コンサート雑感、今回は令和7(2025)年5月3日に聴きに行きました、浦和フィルハーモニー管弦楽団の第74回定期演奏会のレビューです。
浦和フィルハーモニー管弦楽団さんは、埼玉のアマチュアオーケストラです。旧浦和市、現さいたま市浦和区を中心に活動する団体です。
都民、そして元横浜市民で川崎で活動していた私としては、埼玉の団体を聴きに行くことは近いと言えども稀です。そもそも都内でいくつも綺羅星のごとく活動し素晴らしい演奏を聴かせてくれる団体が多い上に、もともと川崎で活動していたことから、他の都市となるとどうしても川崎や横浜という所に目が行くからです。
ただ、私は現在東京都下に在住していることから、埼玉という場所が決して遠いわけではないということがあります。最近では所沢に足を運んでいますし、また東京の団体がさいたま芸術劇場で公演をしたものを聴きに行っています。実は浦和フィルハーモニー管弦楽団さんの今回の公演に足を運んだのは、ちょうど彩の国さいたま芸術劇場で3月に行われた、バッハ・カンタータ・アンサンブルさんの「ヨハネ受難曲」を聴きに行った時にチラシが挟まっていたためです。ただ、それだけでは行く動機としては不十分です。タイトルにある通り、メインがベートーヴェンの交響曲第9番だったから、です。
ちょうどその頃、私は4月27日に行われた、町田フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に足を運ぶ予定を立てていました。実は町田フィルさんも創立記念の公演としてベートーヴェンの交響曲第9番を予定していました。ただ、アマチュアオーケストラでありながら、チケットは早々に売り切れてしまったのです・・・実は、ソリストのうち、バリトンがバッハ・コレギウム・ジャパンの加耒徹さんだったためで、かなり早く売り切れてしまったそうです・・・
そのため、浦和フィルハーモニー管弦楽団さんの定期演奏会を選んだ、というわけです。ホールは多目的ホールであるさいたま市文化センター。ウェブサイトを見て確認しています。響きは勿論デッドですが、ホールによってはそれなりに響くところもあることから、足を運ぶことに決めたのでした。今年はすでに1つ第九のコンサートはスルーしていますし、ならいっそ食わず嫌いを手放そうと、チケットを取りました。ほぼ4月に入ってからすぐだったと思います。まさかこれも売り切れか?と思いましたが無事取れました。
また、もう一つ決めてがあります。指揮者は、佐藤寿一さん。この名前を聞いてピン!ときた方はおそらく中央大学もしくはクレセント・フィルハーモニー管弦楽団の関係者の方ではないでしょうか。そうなんです、中央大学管弦楽団の音楽監督であり、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団でもタクトを振られている、佐藤寿一さんなのです。実は佐藤さんは浦和フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督でもあるのです。そのため、今回浦和フィルハーモニー管弦楽団さんの演奏会に足を運ぶことにしたのでした。ちなみに、中央大学管弦楽団の定期演奏会のパンフレットには、浦和フィルハーモニー管弦楽団さんの音楽監督であることの記載がありましたが、今回の浦和フィルハーモニー管弦楽団さんの定期演奏会のパンフレットには中央大学管弦楽団の音楽監督という記載はありませんでした。この辺りはちょっと中央大学管弦楽団がかわいそうな気がします・・・
さて、今回のプログラムは以下の通りです。
①ロッシーニ 歌劇「セビリアの理髪師」序曲
②ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」
この両名の作曲家をプログラミングしてくるのは、アマチュアらしいというか日本人らしいところですね。ベートーヴェンはロッシーニに対して嫉妬していましたが、その音楽は高く評価していました。ちょうど同時代なんですね・・・さて、皆さんはどう判断しますか?という感じです。勿論、現代日本人だとどちらも楽しめるということにはなるでしょう。
