かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:デュトワとヤブロンスキーによるチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番と第3番「完全版」

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、チャイコフスキーピアノ協奏曲第2番と第3番を収録したアルバムをご紹介します。

チャイコフスキーピアノ協奏曲第2番と第3番は、私の手元では全集がそろっております。ポストニコワのピアノ、ロジェストヴェンスキー指揮ウィーン交響楽団のものです。

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さて、第2番はピアノ協奏曲として作曲されたものですが、第3番はそもそも交響曲として作曲され、その後ピアノ協奏曲として作り変えられた作品です。

ja.wikipedia.org

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そのため、第3番はいろんな形で「完成」されました。一つはピアノ協奏曲として、そしてもう一つは交響曲として、です。チャイコフスキーは1楽章だけしか残さなかったので、勿論それはチャイコフスキーがではなく、他人がということになるのですが。

そのため、以前タニェフ(ウィキペディアではタネ―エフ)が補筆したピアノ協奏曲としてのものを取り上げています。

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今回取り上げる音源も、ほぼタネ―エフ補筆版だと思います。いろいろ言われる第3番のピアノ協奏曲としての完成版ですが、実は大まかにはほぼチャイコフスキーが作曲したものが基礎となっています。完成形としてはチャイコフスキーは1楽章で残したのですが、スケッチとしては第3楽章まで構想しており、それを基礎としてまとめたのが作品79です。その作品79を第2楽章と第3楽章として使ったのがタネ―エフ版です。

そのタネ―エフ版を今回演奏するのが、ぺーテル・ヤブロンスキーのピアノ、シャルル・デュトワ指揮フィルハーモニア管弦楽団です。第2番の演奏も含め聴きますと、まずテンポが速い!ポストニコワとロジェストヴェンスキーの演奏が基本となっている私としては面喰いますが、不思議なことに2度3度と聴いていますと違和感が無くなってくるんです。第2番第2楽章のヴァイオリンとピアノとの掛け合いの部分の冗長さ、そして第3番が持つ不完全さというマイナス面を払しょくしていることがわかってくるのです。

そして、作品にいかに美しさが存在し、生命力もあるのかが浮かび上がってくるのです。それは特に第3番においては、作曲者であるチャイコフスキー自身にも分からなかった作品の魅力を引き出しているとも言えます。仮に今チャイコフスキーが生きていたとしたら、もしかすると驚くかもしれません・・・こんなにも自分が破棄しようとした作品にはいいところがあったのか、と。

確かに、第3番第1楽章は元々交響曲として作曲されたものなので、どこか霊感が欠けているとは思います。しかしながら、第2楽章と第3楽章に関しては、もともとピアノ協奏曲として成立させようとしてチャイコフスキーがスケッチしたものが基本になっているので、違和感がないんです。そして第2番は元々ピアノ協奏曲でさらに独創性としてヴァイオリンとの掛け合いを用いていることも、テンポが速いことで実に生命力を持って響いてくるのです。対話というよりも楽しいおしゃべりって感じ。でもそれが楽しいものであることがしっかり伝わってくるのです。

この演奏を聴きますと、チャイコフスキーが生きた時代のテンポは果たして現代私たちが聴きなれている、フルトヴェングラーなどが志向したどっしりとしたテンポだったのか?という疑問が湧き上がります。チャイコフスキーが決して西欧の音楽にどっぷりつかるつもりがなかったことを考えますと、むしろ古典的な速めのテンポを考えていたのかも?とも思えますし、あるいはどっちでもいいように作曲したかったのか?とも考えます。第3番の第1楽章をなぜ最初破棄しようとしたのかを考えるとき、チャイコフスキーの頭の中で作品をどんなテンポで鳴らしていたのか?ということも極めて重要なのかもと思います。

その意味では、この演奏は玄人向けだと思いますが、しかし素人でも十分楽しめる演奏だと思います。テンポが変わると作品の印象はどれだけ変わるのかを身をもって知ることが出来るからです。その体験があって初めて、さらにその先のことが理解できるわけなので。クラシックは一つの作品をいつまでも演奏していて前進がないという批判がありますが、果たしてそうでしょうか?他のジャンルにおいて、単なるまねだけが横行し、自分らしい演奏を追及することがないことは、私はそのジャンルの魅力の半分も理解していないように見えます。しかし庶民の楽しみ方を見回しますと、鼻歌で自分のテンポで歌って楽しんでいる人は大勢します。クラシック音楽が一つの作品をいろんな人が自分らしくスコアリーディングの上で演奏するということは、実は人間が音楽を楽しむ姿勢としてごく普通のことではないかと言う気が、この演奏を聴いてもひしひしと感じるのです。

 


聴いている音源
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
ピアノ協奏曲第2番ト長調作品44
ピアノ協奏曲第3番変ホ長調作品75
アンダンテとフィナーレ 作品79(事実上の作品75の第2楽章と第3楽章)
ぺーテル・ヤブロンスキー(ピアノ)
シャルル・デュトワ指揮
フィルハーモニア管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。