かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:クレセント・フィルハーモニー管弦楽団第44回演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和7(2025)年2月1日に聴きに行きました、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団の第亜44階演奏会のレビューです。

クレセント・フィルハーモニー管弦楽団は、東京のアマチュアオーケストラです。中央大学管弦楽団のOB・OGが設立した団体で、現在は中央大学に関係ない社会人と、中央大学管弦楽団の学生も参加するオーケストラとなっています。今回も弦楽器に中央大学管弦楽団のメンバーが参加しています。

crephil.moo.jp

中央大学管弦楽団自体が、すでに中央大学の学生だけでなく、周辺の大学に通う学生も参加する団体になっており、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団との協業も行っているのは、素晴らしいことだと思います。

今回のプログラムは、以下の通りです。

モーツァルト フルート四重奏曲第3番
ロッシーニ 歌劇「ブルスキーノ氏」序曲
シューベルト 交響曲第3番
メンデルスゾーン 交響曲第3番

4つも入れて満載ですね!実は当日は休憩も含めがっつり2時間30分かかりました・・・これにさらに、アンコールとしてメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」序曲が演奏されています。

モーツァルト フルート四重奏曲第3番
マチュアオーケストラの演奏会で室内楽が演奏されることは珍しいのですが、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会では半ば恒例となっています。私自身は素晴らしい取り組みだと思っています。アマチュアオーケストラで定期演奏会とは別に室内楽演奏会を開き、演奏のレベルアップを図っている例は結構あります。ですが通常の演奏会にビルトインする団体は極めて少ないです。この優れている点は、常に室内楽の練習をして相互の音を聴きあう経験をすることでレベルアップが図れるという点です。

それを感じたのが、このモーツァルトだったのです。実はこの曲、このブログでも以下のエントリを立てています。

ykanchan.hatenablog.com

その後、この演奏会を録音したハイレゾ音源のものも取り上げています。この演奏会で東京交響楽団のメンバーが演奏したのが、モーツァルトのフルート四重奏曲第3番でした。その演奏と、今回の演奏が殆どそん色ないものだったのです!

そんな馬鹿な、アマチュアがプロレベルになるなんてあるわけがない、しかも音大生ではなかったのでしょ?と言われるかもしれませんが、実際にそん色ない演奏でした。室内楽だと、特に弦セクションの実力が露わになりますが、やせた音が全く聞こえてきません。そのうえで、フルートのなんと力強くしなやかで表現力があることか!思わずうなりました。学生ではなく社会人の演奏、間違いなくそれぞれのパートリーダーによる演奏だったと思いますが、実に素晴らしい、プロとそん色ない演奏でした。これは明らかに、室内楽定期演奏会(定期という名称はついていませんが)にずっと組み込んできた成果の現れです。今後も続けてほしいなと思いました。

ロッシーニ 歌劇「ブルスキーノ氏」序曲
ロッシーニのオペラ「ブルスキーノ氏」は、1812年に作曲されたもので一幕しかないとても短い作品だったようです。そのため、序曲もとても短く5分ほどで終わってしまいます。それが今回選曲の理由だったと思われます。

ja.wikipedia.org

時代的に見れば古典派です。ロッシーニと言えばロマン派と思われがちですが、音楽的にはほとんど古典派と言ってもいいように思います。一応カテゴリ的にはロマン派ではありますが・・・と言うよりも、この1810年代という時代は、ベートーヴェンが活躍していた一方で、新しい音楽運動であるロマン派が勃興していた時代でもあります。ただ、音楽的に大きく変わったということではなく、形式美の中にもっと自分が表現したいものをビルトインするというのがロマン派という音楽運動です。その結果形式美を逸脱しても構わないわけなので、音楽的に似ていて当然なんですね。

それはつまり、音楽的にもかなりの修練を必要とするわけで、その意味もあってプログラムに入れられたのだと思います。今回指揮は中央大学管弦楽団と同じ佐藤寿一さんでした(そもそも佐藤氏はクレセント・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者でもあります)。学生も入っていることも考慮したプログラムだったかなと思います。この演奏もまた生き生きとして楽しい!しかも、弦のやせた音などもきこえてきません。5年ほど前に比べると格段に成長しているなあと思います。こういう経験ができるのが、アマチュアオーケストラを聴きに行く醍醐味ですね。

