かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~伊福部昭 釧路湿原

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリをご紹介します。伊福部昭の交響的音画「釧路湿原」を収録したアルバムです。

棚で見たとき、ほほう、伊福部もこういう作品書いているのね~と思い、手に取ったのを覚えています。しかも、演奏は新星日本交響楽団とずいぶん懐かしい名前。現在は東京フィルと合併したので存在しないオケですが、若いだけあり生命力はあったオケでもあります。

そんなオケを、ベテラン大友氏が振っているこのアルバム、じつはある目的のために作曲され、収録されたものでした。1993年、釧路にて「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」、通称ラムサール条約の第5回締結国会議がおこなわれました。その時に会場で放映され続けたNHKのハイビジョン「釧路湿原讃歌」のBGMとして作曲されたのがこの「釧路湿原」です。

伊福部は北海道出身でもあり、一時は営林署に勤めていたサラリーマンでもありました。そんな自然保護ともかかわりのある作曲家が作る、自然賛美の音楽・・・・・

伊福部らしいオスティナートたっぷりな、日本の旋律も詰まった、まさに日本が誇る湿地というものを歌い上げる作品です。スメタナの「わが祖国」第4曲「ボヘミアの森と草原より」のような物語性はほとんどないですが、同じく自然の美しさを歌い上げる作品にはなっており、4楽章をそれぞれ四季に分けています。しかも、第1楽章は夏。最終楽章を春にしているのです。これは上手な構成だと思います。なぜなら、緑豊かな夏から枯れる秋、そして厳しい冬を経て、再生の春でクライマックス、となるからです。

つまり、じつはしっかりとストーリーもあるわけ、なのです。心憎いなあと思います。テンポが一貫してゆったりであるためか、オケものびのびと演奏している様子がうかがわれ、だからこそ生命力も感じられます。

実は釧路湿原は、鉄道ファンにとっても垂涎の場所。そこを走る釧網本線は本数も少なく、かつのんびり走ることから風景がとても美しく、遠くから見ても、そして乗車していても美しい風景が流れていきます。とはいえ、ここに行くのは本当に大変。そんな風景を、音楽を聴いているとふと想像できたりします。特に、根室本線の先端部、釧路から根室の間は、来年春廃止も予定されています。つまりそれだけ人口が少ないため、自然も残ったとも言えるでしょう(高速道路もまだ開通しておらず、釧路までは貨物列車も数多く設定されています)。

鉄道ファンとしてはさみしい話題もある釧路湿原周辺ですが、廃止となる路線があるくらいの状況でないと、湿原の手つかずの自然を守り抜くこともまた、難しかったろうと思います。実際、釧路湿原は何度も開発の話があっては立ち消えた場所。さらには水害も多い場所でした。湿原に存在する三日月湖は、かつての川です。

そんな湿原の持つ雄大さ、歴史を踏まえた、伊福部らしい作品を、大友氏は真正面から向き合い、オケを朗々と歌わせるのです。伊福部と言えば、そのオスティナートはリズミカルで、まるで打楽器というイメージも強いのですが、こういう壮大かつ雄大な作品も書くのか、と驚きを隠せませんでした。しかし何度も聴いているうちにその徹頭徹尾の美しさに魅了され、伊福部の芸術の一面を見させてもらった気がします。

もしかすると、伊福部の作品と言えば!と固定観念でアルバムを作っていないかなあ、という疑念が私の中でふつふつと・・・・・日本人なのに、まだまだ私は伊福部の芸術を知らねえなあ、と反省しています。

 


聴いている音源
伊福部昭作曲
交響的音画「釧路湿原
大友直人指揮
新星日本交響楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。