かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:くじら第九合唱団 昭島60 第6回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年8月4日に聴きに行きました、くじら第九合唱団 昭島60さんの第6回定期演奏会のレビューです。

くじら第九合唱団 昭島60さんは東京都昭島市にあるアマチュア合唱団です。昭島市制60周年を記念してベートーヴェンの第九を歌うための合唱団として昭島市の支援で設立された合唱団ですが、現在は昭島市の支援から独立し自主運営になっているそうです。「くじら」というのは昭島市で古代のくじらの化石が発掘されたことから名づけられています。日本列島がいかに地殻変動の激しいところに位置しているのかを認識させられます。

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この合唱団を聴きに行ったきっかけはアマチュアクラシック音楽団体のコンサートのポータルサイトであるi amabileですが、実は昨年も聴きに行ったこともあり、今年も行きたいと思っていたところでした。

ykanchan.hatenablog.com

昨年がオール・モーツァルト・プログラムでしたが、今回はドイツロマン派プログラムとなりました。曲目は以下の通り。

メンデルスゾーン 「夏の夜の夢」から第10曲ファンファーレ
ブラームス 運命の歌
メンデルスゾーン 交響曲第2番「讃歌」

①以外は合唱を伴う作品です。昨年も1プロがそういう曲でしたので、恐らく毎年そんな構成にしているのだと思います。ちなみに、来年はフォーレのレクイエムとブルックナーのテ・デウムとのことですが、実際には同じような構成になって1プロには祝祭的な管弦楽作品が並ぶのではないでしょうか。

1プロの「夏の世の夢」は以前は「真夏の夜の夢」と呼ばれていた作品ですが、最近は「真夏」ではなく「夏」と表現するそうです。その理由はその夏というのがどちらかと言えば初夏のことを指しているからだそうです。確かに、初夏だと真夏ではないですから。「14歳、真夏の大冒険!」は確かに東京は真夏でしたが・・・・・そういえば、今回のパリ・オリンピックでも女子スケートボードストリートの金メダリストはやはり14歳の吉沢恋(ここ)さんでした。それにしても日本っていつからこれだけスケボー強かったのでしょうか。驚きです。

その1プロの「夏の夜の夢」、本来は管弦楽曲ですが、出てきたのはトランペットとトロンボーン。管楽器だけです。そういう編曲の上で演奏されました。こういう編曲、好きです。しかもオーケストラもプロなので力強く安定感があるのも、祝祭感で盛り上げます。これで入場無料です。太っ腹・・・

オーケストラはプラネット・テラ・オーケストラ・プロジェクト。新進気鋭の若手で構成されたオーケストラで、昨年もくじらさんの定期演奏会で共演されています。おそらく個人で活動されている方々で構成されていると思いますが、その安定した演奏は聴いていて本当に素晴らしかったです。そりゃあ、金管だけでも素晴らしいわけです。

2プロから合唱団登場。まずはブラームスの「運命の歌」。ブラームスはオーケストラと合唱という曲をいくつか作曲しており、その中の1曲です。日本だとちょうど明治維新の時期に当たる1868~71年にかけて作曲された作品で、作詞はヘルダーリンで「ヒューペリオン」。ヘルダーリン統合失調症の中で生み出された詩ですが、その詩にブラームスが感動し共感して生み出されました。

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この詩の内容はとても深く、特に抜き出された内容は自然界の美しさに人間の愚かさと小ささを対比しているのですが、その内容に相応しく音楽が二つに分かれています。その差をつけるのがとても難しい曲なのです。私も歌った経験がありますが、特に高音でピアニッシモの部分はアマチュアにとっては難しいです。さらに、途中低音でもピアニッシモになり合唱だけで歌う部分がありますがそこが最大級に難しいのです。

その部分ですが、くじら第九合唱団さんはメゾ・ピアノで歌うことで解決していました。正直言えば、そこはしっかりとピアニシモで歌ってほしかったところですが、昨年も言及しましたが、平均年齢高いんです、この合唱団・・・しかし素晴らしいのは、そのメゾ・ピアノにして多少大き目で歌うことで発声が安定していたという事。それゆえに聴いていて不安に思うことがないことは素晴らしかったと思います。本当にブラームスの「運命の歌」は難しい曲なので・・・これはしょうがないかなと思います。

その後の、人間を描く荒々しい部分はダイナミックな表現になっており、まさに堕ちてゆく人間の堕落がしっかりと表現されていたのは圧巻です。発声はどの合唱団に比べてもしっかりしているので、その点が聴いていて思わず感動してしまう点です。アマチュアの演奏で落涙寸前まで「運命の歌」で行くことはほとんどありませんが、この演奏では泣く寸前まで行きました・・・

ただ、一つ気になったのは、テンポが多少文切り風だなあとと言う事です。後期ロマン派なのでもう少し揺らしても良かったかなあと思います。合唱団はついていけると思います。