シューベルト 交響曲第3番
前半最後の曲が、シューベルト交響曲第3番です。ここまで気づかれたと思いますが、ほとんど音楽史をなぞっているんですね。このシューベルトの第3番は、1815年に作曲された作品です。ちょうど欧州ではナポレオンの戦役の戦後処理が行われており、アンシャンレジームが復活するという時代。そんな中かろうじて残された自由が音楽の創作でした。その中でシューベルトが心血を注いでさっきょくされたのがこの第3番だったと言われています。ただ初演はシューベルトの死後、時代的には日本で言えば幕末のあたりになってようやく終楽章のみが演奏され、全楽章は1880年代と日本で言えば明治になってからです。現代から見れば極めて古典的にも聴こえますが、当時はそれでも十分アバンギャルドだったと言えそうです。

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その音楽史を踏まえてか、若い人が多いこともあるのか、特に弦楽器が生き生きと体を使って演奏しているのがすばらしかったですし、それが音楽に乗り移り、生命力のある演奏になっていたのも感動的でした。

メンデルスゾーン 交響曲第3番
メンデルスゾーン交響曲を番号付きのを5曲書いていますが、この第3番が実は最後の作品となっています。メンデルスゾーン交響曲は出版順に番号が付けられたからです。このブログでいくつかの全集を取り上げた時にも言及した通りです。

ja.wikipedia.org

楽章は4つありますが、実際には連続して演奏されるように指示されています。ですが各楽章が休符で区切られているため、演奏時には一呼吸入れて始めるという感じで演奏されます。一体性というよりは緊張感を演出する狙いが、メンデルスゾーンに会ったのかもしれません。

実際、今回もその指示通り、各楽章は一呼吸入れるだけですぐ演奏が始められたことで、40分ほどある演奏時間があっという間に過ぎていきます。オーケストラも前半同様に弦楽器に痩せた音が聞こえてきませんし、金管も安定しティンパニは硬質でアクセントが聴いた音になっていることが、全体に緊張感と生命力を与えていました。アマチュアでこのような演奏が聴けることは本当に素晴らしいことです。初演はライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団メンデルスゾーンが指揮し設立した楽団)だったにも関わらず、です。つまりそれは明らかにプロ向けの作品であることを意味するのですから。それをアマチュアがしっかりと演奏してしまう・・・

ここに、日本のアマチュアのレベルの高さが見て取れます。そしてそれは、確実にプロへと波及しています。先日、NHK交響楽団が新しいコンサートマスターが就任することを発表しました。長らく読売日本交響楽団で演奏されて、半ばNHK交響楽団に移籍という形になりますが、若い才能がどんどん出てきており、正直海外オケを聴く意味は何か?と自分に問わずにはいられません。そのうえで、アマチュアのレベルが上がってきていることを鑑みますと、海外オケも含め、プロオケを聴く意味とは?と、今回のクレセント・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聴いて再び頭を巡らせています。

最後の「フィンガルの洞窟」も朗々とオケが歌い上げており、音を味わいつつも感動が体を巡っておりました。次回は何と!映画音楽特集のようで、「スターウォーズ」もプログラムに入っているそうな。新しい挑戦が始まるようで、これもまた足を運びたいと思います。

 


聴いてきたコンサート
クレセント・フィルハーモニー管弦楽団 第44回演奏会
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト作曲
フルート四重奏曲第3番ハ長調K.Anh.171(285b)
ジョアキーノ・アントーニオ・ロッシーニ作曲
歌劇「ブルスキーノ氏」序曲
フランツ・ペーター・シューベルト作曲
交響曲第3番ニ長調D.200
ヤーコブ・ルートヴィヒ・フェーリクス・メンデルスゾーン・バルトルディ作曲
交響曲第3番イ短調作品56「スコットランド

序曲「フィンガルの洞窟」

佐藤寿一指揮
クレセント・フィルハーモニー管弦楽団

令和7(2025)年2月1日、東京、三鷹三鷹市芸術文化センター風のホール

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