かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:スメタナ スウェーデン時代の交響詩集

今月のお買いもの、令和2(2020)年5月に購入したものをご紹介しています。スメタナスウェーデン時代の交響詩を収録したアルバムをご紹介します。e-onkyoネットストアで購入したハイレゾです。

スメタナと言えば、連作交響詩「わが祖国」で有名ですが、実は数多くの作品を書いています。それは交響詩でも例外ではなくて、「わが祖国」以外でもいくつか残しています。

それは知っていたのですが、では具体的にそれを聴いたことはあるかと言えばなくて、そんな折に検索していたら見つけたのがこの音源です。レーベルはナクソスで、こういう作品を取り上げるのはさすがナクソスだなあと思います。ハイレゾなので音もいいですし。

さて、このアルバムには「スウェーデン時代」とあります。スメタナチェコで名声を得ましたが、じつはその前にチェコ以外の国で活動しています。当時ヨーロッパは国民国家が成立するという時代。どの国でも民族主義が台頭し、時には不健康な姿すら見せていました。

そんな嵐の時代に、スメタナは作曲をしていたということはわかっていていいのではないでしょうか。さらに言えば、チェコはまだ他国の支配、あるいは影響下の中にいました。そんな中、自由な創作を求めて周辺国へのがれ、活動していた時期があり、スウェーデンにいた時代もそんな時期の一つです。

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スメタナ自身は民族派と言われる潮流の中にいました。もう少しリベラルなのが実はドヴォルザークで、両者は対立関係にありました。今から見ればどちらも十分民族的なのでささいなことをと思いますが、他国の強い影響下にある中では、そうならざるを得なかったということもあるでしょう。あれ、アジアのどこかの国みたいですねえ。

ええ、我が国のことです。やれ媚中だやれアメリカの押し付け憲法だとか、他国の影響力が強すぎるためにフラストレーションがたまり、極端な民族派が力を握っているという現状は当時のチェコそっくり、なのです。ですので私は常にスメタナドヴォルザークの作品を聴くにつれ、当時のチェコと今の日本に想いを馳せるのです。さて、今の〇〇会議の方々が、結局はどちらも変らないわけだからと極端な左翼叩きなどやめるのは何時になるのでしょうか・・・・・

さて、話をスメタナに戻しましょう。それでもドイツ的だと認識されてしまったスメタナは、なかなか成功せず、スウェーデンへ移住します。そんな中で書かれたのがここに紹介する交響詩です。

確かに、私たちは「わが祖国」のイメージが強いので、スメタナは極右ではなのかと思いがちなのですが、むしろスメタナは日本で言えば自民党リベラルのような立ち位置です。ドヴォルザーク立憲民主党という感じでしょうか。そんなスメタナです、じつはここに収録されている交響詩の中で、チェコを題材にしているのは実は一つもないのです。リチャード三世はイギリス・シェイクスピアの舞台が元ですし、「ワレンシュタインの陣営」はドイツの詩人、シラーの詩が元になっています。そして最後の「ハーコン・ヤルル」はスウェーデンのバイキングの英雄を題材にしており、チェコを思ったものは最後の「勝利の交響曲」だけです。これも現在では祝典交響曲と言われているものです。

こう見てみると、確かに当時スメタナのイメージは悪かったろうなあと思います。もちろん私から見れば十分チェコ的ですからくだらないんですが、当時は嫌な思いをたくさんしたわけです。チェコの政治体制が変ったのでチェコに戻っても、急進的民族派の影響力は強く、スメタナはなかなか成功しません(その意味では、早くからヨーロッパ全土で活躍するためドイツの作曲コンクールにせっせと作品を送って、ブラームスに見いだされることを選択したドヴォルザークは正しかったともいえます)。彼が認められたのは「わが祖国」の成立です。そして民族的題材のオペラ。この二つでようやく落ち着いたと言えます(実際は、失聴などで晩年もつらい思いをしますが)。

私とすれば、聴けば聴くほど、後年の煽情的なスメタナの音楽スタイルがすでに確立していると思うのです。そのスタイルを、チェコを思うのではなく、受け入れてくれているスウェーデンのためや、自分自身の感動を音楽で表現するなどで残したという作品たちばかりなのです。特に「リチャード三世」はオペラ「リブシェ」序曲に似た旋律もあり、リチャード三世をどこか祖国と重ね合わせているような感覚すら受けます(それだけで十分民族的ですけれど、当時も今も「うましかさん」がわんさかいた、というわけです)。

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え、チェコではリチャード三世上演できなかったのか?と思うかもしれません。できなかったとするだけの材料を私は持っていませんが、その可能性は高かったろうと思います。そうじゃないとスウェーデンへ移住しようと思うのか?と思います。スメタナ民族派ですが自由主義者でもあります。そんな人間が「王国」へ移住するのです。どれほどの閉塞感がスメタナにあったかは、それで想像できるでしょう。そんな時期の作品達だということを知って聴くと、私など落涙寸前になります。少なくとも、スウェーデンで上演を見て感動してスメタナが書いたのは間違いありませんから。

演奏はスヴァロフスキー指揮スロヴァキア・フィル。オケはナクソス常連のステディな演奏で定評のあるオケですが、ここではやはり昔は一つの国だったということもあり、かなり感情移入している感じを受けます。いいテンポとそのテンポが生み出すドラマが私にとってはちょうどよく、スメタナの立ち位置を明確にしているとすら思うのです。チェコ・フィルではなくスロヴァキア・フィルだからこその視点というか。

チェコと言えば、「プラハの春」などで私たちとしては感情移入もする国ではありますが、同時に連邦国家として様々な問題も抱えた国でした。そのためのちにそれぞれチェコとスロヴァキアに分かれたわけで、その一方のスロヴァキアのオケだと、冷静に物事を見ることができるように思うのです。そんな冷静かつ情熱的な感覚が見事にドラマとして結実したのが、この演奏だと思います。さて、韓国のオケが日本の民族的作品を演奏する日は来るのでしょうか?あるいはその逆は・・・・・両国の政治状況だと、なかなか遠い未来のように思われます。その意味では、チェコとスロヴァキアの関係性はうらやましいです。

 


聴いているハイレゾ
べドルジハ・スメタナ作曲
交響詩「リチャード三世」
交響詩ワレンシュタインの陣営」
交響詩「ハーコン・ヤルル」
勝利の交響曲より第3楽章スケルツォ
レオス・スヴァロフスキー指揮
スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団
(Naxos 8.573597)

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