かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:オーケストラ・エレティール第69回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年3月3日に聴きに行きました、オーケストラ・エレティール第69回定期演奏会のレビューです。

オーケストラ・エレティールは東京のアマチュアオーケストラです。1988年に東京電機大学のOB達が中心になり、共演経験のある他大学のメンバーも入って設立された団体です。

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少子高齢化が進む我が国において、このように1大学だけで集まるのではなく、広く人材を集める姿勢を、1988年という時点ですでに持っていることが驚きです。その時点で少子高齢化を考えていたかはわかりませんが、どんな理由であろうとも、結果的には開かれた姿勢が現在の結果を作っていると、演奏を聴いて感じています。

それは、何と言っても、その実力の高さです。特に、弦楽器。全くやせた音がないだけでなく、圧巻の表現力です。ppからffまでのダイナミクス、それが生み出す「歌」。アマチュアオーケストラとは思えないくらいです。体をよく使った演奏も、その表現の幅の大きさにつながっているのだと思います。

そんなオーケストラ・エレティールさんですが、私は聴くのは初めてです。今回足を運んだ理由は、メインがスメタナの連作交響詩「わが祖国」だったから、です。

「わが祖国」は全体で70数分かかる曲です。令和に入って、「わが祖国」が取り上げられる機会が増えたように思います。そして、今年はスメタナ生誕200年、没後140年だそうで、いわばスメタナ・イヤーです(ちなみに、実はベートーヴェンの第九初演200年にもあたり、スメタナベートーヴェンの第九初演の年に生まれた人だったと言えます)。

「わが祖国」と言えば、毎年5月にチェコプラハで行われる「プラハの春」音楽祭で初日に演奏され、チェコ大統領が臨席されることでも有名です。私も、クーベリックチェコ・フィルに復活して振った「わが祖国」の演奏をNHK・BSで見たのを思い出します。その時も、当時の大統領ハベル氏が臨席されたことは思い出深い出来事です。

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オーケストラ・エレティールさんは常設の音楽監督は置かず、自主運営でその都度指揮者を選任するという形を取っているようです。今回は小森康弘氏。実はこの方、東京芸術大学で師事したのが小林研一郎。その小林研一郎は、2002年の「プラハの春」音楽祭で「わが祖国」を東洋人として初めて指揮しています。しかも、担当オケはホスト役であったチェコ・フィルハーモニー管弦楽団。その時、小林氏はチェコ・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督だったのです。学生だった小森氏はプラハまで行って小林氏の指揮をその場で聴いたそうです(今回のコンサート前に言及されておりました)。結構こういうことは音楽をやっているとありまして、私自身も、アマチュアながら入っていた宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」音楽監督だった故守谷弘の、「飛翔」以外の演奏に付き合ったものです。彼の自作の作品「北のシンフォニー」初演のために室蘭まで行きましたし、毎年伊東で行われる「按針祭」に合唱団員として何度も参加いたしました。小森氏も同じようにお付き合いをしたのだなあと思います。そりゃあ、それがチェコ・フィルでプラハのルドルフィルムなら、お金があるのであれば行きたい!と思うのは当然だと言えます。

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恐らく、オーケストラ・エレティールさんがそんな小森氏に白羽の矢を立てたのだと思います。今回のプログラムを見れば、あ!と思われる方も多いかと思います。

スメタナ 歌劇「リブシェ」序曲よりファンファーレ
チェコ国歌
スメタナ 「わが祖国」

①と②は当日発表だったのですが、これ、実は「プラハの春」音楽祭で「わが祖国」が演奏されるときと全く一緒のプログラムなんです!以下はまさに、2002年の「プラハの春」音楽祭、小林研一郎指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏のYouTube。「リブシェ」序曲のファンファーレの後、チェコ国歌が奏され、そのあとに「わが祖国」が演奏されています。「リブシェ」のファンファーレの時には、当時の大統領、ハベル氏の臨席も見えます。

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今回の演奏会では、チェコ大統領の臨席は当然なかったのですが、できればチェコ大使の臨席もあっても良かったかなという気はしました。大使が恐れ多いと辞退した可能性はありますが・・・ですが、大使とは相手国における自国の代表です。チェコであれば、大統領の名代とも言えますので、できればチェコ大使の臨席が、このプログラムであればあっても良かったかなと思います。「わが祖国」を演奏するという場合には、他の団体だとチェコ共和国大使館の協賛が在ったりします。今回は諸事情で協賛が取れなかった、あるいはその判断をしなかったと考えられます。

