かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:府中市民交響楽団第90回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年10月5日に聴きに行きました、府中市交響楽団第90回定期演奏会のレビューです。

府中市交響楽団さんは東京は府中市のアマチュアオーケストラです。アマチュアオーケストラの中でも市民オーケストラと言われる団体になります。私も最近は足しげく通わせていただいている団体です。

www.fuchu-cso.org

市民オーケストラの中ではレベルの高い団体だと思います。歴史も長く市民に愛される団体であることもまた特徴です。フランチャイズ府中の森芸術劇場どりーむホールですが、現在改修工事中のため今年の演奏会は全て他の市のホールを使っています。第89回は調布市グリーンホールでしたが、今回の第90回はひの煉瓦ホールでした。日野市役所の隣にあるホールで日野駅からも多少遠い場所にあるのですが、駅のバス停には長蛇の列。川崎市宮前区の宮前フィルハーモニー交響楽団を髣髴とさせる光景でした。宮前フィルがフランチャイズとする宮前市民館も東急田園都市線宮前平駅から多少距離がありひの煉瓦ホール同様丘の上にあるのですが同様に駅からぞろぞろ人が歩いておりごった返すという状況です。府中市交響楽団さんにも、同じように市民のファンが根付いていると実感した瞬間でした。

今回のプログラムは以下の通りです。

ベートーヴェン 交響曲第2番
メンデルスゾーン 交響曲第3番「スコットランド

交響曲2つなんてお腹いっぱいって思うところですが、最近このようなプログラムを組む団体が増えてきました。確かに交響曲2つというのは一見すると大変なように思えますが、例えば1プロに短い曲、2プロにもう少し長い曲、メインに交響曲とした場合、楽譜が3つ要る上にそれぞれ練習する時間を取らねばなりません。短い曲と言っても練習はしっかりやらねばならないわけですから、仕事も他に持っているアマチュアがそれなりのレベルで演奏するためには、曲数を減らして1曲に懸ける練習時間を多く取らねばなりません。しかも、アマチュア団体は決して金持ちとは言えません。楽譜もただではないのでそれは団の持ち出しになります。できるだけ少ないほうがいいわけなんです。府中市交響楽団さんは無料のコンサートが特徴ですが、これも実は無料にするほうがホールを借りるとき格安で借りることができるからという背景もあります。おかげで聴衆はあまりコストをかけずに済みますが一方でそれはその団体に資金的に余裕がないという背景もある、ということです。資金の状況と演奏レベル、聴衆との対話などのバランスを考えた結果だと言えます。

そして今回のプログラムは、古典派ベートーヴェンと前期ロマン派メンデルスゾーンという組み合わせ。これもまた興味深いところです。今回の演奏会はその視点が色濃く出たコンサートだったと思います。それは2曲のテンポの違いに明確に表れていました。

1プロのベートーヴェン交響曲第2番は、ベートーヴェン交響曲のうち、自身の個性を前面に打ち出し始めた作品と言えます。ですが音楽史の中においては確実に古典派と言える作品でもあります。そうなるとテンポとしては多少速めということになるわけなんです。実際、指揮者の稲垣さんは速めのテンポを採用。そのテンポについていく府中市交響楽団さんも素晴らしいですし、何よりアインザッツもそろったうえでやせた音も少ないレベルの高さをキープできるのも素晴らしいです。その演奏が生み出す生命力とエネルギーが、魂を揺らします。ちょうど第2番を作曲した当時のベートーヴェンはそろそろ聴覚が厳しいという時点で、ハイリゲンシュタットの遺書なども書いているような時期でもあります。しかし第2番には悲愴感が全く感じられません。ハイリゲンシュタットの遺書はある意味間違った解釈がなされることが多いのですが、臨床倫理学あるいは対人援助の視点で見ますと、実は苦悩を手放し新しい自分に生まれ変わるナラティヴセラピーの役割を果たしていると解釈できるものなのです。

そうなると、第2番という作品を演奏する場合、視点を改める必要があるわけです。聴覚を減じつつも、芸術の道を究めようとする決心を表明した第1歩だったとも言えます。あるいは、まだ聞こえる時点でやりたいことを全部詰め込んでやろう!という意欲作とも取れます。であれば、作品には物凄いエネルギーが詰まっているわけで、そうなるとやはりテンポとしては古典的な速めのテンポを採用しエネルギッシュにという稲垣氏の解釈は至極真っ当だと思います。

一方、メンデルスゾーン交響曲第3番「スコットランド」は、実はメンデルスゾーン最後の交響曲です。完成は1842年。ベートーヴェン交響曲第2番が1803年であることを考えますと、その差39年、ほぼ40年です。この1840年代という時代をどうとらえるかは実は判断が分かれると個人的には考えています。私自身は速めのテンポでもいいと思っていますが、当然ゆったり目のテンポを採用してもおかしくないんです。前期ロマン派の作品ですから。指揮者の稲垣さんは遅めのゆったりとしたテンポを採用しました。府中市交響楽団さんとの関係性も深いことから、そのテンポの差をものともせずオーケストラはついていきます。非常に饒舌で雄弁です。ただ、私個人としては速めのテンポが好きですが、説得力のある演奏は見事です。

指揮者の稲垣さんは、作曲年代によってテンポを変えるという判断を今回はしたということになろうかと思います。他の演奏を聴いていないので常にその解釈なのかはわかりませんが、テンポから判断すれば古典派とロマン派とではテンポを変えたと今回は判断できるでしょう。聴衆側としてはその判断の好き好きは分かれるかと思います。ベートーヴェンメンデルスゾーンという二人の作曲家をどのようにとらえるか、作品の成立年代からどう判断するかは、この二人が活躍した時代を考えますと単純ではないと考えるからです。私自身は、後期ロマン派に至るまでは比較的速いテンポという解釈でいいと思っています。しかしだからと言って遅いテンポを否定するわけでもありません。演奏にどれだけ説得力があるかで決まります。稲垣さんは、説得力のある指揮をされると言っていいでしょう。

マチュアオーケストラの演奏会に行きますと、このような才能に出会えるのが素晴らしいと思っています。確かに、今プロオケで指揮されているベテランの方も素晴らしいですが、若い才能を見つけることもまた楽しいことなのです。その若い才能が見つかるのはアマチュアオーケストラの演奏会であることが多いです。今回もそのような若い才能に触れて楽しかったです。府中市交響楽団さんの次回の定期演奏会は新装なった府中の森芸術劇場に戻ります。その時またどんな演奏を聞かせて下さるのか、今から楽しみです。

 


聴いて来たコンサート
府中市交響楽団第90回定期演奏会
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第2番ニ長調作品36
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
交響曲第3番イ短調作品56「スコットランド
稲垣雅之指揮
府中市交響楽団

令和6(2024)年10月5日、東京、日野、ひの煉瓦ホール大ホール

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