かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:中央大学管弦楽団第93回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和7(2025)年5月20日に聴きに行きました、中央大学管弦楽団の第93回定期演奏会のレビューです。

中央大学管弦楽団中央大学の公認サークル「音楽研究会」に所属する学生オーケストラです。正式名称は中央大学学友会文化連盟音楽研究会管弦楽部。それを通称で中央大学管弦楽団と呼んでいます。

chuo-uni-phil.wixsite.com

私は中央大学のOBで在学中は史蹟研究会でしたので直接オーケストラとはかかわりはないですが、在学中から自分のサークルだけでなくオーケストラの定期演奏会には足を運んでいました。そのため卒業後もなるべく演奏会には足を運ぶようにはしています。このブログでも何度も取り上げております。そのため、今回も足を運ぶこととしました。ホールはJ:COMホール八王子。これはネーミングライツで正式名称は八王子市民会館です。ただ、普通の多目的ホールと思うなかれ。東京でも指折りのクラシック音楽専門ホールで素晴らしい残響時間を誇ります。ただ、その割にはクラシックの演奏は少なくて演歌などのほうが多いのが残念な所です。当日チラシには石川さゆりさんの公演がありましたが、あの素晴らしい残響でマイクを使ってしまうとかえって聴きにくいのではと心配になります・・・さゆりさんならマイク無しでもいいのではないでしょうか。

さて、今回のプログラムは以下の通りです。

シューベルト 八重奏曲D803第1楽章
ワーグナー 歌劇「タンホイザー」序曲
シューマン 序曲「ジュリアス・シーザー
ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」

⓪とあるのは、公演前の演奏です。通常室内楽を1プロにしてきましたがそれをプレプロにしたということです。実は当日は買い物が入ってしまい演奏が始まったあたりで着席しました。何とか間に合ったという感じです。いずれにしても、室内楽をプログラムに入れるというのは中央大学管弦楽団のスタイルになりつつあります。

そのシューベルトの八重奏曲。管楽器なども入っていますが、弦楽器に痩せた音が目立つのが気になります。まあ、学生なのでそのあたりはしょうがないでしょう。それでも安定した演奏が繰り広げられ、室内楽を入れることで各人のレベルの向上を図ろうとしていることは素晴らしい取り組みです。予算が少ない中で実力を上げる、あるいは維持するために室内楽に取り組むことは有意義です。実際、かつての宮前フィルハーモニー交響楽団室内楽に取り組んでいたものです。古典派に片足を突っ込んでいるシューベルトを、端正に演奏したのは実力があがっている証拠だと言えるでしょう。

さて、1プロから語る前に付言しておきたいのは、今回、ヴァイオリンを両翼配置にしていたことです。両翼配置と言っても最近はヴィオラを出すことを選択するオーケストラ(プロも含めて)が多い中で、学生がヴァイオリンを両翼配置にするのはチャレンジだと思います。それもドキドキしながら聴いていました。

ワーグナー 歌劇「タンホイザー」序曲
ワーグナーの歌劇「タンホイザー」は、1845年に完成された作品です。ワーグナーの「歌劇」であり「楽劇」へと移行する時期の作品でもあります。

ja.wikipedia.org

さて、私は「歌劇から楽劇へと移行する時期の作品」と述べましたが、それはタンホイザーには二つの版があるためです。一つは1845年に成立した版。そしてもう一つは1861年にパリで上演するために改訂されたパリ版のふたつです。このうちパリ版が楽劇らしい様式を供えたものになっています。ただ、パリ版はワーグナーはあまり好んでいなかったとされており実際そのことでパリ版初演時は散々でした。ですがこの経験が後に「楽劇」へとつながっていくのも確かなのです。

その中で、序曲は1845年に成立した「ドレスデン版」と、1861年に改訂された「パリ版」のふたつが存在しています。そのうち、コンサートなどでよく演奏されるのは実は初版であるドレスデン版なのです。これは歌劇の形に則った、序曲が作品の場面で構成され単独になっている形です。一方パリ版は序曲が第1幕へとそのまま入っていく形になっているため、通常はコンサートピースとして演奏されることは稀です。今回、中央大学管弦楽団も実はドレスデン版を選択しています。個人的にはドレスデン版のほうがアマチュアが演奏しやすいと思っています。それは最後盛り上がって終わるからです。その方がアマチュアとしては表現しやすいように思います。特に若い学生だと共感しやすいかと思います。今回も静かに始まり段々盛り上がっていく様子は共感しているように聴こえましたし、また最後のフィナーレに至るのも、主人公のタンホイザーの運命をくみ取った演奏だったのも素晴らしい点でした。そして不思議とアンサンブルすると弦のやせた音は目立たなくなるんですよね~。ということは、ある程度のレベルの人たちにレベルの向上を目指してもらう目的で室内楽を入れていると予想されるのです。それはそれで素晴らしい取り組みだと思います。

ヴァイオリンが両翼配置なのに、アンサンブルが乱れていないのが好印象。学生でこれができるのですから、指揮者藤岡幸夫さんの憂慮ももはや時代遅れになりつつあると言っていいでしょう。世の中は変わっていくものだとつくづく思いますし、指揮者も含めて若い才能がどんどん出てきている時代に私たちは生きていることを実感させる演奏でもありました。

