かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:伊福部昭 ピアノ作品集

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、伊福部昭のピアノ作品を収録したアルバムをご紹介します。

そもそもは、いくつかあるアルバムの第1集なのですが、諸事情で第1集しか借りることができなかったものです。

さて、伊福部と言えば、ゴジラなど映画音楽で有名であり、最近では「シンフォニア・タブカーラ」などで知られるようになりましたが、ピアノ作品も書いているということをご存じでしたでしょうか?

この第1集の第1曲目には、ピアノ組曲が収録されています。この曲、ヴェネツィア国際現代音楽祭に入選したほどの作品です。と言って、あれ、それって日本組曲じゃないの?というア・ナ・タ。その通りです。日本組曲の原曲がこれなのです。

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どうも、戦後日本はヨーロッパを向きすぎて、アメリカのコープランドとなると毛嫌いしたり、無視したりしますけれど、この作品だって立派に「ヨーロッパの」賞を取った作品なのですよね。しかも、そのきっかけを作ったのは大木氏だった・・・・・この作品の存在自体が、戦後日本の「右翼」「左翼」の区分けが空々しいことを意味していると私は思います。

ピアノで日本の民謡を使いどのように表現するか・・・・・ここで伊福部は決してピアノの奏法そのものを否定してはいません。西欧の楽器であるピアノの奏法で、日本の民謡を使った組曲を創るというコンセプトが明確なんです。ピアノという楽器はそもそも打楽器でもあり、その打楽器としての「ピアノ」を存分に使っているのは、素晴らしい発想だと思います。日本組曲を聴いたとき、最後の「佞武多」で和太鼓を想起したんです、私。それがこの原曲を聴きますと明確。やはり和太鼓をイメージしているな、と。だからピアノも連打です。

これはピアノという楽器をよく知らないと難しい作曲だと思います。伊福部と言えば日本的で民族的だと言われますが、かといって西欧を否定しているわけではありません。旋律で簡単に西欧の真似をしないと宣言しただけ、です。これ、勘違いしている人が多いのではないでしょうか?そして、演奏している山田令子女史はよく理解しているなあと思います。さすがプロ!

2曲めは「プロメテの火」から第3曲目「火の歓喜」。日本的だと言われる伊福部ですが、何をもって日本的というのかという定義づけは、難しいところだと思いますが、それが「国風化」を意味するのであれば、伊福部はそれに近い作曲家だったのではないかと思います。題材はギリシャ神話で、ベートーヴェンも「プロメテウスの創造物」で取り上げているものです。それが何を意味するのかを考えたとき、この作品もすごいというか、まさに「神仏習合」という宗教を意識した作品だとも言え、誠に日本的な作品だと思います。

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このギリシャ神話における人間を、日本人として作曲しているように私には思えるのです。もっと言えば、そのギリシャの神々を、八百万の神として描く舞曲・・・・・すごい発想です。もともとはこれは管弦楽でしたが、ピアノ二台で演奏できるようにすぐ編曲されており、通常はそのピアノ版が伴奏として使われたようです。旅回り劇団用の作品としては適切な編曲だと思います。生き生きとしたピアニズムは、山田女史だけではなくもう一人のゴードン氏の作品に対するリスペクトを感じます。

3曲目はヴァイオリンとピアノのための二つの性格舞曲。舞曲ですがどう考えてもこれはヴァイオリンソナタ。それに踊りをつけてしまった作品だとも言えるでしょう。演奏も舞曲なのですがそれにとらわれない、幻想的なものになっています。

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最後の4曲目が「ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ」。リトミカ・オスティナータとは、「執拗に反復する律動」という意味なのですが、とはいえこの作品は何かと言えば、ピアノ協奏曲です。

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和声は日本的なものを追求していますが、様式的には西洋。ですが楽章数にはこだわらず単一楽章とし、伊福部の音楽の特徴である「オスティナート」全開で最後まで行くという作品です。その目くるめくエネルギーの循環と生命力が魅力!オケもそうですが、特にソリストである山田女史の、叩くような演奏は、繊細なピアニズムに慣れていると驚きだけでしかないかもしれませんが、この作品でも決して繊細さがないわけではなく、繊細かと思いきやいきなり打楽器的でもあるという、ものすごく差が激しい音楽。だからこそ生命を感じもするのです。

オケはアマチュアのように思われますが、れっきとした地方オケ、つまりプロです。私も栃木県にプロオケがあるとは知らず、アマオケなのかなと思って聴いていましたが、検索してびっくり!

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もしかすると、千葉にもあるし、埼玉にもあるのかもしれません、プロオケが。群響が特に有名で、最近では神奈川フィルも名が知られるようになりましたが、ちょっとオケは力が入りすぎかもなあと思います。一方の山田女史はのびのび。作品のあふれんばかりの生命力を、ピアノ全開で表現しています。

調べてみると、山田女史は東京音大(あら、「飛翔」のかつての音楽監督の守谷せんせと同じではありませんか!)の伊福部ゼミの門下生だとか。なるほど、そのリスペクト、そして表現力、目覚ましいものがあるわけだと思います。また、栃木県出身ということで、栃木県交響楽団との共演なのかなと思います。その意味では、このアルバムに収録されている音源は、すごいものであるのですね・・・・・

グローバルであるならば真にローカルであれ、という師チェレプニンの言葉を信じて創作を続けた伊福部。その中で一つの楽器で世界を作ることができるピアノという楽器で、見事に世界を作っているこのアルバムは、世界に通用する内容だと思います。その割には、「日本すごい!」とか言っている人たちが全く無視する状況を、あの世で伊福部はどのように見ているでしょうか・・・・・

 


聴いている音源
伊福部昭作曲
ピアノ組曲(1933)
火の歓喜(2台ピアノ版)”プロメテの火”より(1950)(世界初録音)
ヴァイオリンとピアノのための二つの性格舞曲(1955/56)(世界初演、初録音)
ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ(1961)
山田令子(ピアノ)
パトリック・ゴードン(ピアノ)
山田茂俊(ヴァイオリン)
早川正昭指揮
栃木県交響楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。