後半の3プロはメンデルスゾーン交響曲第2番「讃歌」。1840年グーテンベルク活版印刷400年を記念してライプツィヒ市から委嘱されて作曲された作品です。内容は1534年にマルティン・ルターが編纂したドイツ語の旧約聖書から抜き出された、神を賛美するものである意味宗教的な作品です。なのになぜ活版印刷?関係ないでしょというア・ナ・タ。中学校や高校の世界史の授業を思い出してみてください。活版印刷の技術はメディアを生み出し現代にも影響を与えた技術ですが、なぜ生まれたのかと言えば、実はヨーロッパにおけるキリスト教宗教改革によってプロテスタントが生まれその思想を広めるために聖書を印刷するためだったと習いましたよね?そのため、活版印刷を讃えるために、歌詞が旧約聖書から抜き出された、ということになります。要するに、間接的には宗教改革を賛美するためのイベントだったということになります。

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ここを押さえておかないと、歌うほうも、また聴くほうも、なんだかおかしな印象を持ってしまいますが、世界史の素養がありますと、なーるほど!となるわけなんです。

当日、歌詞カードも配られましたが、確かに並んでいるのは神を賛美する内容ばかりです。一方でこの曲は交響曲。決して宗教曲のカテゴリーではないんです。例えば、メンデルスゾーンもオラトリオを書いていますが、この曲はオラトリオでもなく交響曲であるということなんです。2部制になっていて第1部は三楽章が管弦楽のみ。第2部がいわば第4楽章的で合唱が入る・・・となると、何かを想起しませんか?そう、ベートーヴェン交響曲第9番です。証拠は残っていませんが、もともと交響カンタータとされていたことを勘案しますと、メンデルスゾーンの中にはベートーヴェン交響曲第9番が念頭にあったはずだと個人的には判断しています。なぜなら、「讃歌」もベートーヴェン交響曲第9番も、同じく反骨の曲だからです。「讃歌」はキリスト教カトリックに対して。ベートーヴェン交響曲第9番専制主義における人々の分断に対して。

そのうえで、メンデルスゾーン自身も、そもそもはユダヤ人でありつつもプロテスタントに改宗したという過去を持ちます。そういったメンデルゾーンもバックボーンも、この曲の成立に関わっているのではと思います。

その内容を踏まえたうえでどこまで表現できるかがこの曲の肝だと思いますが。合唱団が入って来た途端、壮大な世界があらわれるのです・・・素晴らしい!しかも、この曲は前期ロマン派なので多少テンポが文切り型でもいいはずですが、多くの解釈に基づき、テンポを揺らしてもいます。それが心地よいのですが、それでも合唱団は崩壊しませんし、力強く美しいフォルティシモ!これなら、「運命の歌」でもやれたはずなのになあと思いました。「讃歌」で出来ている分、「運命の歌」は少し残念・・・でも、どちらも素晴らしい演奏であったことは間違いないです。

ソリストも素晴らしいですが、本当に合唱団が素晴らしい!これが平均年齢が高い合唱団なのか?と思うくらいの安定した発声とそれが生み出す美しく力強い声楽が魅力的。全体的にフォルテで歌う部分が多いからというのも理由かもしれませんが。とはいえ、ホールは昨年と同じFOSTERホール(昭島市民会館)。デッドなホールなのにその点を気にさせないだけのダイナミックで生命力ある声楽には、ついに泣いてしまいました・・・

最終部分では、ベートーヴェン交響曲第9番バリに音の跳躍が合唱部分にもありますが、そこもばっちり!さすがそもそもはベートーヴェン交響曲第9番を歌うために結成された合唱団だと思います。最後ブラヴォウ!が飛んだのは当然だと思います。

それにしても、くじら第九合唱団 昭島60さんは市民に愛されているなあと思います。当日もホールはほぼ満席。市民にはあまりなじみがないであろうブラームスの「運命の歌」とメンデルスゾーンの「讃歌」でほぼ満員になるというのは、惹きつける魅力がないと無理だと思います。合唱団の実力故の魅力ではないかとおもいます。私自身は昭島市民ではないですが、コア・アプラウスのメンバーも参加されているとのことなので、また来年も足を運びたいなあと思います。

 


聴いて来たコンサート
祝 昭島市制施行70周年
くじら第九合唱団 昭島60 第6回定期演奏会
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
「夏の夜の夢」第10曲ファンファーレ(永井秀和編曲)
ヨハネス・ブラームス作曲
運命の歌 作品54
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
交響曲第2番変ロ長調作品52「讃歌」
渡辺智美(ソプラノ1)
松田晏葉(ソプラノ2)
井上元気(テノール
渡辺智博指揮
プラネット・テラ・オーケストラ・プロジェクト
くじら第九合唱団 昭島60

令和6(2024)年8月4日、東京、昭島、FOSTERホール(昭島市民会館)大ホール

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