①ロッシーニ 歌劇「セビリアの理髪師」序曲
歌劇「セビリアの理髪師」は1816年に初演されたロッシーニのオペラです。ボーマルシェの戯曲が元となっています。同じ題材で同じ名前のオペラをパイジェッロも作曲していますが、このロッシーニの作品が忘却の彼方に追いやってしまいました。
さて、このオペラ、実は序曲は「借り物」でして・・・1816年という年代でこれをやるか!という印象です。そもそもはロッシーニ自身のオペラ「パルミーラのアウレリアーノ」の序曲です。同じ序曲を、「イングランドの女王エリザベッタ」でも使っており、その転用の方が1年前と年代的に早いことを考えると、それでうまくいったので「セビリアの理髪師」でも同じことをやってしまえ!としたのだと思います。売れっ子は辛いよということでしょうが、多分ベートーヴェンとしてはそのような姿勢が気に入らなかったんでしょうね・・・まあ、嫉妬する気持ちはわかる気がしますが、実際の音楽は生き生きとしておりワクワクさせるもので、まあ、忙しい中ロッシーニが転用しようと考えるのもわかります。多分、この曲、かなり受けたんでしょうね、聴衆に。
そのワクワク感をどう演奏で表現するかが重要なのですが、何と、浦和フィルハーモニー管弦楽団さん、うまいんですよこれが・・・アマチュアらしいやせた弦の音などみじんも聴こえてきません。さいたま市文化センター大ホールはデッドなホールと述べましたが、そういうホールでロッシーニのような古典派の音楽をやるというのは、粗が出やすいんです。それが全く聞こえてこないのがまず衝撃です。いやあ、さいたま市の方々が羨ましい~これだけで誇りに思うべきだと思います。
さらに、強弱のつけ方も素晴らしいですし、表現力も豊か。最後までワクワク感がとまりません。ロッシーニが2度も転用したほどの人気曲を、生き生きと演奏しきったのは称賛しかありません。さらに、実は当日、何とアマチュアながら第2ヴァイオリンを反対側に配置する形の両翼配置だったんです。最近のアマチュアはアンサンブルを重視することから両翼配置であってもヴィオラを対面にすることが多くヴァイオリンは第1も第2も一緒というケースが殆どなのですが、第2ヴァイオリンを反対側にしての、生き生きとした表現力豊かな演奏なんです。これを称賛せずにはいられません!
②ベートーヴェン 交響曲第9番
言わずと知れた「第九」。合唱も入るこの曲に対し、1プロのロッシーニを聴いて俄然希望は高まります。そもそも、「第九」という曲は決して完成度の高い作品ではないですし、ゆえに複雑な所もある難曲です。そのうえで、第4楽章では声楽が入るという構造ですから、難しさはかなり高い作品でもあります。
演奏の第1楽章の出だしは、多少ふらつくというか、不安定な木管となりました。これはアマチュアとしてはしょうがないと思います。それでもそれは本当に出だしの一音だけで、あとは安定した響きに。これだけでもレベルの高さがうかがえるのです。浦和フィルハーモニー管弦楽団さんはもう7回第九を演奏しているそうで、さらにこの定期演奏会の前には、さいたま市の合唱祭で第4楽章だけ演奏しているとのこと。パンフレットのさいたま市浦和合唱の会の会長さんの祝辞で記載がありました。というか、今回第九を選択した理由は、このさいたま市浦和合唱の会さんからのラブコールだったそうで・・・それで思い出すのは、私が所属していた宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」の第1回定期演奏会です。この時のメインが「第九」でして、オーケストラは姉妹団体であった宮前フィルハーモニー交響楽団。同じ形であるなあと思います。主催が合唱団なのかオーケストラなのかの違いでしかありません。その点でもどこか親近感があります。いずれにしても、すでに合唱団との共演をつい最近していることで、十分な練習時間とオケ合わせの時間が取られていたことも、いい演奏につながっていると思います。
