コンサート雑感、今回は令和6(2024)年3月16日に聴きに行きました、毘沙門天管弦楽団の第64回演奏会のレビューです。
毘沙門天管弦楽団さんは、東京のアマチュアオーケストラです。創立は平成元年(1989年)。ちょうど私が中央大学に入学した年なのですが、実は毘沙門天管弦楽団さんはその中央大学管弦楽団のOB・OGたちが中心になって設立したオーケストラなんだそうです。下記WEBサイトには記載がないんですが、チラシには記載がありました。おそらく現在は出身大学にこだわらず集まっているのだと思います。
毘沙門天管弦楽団さんの名前は以前から存じ上げておりましたが、まさか中央大学管弦楽団の卒業生たちが設立していたとは!そう、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団さんと同じなんですよね。実はその中央大学管弦楽団のOB・OGたちが創設ということが、今回足を運んだ理由でした。この日、先月までは実はコンサートに行かない予定でした。3月16日は、全国の鉄道会社のダイヤ改正の日です。そのため、私は九州へ行くことを計画していましたが、予算の関係で月末~4月上旬に変更したので、ちょうど空いていたのでした。
双方のブックレットを比較してみると、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団さんとはメンバーが異なりますので、卒業年度で異なるということになるんだと思います。
そして、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団さんよりは年齢層が広そうです。その点では、中央大学管弦楽団のメンバー、つまり学生は入っていないように見受けられました。それはまた毘沙門天管弦楽団さんの特色であると言っていいと思います。
サイトにも記述がありますが、「毘沙門天」という名称がついているのは、創立時の指揮者であった上杉隆治氏(元東京都交響楽団コントラバス奏者、2004年逝去)が戦国大名である上杉家ゆかりの方だったということで、上杉の旗印である「毘」が意味する毘沙門天をその名に冠したそうです。仏教における天部の一つで、寺院に行くと四天王が安置されていることがありますがそのうちの一つです。北方を守護するものとされています。四天王だと「多聞天」と呼ばれます。
私自身も、大学時代のサークルが古美術研究だったので、よく東大寺戒壇院の四天王を見に行ったものです。多くを聴き仏法を守護する天部です。その名を背負っている感じが、演奏から伝わって来たというのが、全体を通しての感想です。
今回のプログラムは、以下の通りです。
①グリーグ 序曲「秋に」
②シベリウス 「カレリア」組曲
③シベリウス 交響曲第2番
北陸本線から特急が消え、新幹線が敦賀まで延伸するその日に、シベリウスの交響曲第2番・・・どこか、運命を感じます。
まずはグリーグ。冒頭の管楽器、そして続く弦楽器・・・うまい!特に、管楽器の表情のつけ方が素晴らしい!どこか歌っているんです。アマチュアらしい不安定な部分もありますが、全体としては非常に歌っています。特に金管はただ強く吹かせるのではなく、時に豊潤に時に朗々と鳴らします。ホールは多摩地域ではデッドな調布市グリーンホール。しかしそのハンデをみじんも感じさせません。
「秋に」はグリーグの演奏会用序曲ですが、若い時の作品です。それゆえなのか、どこかドイツ的な響きもあり、さらにとても歌になってもいます。それが歌っている理由なのかもしれませんが、いずれにしても、年齢層が広い中でそれだけの演奏ができるのは、驚きです。
続く「カレリア」組曲はシベリウスの中でも比較的有名でなじみ深い作品だと思います。「アラ・マルシア」で出て来る主題はテレビ番組のテーマ曲になったこともありますので、ご存じの方もいらっしゃると思います。
今回の演奏で印象的だったのは、特にアラ・マルシアの部分はまるで舞曲なのですが、それを楽しそうに弾いているという点なのです!それによる生き生きとした、作品の魂が現出するような演奏は、もう酔いしれました。しかも、ここまで弦楽器に痩せた音がないんです!いやあ、またまたとんでもないアマチュアオーケストラに出会ってしまった・・・
「行進曲風に」と付いていますが、冒頭は全く行進曲には聴こえません。まるでどこかで踊りがあるかのようです。しかし、最後の方に来ると盛り上がり、まるで3拍子のマーチのよう・・・そう!まるでナポレオンマーチです!そう考えると、パトリオティストであったシベリウスの若き日の血潮がみなぎっているかのようですが、その表現が素晴らしい!
休憩の後の、シベリウス交響曲第2番。この曲も決して簡単な作品ではないと思います。この曲を私もいくつかのアマチュアオーケストラで聴いていますが、どこかに痩せた音って入るんです。それが一切ない!しかも、体を揺らして精一杯弾くヴァイオリンなどの弦楽器。気持ちが入っているのが分かります。そのうえでアンサンブルは崩壊せず、むしろ美しい響きが生まれます。
明るい感じの中に、どこかくらい運命が控えているかのような第1楽章もしびれます。緩徐楽章ですが徹底的に暗い、フィンランドという国の現実を突きつけるかのような第2楽章の暗さも絶品!
そして、テンポ的には多少ゆったり目なのに、激しさを十分すぎるほど感じる第3楽章。ここに毘沙門天管弦楽団さんのうまさを本当に感じます。このテンポでもその激しさを感じることが出来るのか!と。実は私としてはそれほど好きなテンポではなかったのですが、説得力のある演奏でした。アマチュアでその演奏ができるのか・・・もうこれだけで感動なのですが・・・
引き続いて突入する第4楽章。まるでフィンランドという国の将来が明るいかのような、穏やかかつ壮麗な音楽!もうここで私感極まりつつありました・・・テンポも多少ゆったり目ですが、いやあ、もうそのテンポのほうがいいよ!という印象すら受けます。それは指揮者の解釈ではありますが、その解釈を実査に演奏するのはオーケストラですので、その表現力が高いレベルにあることを意味します。
波を打つかのように変化しながら押し寄せる主題。特に最終部分はこれでもか!という感じで繰返されてクライマックスを迎えますが、もう最後の部分で私泣いていました・・・嗚咽が止まりません。そして万雷の拍手!当然だと思います。ちなみに、「カレリア」組曲と交響曲第2番ではブラヴォウ!がかかりました。これも当然だったと思います。偶然ではなく必然という言葉がありますが、まさにその通りの演奏でした。
毘沙門天のごとく、他者を思いやりながら相互に音を聴きあい、そのうえで自分のパフォーマンスに集中し、アンサンブルを作り上げている様子が、演奏から手に取るようにわかるのです。それによって紡ぎ出されたのが、終止感動的な演奏でした。
そしてアンコールもまたシベリウスのやさしさにあふれる曲。それを本当にいとおしく楽しそうに演奏するんです。まるで作品に共感しているかのように。本当に素晴らしい!次回もぜひとも足を運びたくなりました。
こうなると、もう普通のカレンダーでは対応できません。ちょっと、PCで予定を管理するアプリ、導入考えます・・・いや、これは嬉しい悲鳴です。その悲鳴を上げさせてくれた毘沙門天管弦楽団さん、あっぱれです!
聴いて来たコンサート
毘沙門天管弦楽団第64回演奏会
エドヴァウルド・グリーグ作曲
「秋に」作品11
ジャン・シベリウス作曲
「カレリア」組曲 作品11
交響曲第2番ニ長調作品43
アンダンテ・フェスティーヴォ(アンコール)
横山俊充指揮
毘沙門天管弦楽団
令和6(2024)年3月16日、東京調布、調布市グリーンホール 大ホール
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。