この「リブシェ」を入れるというのは、実は私自身も、某SNSで主宰していた「ネット鑑賞会」でやっています。チェコ国歌の音源がなかったのでチェコ国歌を入れず、その代わり「リブシェ」序曲全曲にしています。このアイデア、実は亡きマイミクさんのアイデアでもあります。私が借用したのでした。

オーケストラ・エレティールさんの演奏は、府中市交響楽団さんの時とは異なり、自分たちの「歌」が最初から徹底されていたという点です。チェコ・フィルをまねるのではなく、自分たちの実力を信じて自分たちを歌を歌うことが徹底されていました。実は、第2曲「ヴルタヴァ」は私好みの少し速いテンポではなく、比較的ゆったり目のテンポで、それほど好きではないテンポなのですが、しかし聴いているうちに自分の魂から湧き上がってくる感動や喜びが分かるのです!それははっきりと演奏に説得力があることを示しています。プロオケではなく、アマチュアオーケストラで説得力のある演奏が聴けるとは!

しかも、独特なこともやっており、それはトロンボーンが4本だったこと。前半の3曲、「ヴィシェラフト」~「シャールカ」まではトロンボーンが4本なのですが、後半の「ボヘミアの森と草原より」~「ブラニーク」はトロンボーンが3本なのです。ウィキペディアによればトロンボーンは3本という記載がありますし、通常はどんなオーケストラ曲でも3本です。それをあえて前半は4本、後半を3本にしたのは、特に後半2曲「ターボル」「ブラニーク」にコラールが使われていることを念頭に置いたものだと想像できます。これだけでもアマチュア離れしています。

その意味では、ホールが調布グリーンホールだったことは、ちょっと残念に思いました。仮にこれが、府中の森芸術劇場どりーむホールだったら・・・と思いましたし、あるいは三鷹市芸術文化センター風のホールであったら・・・と。まあ、府中の森芸術劇場どりーむホールは当日日本フィルが使っていたので無理だったのですが。


その高い技術により自分たちの歌を歌うと言うことがなぜ実現できたのかを想像するとき、やはり創設時に東京電機大だけで固まるのではなく当時交流のあった白百合女子大実践女子大も巻き込んだからと言えるのではないかと思います。中央大学管弦楽団が、中央大学だけでなく周辺の大学の学生を受け入れて、少子化に対応し裾野を広げているのと一緒です。クレセント・フィルハーモニー管弦楽団中央大学管弦楽団と協働しているのとも一緒です。中央大学管弦楽団もクレセント・フィルハーモニー管弦楽団も近年急速に力をつけてきており、同じ現象が起こっていることを考えると、むしろオーケストラ・エレティールさんが模範を示し続けてきた成果が、中央大学管弦楽団やクレセント・フィルハーモニー管弦楽団という中央大学の関連で花開いているのではと思います。実際、当日も若い学生オケと思しき人たちの姿も大勢見かけました。

プロオケの演奏会に老人しか見かけないと嘆く向きが多いのですが、一方でアマチュアオーケストラに目を向けてみると、何と多くの若人が聴きに来ていることか!私たちクラシック・ファンが高いレベルをもとめることはいいことですし実際私もそうなのですが、しかしどれだけの人が若い人の成長を見守っているだろうかという気はしています。お金があるのでついプロを聴きに行くのでしょうが、そのお金の半分でもアマチュアに使えば、3倍程度クラシック音楽のコンサートに足を運べます(ひいては、それが公共交通の維持につながります)。プロオケを聴きに行きそだてることも大事なのですが、少子高齢化を考えた時、プロだけなくアマチュアも育てる必要があるように私は思います。

そのため、私は今後もアマチュアオーケストラの演奏会に足を運び続けたいと思います。スメタナが「わが祖国」という曲に託したチェコという国の未来を考えた時、私自身がクラシックファンととして同じようにできることは何だろうかと、強烈に考えさせられた演奏でした。今後も、できるだけオーケストラ・エレティールさんの演奏会に足を運びたいと思います。時には、中央大学管弦楽団を助けてもらえると、卒業生としては嬉しいです!

 


聴いて来たコンサート
オーケストラ・エレティール第69回定期演奏会
ベドルジハ・スメタナ作曲
歌劇「リブシェ」序曲よりファンファーレ
チェコ国歌
ベドルジハ・スメタナ作曲
連作交響詩「わが祖国」全曲
小森康弘指揮
オーケストラ・エレティー

令和6(2024)年3月3日、東京、調布、調布グリーンホール大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。