かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:ニュー・ワールド・ジャズ

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、ニュー・ワールド・ジャズというアルバムをご紹介します。

クラシックではなくジャズ?と思うかもしれませんが、実はこの演奏を指揮しているのは、マイケル・ティルソン・トーマス。オーケストラはそのティルソン・トーマスが設立したニュー・ワールド交響楽団なのです。ニュー・ワールド交響楽団は、音楽大学を卒業した学生が卒業後も活動できるように設立されたオーケストラです。

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この組み合わせで演奏されるのが、ジャズ、というわけです。私達日本人だとジャズとクラシックは別物という印象がありますが、しかしながらアメリカにおいてはこの二つがクロスオーバーしていることも多く、さらにガーシュイン作曲の「ラプソディー・イン・ブルー」でクラシックナンバーに加えられ、ある意味ジャズを題材とした作品はアメリ国民楽派、あるいはアメリ新古典主義音楽と言えるような位置にあります。

まず第1曲目から私達日本人を驚かせるのは、ジョン・アダムズ作曲の「ロラパルーザ」です。ジョン・アダムズという作曲家は複数いらっしゃるようですが、検索してみるとほぼジョン・クーリッジ・アダムズのことを指す様です。このアダムズはそもそもはミニマムミュージックの作曲家。「ロラパルーザ」は何とそもそもロックフェスティバルだそうで、そこでどうやらミニマムミュージックも演奏されたみたいです。ネットで検索した範囲内ではここまでしかわかりませんが、少なくともクロスオーバーの音楽であることを示唆しています。タイトルである「ニュー・ワールド・ジャズ」というのが「クロスオーバー」を意味することを高らかに宣言しているように感じます。

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ミニマムミュージックなので、同じ旋律が繰り返すわけなのですが、それがどこかクラシックのようなライトミュージックのような・・・そういえば、ベートーヴェン交響曲全集をナガノ・チェンバー・オーケストラで指揮した久石譲氏はベートーヴェン交響曲を「ロックである」とライナーノーツで書いていますが、久石氏はこういったアメリカの活動を下地にしてのベートーヴェン交響曲全集だったと考えれば、腑に落ちます。

演奏も、くりかえしなのに存在感があり、盛り上がっていくさまは、オーケストラもノリノリの様子がうかがえます。そう考えますと、ミニマムミュージックはラヴェル管弦楽手法にも通じるものがあります。そういえば、久石氏もNHKアカデミアでラヴェルに触れていたように記憶しています。

2曲目はジャズがクラシックナンバーに加えられるきっかけになった、ガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」。CDでは1922年版とありますがおそらく19224年版の間違いだと思います。そもそもはピアノのための作品を、作曲家グロフェが管弦楽とピアノへと編曲した作品です。初演もグロフェによって指揮されていますが、その版を使用したようです。ピアノを指揮のティルソン・トーマスが弾くことで、ジャズでありつつも実はバロックや古典派のピアノ協奏曲の雰囲気を持つ作品であることを示していると思いますし、またそのことでオーケストラも実にノリノリの楽しい演奏を繰り広げています。

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3曲目はレナード・バーンスタインの「プレリュード、フーガとリフ」。リフとは主にある旋律をくり返すことなので、ある意味ミニマムミュージックにも通じます。なぜ1曲目がミニマムミュージックだったのかが、ここで種明かしされると言えるでしょう。そのうえで、この作品の初演ではジャズの大御所であるベニー・グッドマンと共演しています。そういう歴史を踏まえて、このアルバムに収録されたと言っていいでしょう。そのうえ、途中ジャズらしい旋律とセッションもあります。そのセッションを参加している人たちが楽しんでいる様子が生き生きと聴こえてきます。

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4曲目で登場するのは何とフランスの作曲家ミヨー。バレエ音楽「世界の創造」です。これが冒頭からジャズなんです。確かにジャズはある意味舞曲でもあり、本場アメリカではそもそもダンスミュージックでもありました。そのうえで陰影もある音楽が、精神性まで表現しているかのよう。ミヨーがアメリカ訪問でジャズに衝撃を受けたことで成立した作品ですが、ある意味ジャズという音楽の本質を見抜いたうえで採用したことは、ミヨーが優れた作曲家であることを示しています。その点への共感あふれる、端正かつしなやかでダンスフルな演奏になっています。

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5曲目に登場するのが、何とイーゴリ・ストラヴィンスキー。ロシアだとジャズって影響ないように思えますが、ショスタコーヴィチも映画音楽に於いて採用していたり「ジャズ組曲」を書いていたりと、実はロシアに於いてもジャズは影響を与えています。5曲目であるエボニー・コンチェルトはクラリネットとジャズバンドのための作品ですがこのアルバムにおいてはジャスバンドの代わりにオーケストラになっています。ジャジーな雰囲気満載で、その雰囲気を思う存分味わっている様子が聴こえて、こちらも楽しくなります。下記ウィキペディアの頁でもストラヴィンスキーの言葉で言及がありますが、古典的な協奏曲というよりはコンチェルト・グロッソという印象が強く、ジャズセッションがバロック期の編成に範をとったかのような印象すらあります。ドビュッシーがフランス・バロックに範をとり象徴主義、そしてその後の印象主義音楽を切り開いていったことを考えますと、ジャズもその延長線上にいるような気がします。