とくに素晴らしいのは、音が一音一音はっきりと聴こえてくるうえで、そこに生命力が宿る演奏になっていることです。第2ヴァイオリンが両翼となっていて、です。私が最初に第九を歌った時の指揮者であり、現在関西フィルの音楽監督をされている藤岡幸夫さんはその形を批判されていますが、さてこの演奏を聞いたらなんというのだろうかという気がします。プロではなくアマチュアが高いレベルの演奏を実現させているわけです。さて、プロはどのようなパフォーマンスをするべきでしょうか。
第3楽章までもその生命力のある演奏は持続しており、それもまた高評価です。当日はエキストラもそれなりに入っていて、です。チラシも近隣のアマチュアオーケストラのものが挿入されており、多分それらのオーケストラからのエキストラなんだろうなあと思いますが、それでもしっかりとアンサンブルできているのは、そもそもさいたま市近隣のアマチュアオーケストラのレベルの高さをうかがわせます。東京や神奈川だけではなく、首都圏のアマチュアオーケストラのレベルは高いと言えるでしょう。
さて、注目の第4楽章。合唱団とソリストは第3楽章から入っています。ティンパニは多少弱めですが、それでも違和感は感じず、固く弱めと言った感じ。テンポや表現は佐藤寿一さんらしい印象。そこに対しての共感がオーケストラからあふれ出ています。ここまで聴いても、オーケストラと指揮者の間には固い絆が結ばれているなあと思います。バリトン・ソロまではもう完璧と言うべき演奏です。
そして、ようやく合唱が入ってきて、アルトと男声が歌い始めますが・・・あれ?テンポが合わない。明かにオーケストラではなく合唱団が合わないんです。実はオーケストラも多少走り気味ではあったんです、ここまで。でもそれを必死になって修正して来た感じだったのですが、まさかの合唱団が走るとは・・・すでに一度共演しているはずなのですが。これは私の推測ですが、オケが多少走り気味になったのに合わせてしまったことで合唱団が走ってしまって突っ込んでしまったと考えられます。その意味では、合唱団はよく音を聞いているとも言えます。
ただそれは、それだけ演奏する人たちの気持ちが高まっていたとも言えます。最近この表現を私は使っていませんが「情熱と冷静の間」を、第九という曲は取りずらいんです。甲子園には魔物が棲むと言われますが、まさに第九にも魔物が棲んでいるのです。でも、その「魔物」の存在にすぐ気が付いて修正されたのはさすが。やはり音をよく聞いているなと思います。
常に取り上げる、vor Gott!の部分もオーソドックス。なのに、美しく力強い音楽。合唱は多少ppの部分が強めなのですが、それは合唱団員が市民を中心に150名に膨れ上がったせいでもあります。なかなか短期間で弱く歌うのは難しいのではと思います。また年々どこの市民合唱団も平均年齢が上がっており、筋力も落ちることからどうしても多少大き目に歌うほうが失敗が少ないんです。そのあたりは佐藤先生がなかなか苦労されたところだろうなあと思います。それでも、デッドなホールで残響すら感じられる演奏をできるだけの、オーケストラと合唱団のレベルの高さを評価するべきだと感じました。
第2ヴァイオリンが対向配置になっているにもかかわらず、高いレベルの演奏をした浦和フィルハーモニー管弦楽団さん。できれば、継続して聴きに行きたいオーケストラです。もう一度言いますが、さいたま市の市民の方々は、浦和フィルハーモニー管弦楽団さんの存在は誇りに思うほうがいいです。ただ、埼玉の団体なので私としては優先順位が下がるとは思いますが、是非とも市民の方は応援して講演に足を運んでいただければと思います。私も日程があえば、また足を運べればと思います。
聴いて来たコンサート
浦和フィルハーモニー管弦楽団第74回定期演奏会~浦和の第九 2025~
ジョアキノ・ロッシーニ作曲
歌劇「セビリアの理髪師」序曲
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125
西本真子(ソプラノ)
牧野真由美(アルト)
村上公太(テノール)
原田圭(バリトン)
さいたま市合唱浦和の会
佐藤寿一指揮
浦和フィルハーモニー管弦楽団
令和7(2025)年5月3日、埼玉、さいたま、浦和、さいたま市文化センター大ホール
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。