女声のほうが人数多いので男声が隠れてしまい金なんですが、特にバスがすばらしい!テノールも内声ながらしっかりと聴こえていたのも高評価。いやあ、フィルハーモニッシャ―・コールさんの定期演奏会も足を運びたくなります(次回は私も大田区民第九合唱団の定期演奏会で舞台に立った大田区民プラザ。調布市グリーンホールでいい歌唱ができるので何ら問題ないでしょう)。
そして、常に私が問題にする、第4楽章vor Gott !の部分。短い!おそらく、vor1拍に対しGott !が2拍か3拍だけだと思います。残響時間を含めても4拍程度だと思います。思いっきり変態演奏!ですがそれもまたいいんです。いやあ、柔軟だなあ。オーケストラは勿論ですが、合唱団もそこにアジャストしているのも素晴らしい!もうどこまで高いレベルの演奏なんだと思います。
2重フーガもアンサンブル素晴らしいですし、また最後のプレスティッシモもレガート気味ではあるんですが美しく力強いのであまり違和感ありません。熱狂の内にフィナーレを迎えて、万雷の拍手!私も思わず「ブラヴォウ!」を残響を味わった後にかけました。聴いている途中から衝動を抑えられなかったので・・・そう考えないと、感動の涙であふれていたと思います。
室内オケの演奏であり合唱団もそれにアジャストしたはずの編成なのに、大編成の演奏を聴いているかのような演奏で、満足です。オーケストラ、合唱団ともに次も足を運びたいと思わせてくれた演奏でした。となると、また予定を組むのが大変なんですが・・・うれしい悲鳴です。
聴いて来たコンサート
アンサンブル・ディマンシュ第96回演奏会
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
「献堂式」序曲 作品124
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」
柏原奈穂(ソプラノ)
向野由美子(アルト)
高橋淳(テノール)
大沼徹(バス)
フィルハーモニッシャ―・コール(合唱指揮:奥村泰憲)
平川範幸指揮
アンサンブル・ディマンシュ
令和7(2025)年3月15日、東京、調布、調布市グリーンホール大ホール
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。