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6曲目がヒンデミット。「ラグタイム」は検索してもなかなか出てこないのですが、そもそもはピアノのための作品だそうです。どんな経緯でオーケストラへ編曲されたのかは検索した結果では見えてきませんでしたが、何となく1936年のベルリン・オリンピックと関係がありそうです。ヒンデミットは実はナチスによって退廃芸術家指定されてその音楽の発表および演奏が禁じられましたが、ベルリン・オリンピックの時だけは西欧諸国の非難を回避するため演奏禁止が解除されています。その時に編曲されたかなあと個人的には推測しています。演奏はそのヒンデミットの憂いを晴らすかのようなはっちゃけぶりです。

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7曲目がジョージ・アンタイルのジャズ・シンフォニー。アンタイルはアメリカの作曲家で、主に機械的な作品を発表していた人ですが、それが世間には受け入れられず映画音楽や科学技術の分野で生計を立てていった人です。興味深いことに、このアンタイルが発表した論文によって、現在の私たちが携帯電話や無線LANが使えているそうです。

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そのアンタイルが作曲したジャズ・シンフォニーは、ジャジーな側面もありますが機械のリズムなどを題材にした作曲家らしく機械的なリズムに支配されてもいます。その意味では、やはり現代に通じる音楽を紡ぎ出した人だったと言えるでしょう。そもそもが技術者としての才能もあったようなので、技術と芸術の融合を目指した人だったのかもしれません。オーケストラもそのバックボーンの上生まれた芸術を、現代人だからこそ楽しんでいるようです。

最後8曲目はデイヴィッド・ラクシンの映画「悪人と美女」からそのテーマ音楽。検索するとラクシンなのですがCD表記ではラスキンと書かれてありました。どっちが正しいのだろうとかなり悩みましたが映画のサイトでラクシンという表記がありましたのでラクシンと表記しようと思います。ラクシンはアメリカの作曲家で主に映画音楽に携わりました。アメリカ映画音楽と言えばコルンゴルトが想起されますがそのコルンゴルトが映画音楽に取り入れたクラシック音楽の逆をやったのがラクシンだと言えるでしょう。ティルソン・トーマスがその映画音楽の歴史を踏まえてラクシンを持ってきたとすれば、このアルバムの意味がおぼろげながら見えてくるように思います。

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映画「悪人と美女」は1952年のアメリカ映画。ハリウッド映画界の裏側を描いたドラマです。そのBGMを担当したのがラクシンです。カーク・ダグラスが出演しているので見たことあるという年配の方もいらっしゃるのではと思います。それにしても、ある意味ドロドロの内容の音楽としてジャズを持ってくるかーと思います。ですがテーマ音楽は美しさも存在し、想いでの振り返りという側面もありそうで、その憂いを表現するためにジャズを採用したような印象です。演奏もどこか忘却の彼方をしっかりと表現しているかのようです。

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こう聴いてきますと、マイケル・ティルソン・トーマスが「ニュー・ワールド・ジャズ」として採用したことは、明らかにジャズがそもそもクロスオーバーの音楽であり、その本質に影響を受けた作曲家たちがさらにクロスオーバーの音楽を作り上げていったのだという点に尽きると思います。そして演奏するニューワールド交響楽団も、ライトな作品から深刻な作品までしっかりと表現できるという、いわばプロモーションにも成功している演奏だと言えるでしょう。日本でもアマチュアオーケストラが映画音楽も取り上げ始めており、特に昨年からはスターウォーズのサントラもコンサートピースに入り始めていることを考えますと、こういったアメリカなどの動きに影響されてという点も大きいのではと思います。映画音楽だとファミリーコンサートでということが多いのですが昨年からは定期演奏会で映画音楽が採用されるケースが増えています。そういえば、YouTubeのコメント欄で、管弦楽演奏の道に進んだのは宇宙戦艦ヤマトだったというものも最近目にしました。私自身もヤマトの音楽に魅了された一人です。ティルソン・トーマスがジャズをクロスオーバーの音楽の音楽として管弦楽演奏のテーマとして取り上げることは自然なことだと思いますし、また共感もします。クラシック音楽とは現代においてはなにを意味するのかを考えさせる演奏だと言えましょう。

 


聴いている音源
ニュー・ワールド・ジャズ
ジョン・アダムズ作曲
ロラパルーザ
ジョージ・ガーシュウィン作曲
ラプソディ・イン・ブルー1924年オリジナル版)
レナード・バーンスタイン作曲
プレリュード、フーガとリフ
ダリウス・ミヨー作曲
バレエ音楽「「世界の創造」
イーゴリ・ストラヴィンスキー作曲
エボニー・コンチェルト
パウルヒンデミット作曲
ラグタイム
ジョージ・アンタイル作曲
ジャズ・シンフォニー
デイヴィッド・ラクシン作曲
映画「悪人と美女」のテーマ
ジェローム・シマス(クラリネット
タッド・カルカラ(クラリネット
マーク・ニーハウス(トランペット)
マイケル・リンヴィル(ピアノ)
マーク・J.イノウエ(トランペット)
マイケル・ティルソン・トーマス指揮、ピアノ
ニュー・ワールド交響楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。