シューマン 序曲「ジュリアス・シーザー
シューマンの「ジュリアス・シーザー」序曲は、1851年に作曲された演奏会用序曲です。あまり演奏されない曲だそうですが、実は中央大学管弦楽団は13年前の第62回定期演奏会の1プロで取り上げています。

ykanchan.hatenablog.com

8分ほどで終わる中で、シーザーの暗殺から息子オクタヴィアヌス帝によるブルータス討伐に至るまでのドラマが詰まっています。原作はシェークスピアの戯曲で、ある意味シューマンとしては劇音楽としてこの序曲を書いたとも言えるでしょう。本当は完全な劇音楽を作りたかったのではと想像してしまいます。演奏も、そんな「劇音楽の仲の序曲」というようなアプローチで、感情移入すら感じられる熱いもの。多少フルートの音が雑なのが気になります。それ以外は本当に美しい音が響いてきます。特にJ:COMホール八王子はもはや中央大学管弦楽団フランチャイズとなりつつあり、その音響をうまく使った素晴らしい演奏でした。

ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」
ベートーヴェン交響曲第6番は、正式名称で「田園」という表題が入っている珍しい曲ですが、初演では第5番とされていた作品で、いわゆる今日の第5番「運命」と同時に初演された作品です(ちなみに、メインは「合唱幻想曲」)。ベートーヴェンが散歩で歩き回った、ハイリゲンシュタットや避暑で過ごした田舎の自然の中にある自らの感情を歌い上げた作品です。

ja.wikipedia.org

つまり、風景を描いただけでなく、その風景とその中にいる自らの感情を描いた作品と言えます。それはなにを意味するかと言えば、風景を表現するだけでなくその中にいる人の内面も表現する必要があるということを意味します。ですので実はアマチュアが演奏するにはかなりレベルが高い作品とも言えます。この作品を中央大学管弦楽団が演奏するということで、実は下記に示すテネラメンテ・フィルハーモニー管弦楽団さんの定期演奏会にも足を運んだのです。

ykanchan.hatenablog.com

さて、安定した演奏が味わえたテネラメンテ・フィルハーモニー管弦楽団さんと比べ、中央大学管弦楽団の場合、両翼配置なのに弦楽器には全く乱れたところが見受けられないのに、管楽器が多少乱れているかなと感じられました。普通は逆なのですが・・・これはおや?と思いました。ただ全体を乱すところまで行っているわけではなくまとまっているのでそれはそれでいいのですが、もう少し管楽器、特にフルートが丁寧だったらなあとというところが残念。それ以外は豊潤な田園風景を味わっているベートーヴェンに共感している様子が演奏で表現されていて、学生らしいはつらつとした部分もあり感動的でした。それだけに、管楽器がちょっと残念・・・もう少し丁寧に演奏してほしいです。

さて、4プロはないんですが、アンコールはヨハン・シュトラウス2世ポルカ「雷鳴と電光」。拍手が鳴りやまないうちに指揮者であり音楽監督である佐藤寿一氏が指揮台にあがりタクトを振り降ろし演奏を始めます。明かにウィーン・フィルニューイヤーコンサートを意識しているなあと。そしてノリノリ!一番オーケストラが生き生きとしているように見えたのは私だけなのでしょうが・・・ティンパニが多少突っ込み気味なのが気にはなりますが、それでも全体的には生命力あふれる演奏。体も良く動いていますし、それをメインでやっていればもっといいのにとは思いますが、まあ、予算の関係かなと・・・

ただ、例えば打楽器が突っ込み気味だとか、どこかでオーケストラが乱れるというのは、先日聴きに行った浦和フィルさんでも合唱団で見られた現象で、佐藤さんのタクトは打点がはっきりしているはずなのですが何か見にくかったり、あるいは感情に流される要因があるのかなと思います。実は田園も多少テンポは速めでそれはそれでいいのですが、どこか急いでいるような印象も受けたのです。生命力はある演奏なのでそのテンポを否定しませんが、もしかすると団員とのコミュニケーションが不足しているのかなと思う所もあります。次は12月26日に理工学部がある文京区の文京シビックホールでの演奏会。メインはチャイコフスキーの悲愴とのことで、繊細かつダイナミックな演奏が要求される作品だと思いますので、一層の精進の跡が見られればいいなと思います。とはいえ、実は日程的にはMAXさんとバッティングする可能性もあります。その時には申し訳ありませんがMAXさんを優先させていただきますのであしからず。

 


聴いて来たコンサート
中央大学管弦楽団第93回定期演奏会
フランツ・シューベルト作曲
八重奏曲ヘ長調D803第1楽章
リヒャルト・ワーグナー作曲
歌劇「タンホイザー」序曲
ロベルト・シューマン作曲
序曲「ジュリアス・シーザー」作品128
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
ヨハン・シュトラウス2世作曲
ポルカ「雷鳴と電光」作品324(アンコール)
佐藤寿一指揮
中央大学管弦楽団

令和7(2025)年5月20日、東京、八王子、J:COMホール八王子(八王子市民会館)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。