かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:オーケストラ・エレティール第70回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年9月8日に聴きに行きました、オーケストラ・エレティールさんの第70回定期演奏会のレビューです。

オーケストラ・エレティールさんは東京のアマチュアオーケストラです。東京電機大学管弦楽団卒業生が中心になって、共演経験のある他大学の卒業生も巻き込んで設立されたアマチュアオーケストラです。

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私は、前回第69回を調布市グリーンホールに聴きに行きまして、その時のエントリでも述べていますが、一大学だけではなく、他大学も巻き込んでいくことは少子化が進んでいる現在においてとても大切なことだと思います。今はネットの時代ですので、宮前フィルハーモニー交響楽団のようにネットを通じて交流できますので、一大学だけでという必然性は薄くなっていると思います。実際、中央大学管弦楽団も法政大学など他大学の学生が入っていますし、将来的には大学生が大学オケではなく普通にアマチュアオーケストラを設立するという時代になっていくような気がしています。

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この第69回の時にも感じましたが、本当に素晴らしいオーケストラだと思います。今回もその高い実力を示してくれました。

今回は二人の作曲家の最後の作品というテーマで、以下の2曲が演奏されました。

ラフマニノフ 交響的舞曲
チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」

ラフマニノフと言えば、交響曲第2番やピアノ協奏曲のほうが有名ですが、交響的舞曲を持ってくるところに、アマチュアらしさを感じます。チャイコフスキーの「悲愴」はもう超有名曲ですが、一つのテーマで取り上げるというのもまたアマチュアらしさを感じます。

今回、ホールは江東公会堂ティアラこうとう。江戸時代に掘られた運河沿いに建つホールで、響きがいいことが特徴。大ホールはクラシック音楽専用とも言えるホールで、数多の演奏会がここで行われており、プロオケも定期演奏会で使うホールです。そのホールをまさに楽器として使いこなしているのはさすが。過去の演奏会を調べると、かなりティアラこうとうでやっているので、半ばフランチャイズのホールのようになっているみたいです。

まずは、ラフマニノフの交響的舞曲。1940年の作品で、ラフマニノフ最後の作品です。ラフマニノフ自身は1943年に死去しますが、ロシア革命を逃れてアメリカへ亡命してからは生活を成り立たせるために作品をあまり作ることが出来なかったため、結果的にこの曲が最後になったそうです。舞曲となっていますが、性格的には交響詩とも言うべき作品で、舞曲の要素がありつつも交響曲のような構造を持ちます。

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指揮は前回第69回同様に、小森康弘さんでした、小林研一郎の弟子でもある小森氏の解釈は、舞曲に囚われないというものでした。聴いていてもあまり舞曲要素が少なく、所々に見えているという程度。むしろ、三楽章制を取っていてそのうえで「舞曲」としていることを鑑みますと、ラフマニノフの心の内を表現したものだったのではと思いますし、その解釈をしていたように思います。ロシア革命によって亡命し帰れなくなった身の上。そしてそのことによって作曲がままならない現状・・・自由に作曲できないという忸怩たる状況を、三楽章制と舞曲ということで、隠れキーワード「自由」を表わしているのではないかと、私個人としては考えますし、小森氏も同じ解釈をしているのでは?と思いました。そしてその解釈に対し、オーケストラが共感しまくり、素晴らしいアンサンブルになっていました。強烈なアインザッツと、しなやかな表現が、まるでラフマニノフの慟哭のようにすら聴こえたのです。

同じく「慟哭」ということで言えば、後半の「悲愴」も同じくでした。「悲愴」はチャイコフスキーなのでもっとメロディアスでまるで「歌」ですが、前回の「わが祖国」でも自分たちの歌を歌い切ったオーケストラ・エレティールさん。今回もしっかり歌い切ったと思います。ただ、やはり弦楽器に多少やせた感じが・・・でも、問題ないレベルです。体を使い切ってないという印象で、使い切っていればなんら問題なく演奏できたはずだと思います。それくらいのレベルの高さ。そして、その高いレベルが紡ぎ出す、チャイコフスキーが人生最後に遺した「慟哭の歌」を、見事に表現しきっていました。もう、涙が出そう・・・

さらに言えば、この「悲愴」には多少精神医学で言う「双極性障害」のような、そう状態とうつ状態が存在しますが、そのどちらもしっかりとした表現がなされ、人の弱さ、繊細さが存分に表現されていました。人生の浮き沈みを、そううつのような表現で描かれた作品の魂を掬い取るかのような演奏・・・

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これだけの演奏を、アマチュア・オーケストラで経験できるなんて、なんて幸せだろうと思います。帰り際エレベーターで一緒になったご婦人たちも口をそろえて「上手なオケだったね」とおっしゃっていましたが、私も同意見です。そしてやはり、第69回の時のエントリでも述べましたが、いい響きのホールこそふさわしいオーケストラだと思います。次回も足を運べればと思います。母体の電気通信大学管弦楽団さんは年末の定期がベートーヴェンの第九だそうで、これもちょっと興味を引いています。府中市民第九も今年は該当の年なのですが、何分府中の森芸術劇場は来年4月まで改修工事中。仮に府中が今年は休止ということになるのであれば、電通大さんの演奏を聴きに行くというのもいいなあと思っています。同じ多摩地域ですし、合唱団は調布市民の方が主体の様です。かつて多摩市民第九を中央大学管弦楽団がやったようなコラボレーションの様ですし(実は中央大学管弦楽団「第九」でも多摩市民の合唱団が参加したことがあります)、これもまた注目の演奏会になりそうです。

 


聴いて来たコンサート
オーケストラ・エレティール第70回定期演奏会
セルゲイ・ラフマニノフ作曲
交響的舞曲 作品45
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
交響曲第6番ロ短調作品74「悲愴」
小森康弘指揮
オーケストラ・エレティー

令和6(2024)年9月8日、東京、江東、江東公会堂ティアラこうとう大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。