かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:NHK交響楽団 創立75周年

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、NHK交響楽団の創立75周年を記念した演奏を収録したアルバムをご紹介します。

NHK交響楽団が日本を代表するオーケストラであることは、ほぼ多くのクラシックファンの同意を得るところでしょう。では、そのNHK交響楽団がいつ創立されたのかということに関しては、あまり知られていないのではないかという気がします。歴史あるオーケストラということは知られているとは思いますが・・・

NHK交響楽団は、1926年に「新交響楽団」の名称で設立されました。現在ある同名のオーケストラとは異なります(現在の新交響楽団はアマチュアオーケストラです)。

www.nhkso.or.jp

ja.wikipedia.org

放送法に基づくオーケストラですので、ヨーロッパの放送交響楽団と同じ体制です。実際、NHKとは「日本放送協会」のローマ字の略称ですし。欧州風に表記すれば「日本放送交響楽団」とも言えるでしょうか。

それゆえに、NHKの放送に貢献する一方、オリジナルのコンサートを開催し、それを放送するということが主な活動になっていますが、ボランティアなども行っており、プロアマ問わず、日本のオーケストラの礎を築いて来たオーケストラと言えます。

民放があまり海外のオーケストラの公演を放送しないのは、視聴率の問題もありますが、むしろ放送交響楽団を持っていないという点にこそあると私は考えています。実際、NHK・FMではNHK交響楽団だけでなく、ヨーロッパ各国の放送交響楽団のコンサートも放送されることが多いです(ベスト・オブ・クラシック 月曜から金曜日19時30分~21時10分)。これはそもそも、NHKが傘下にNHK交響楽団を持っているからこそだと言えます。民法で現在傘下にオーケストラを持っている局はなく、メディア全体に広げてやっと読売日本交響楽団があるだけです(読売新聞傘下であり、日本テレビ放送網の傘下ではない)。

そのNHK交響楽団は、今年(2024年、令和6年)で創立98年をを迎えることになります。このアルバムはそれよりも23年前の2001年に、創立75周年を記念して収録されたものです。ですが、それだけで私は借りては来ません。実はこのアルバム、録音場所がNHK交響楽団がいつも使っているNHKホールやサントリーホールではなく、武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールなのです。

www.musashino-music.ac.jp

NHKホールは多少デッドな、響きとしては残響時間が少なめなホールですが、一方でサントリーホールベルリン・フィルハーモニーを参考にしたクラシック専門の残響時間が長いホールです。武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールは、その中間的なホールですが残響時間は長く、シューボックス型と言われるホールになります。音楽大学にはたいていこの様な優れたホールがあって学生の学習に寄与していることが多いですね(以前このブログでも取り上げた小田急新百合ヶ丘駅にあるテアトロ・ジーリオ・ショウワも同じ役割を持ったホールです)。

NHK交響楽団は、本拠地NHKホールがデッド(そもそも紅白歌合戦もやるホールなので当然ですが)とはいえシューボックス型、そして定期演奏会をたまに行うサントリーホールがワインヤード型と、異なったホールでコンサートと行うオーケストラであるがゆえに、この武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールではどんな響きと演奏を聴かせてくれるのか?と興味を持ち借りてきたのでした。

いやあ、さすが年末のベートーヴェン第九では共演する合唱団もある音楽大学のホールだと思います。NHK交響楽団がしっかりとホールの特性をつかんで、思い切った表現をした結果、残響のいい素晴らしいアンサンブルを味わうことが出来ます。

収録されている曲は3つで、武満徹の「遠い呼び声の彼方へ!」と「弦楽のためのレクイエム」、そしてチャイコフスキー交響曲第4番。実はこれらは全て2001年に定期演奏会で披露された曲でもあります。普通はその公演をCDとかにすることが多いのですが、あえて別のホールで収録してというのが珍しいのですが、それだけ自信をもって世に出したアルバムだと言えます。

武満の2曲は、いわば前衛音楽と言われる作品ですが、武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールの残響にぴったりだと言えます。聴いた途端、NHK交響楽団サウンドなのですが、その残響の美しさと長さに感動します。ヴァイオリンは諏訪内晶子さんですが、NHK交響楽団とのコラボを味わっているかのような演奏。人間の内面というよりは、音楽を風景に見立てたという作品ですが、なぜかしんみりする曲です。一方の「弦楽のためのレクイエム」は実際武満が死の影だったり、恩師の死に直面したりという経験に基づかれた作品であるだけに、暗い原始のような世界に引き込まれるかのようです。武蔵野音楽大学ベートーヴェンホールの残響がまだいい味付けになっています。

チャイコフスキー交響曲第4番は、音が動き回るときとゆっくりな時の差が激しい作品で、まさにチャイコフスキーの内面が強く反映されたかのような作品です。指揮はシャルル・デュトワですが、第1楽章はちょっと急いでいる感じがして違和感があるのですが、第2楽章以降は丁寧なテンポで歌うような感じ。デュトワとしてはコントラストを明確にしたかったのだとは思いますが、ちょっと短絡的過ぎるかなという気がします。とはいえ、NHK交響楽団の演奏は実にステディで歌っています。魂の叫びと内面の独白のような緩徐楽章との対比は見事!やはり日本を代表するオーケストラだと思います。

もしかすると、この演奏を学生が見学していたのかもと思うと羨ましくもありますが、NHK交響楽団の理念にはボランティアもありますから、学生の助けになればという意識もあったのかもしれません。音楽大学のホールで演奏すると言うことは、学生が念頭にあっても不思議はないですし。実際、私はアマチュア合唱団員として大田区民第九合唱団にいた時に、リハーサルを小学生に開放するという機会があり、大田区民ホールアプリコでベートーヴェンの第九を歌った時、やはり小学生が念頭にありました。

こういう演奏がなんの意味があるのかと思う方もいるかもしれませんが、実は教育だったり、オーケストラの鍛錬であったりという側面もあるのです。その結果が私たちに喜びを与えてくれるのであれば、幸せなことはありません。ある意味、アマチュアオーケストラの演奏に近いスタンスだとも言えます。舞台に乗ったらプロもアマチュアもない・・・アマチュア合唱団にいた時、よく言われました。

この録音の後、日本にはいわゆるクラシック専用の「いいホール」が続々と完成しますが、その効果が今2024年という時に結実していると言えるでしょう。この録音がアマチュアオーケストラに与えた影響も想像するとき、やはりこういった演奏は必要だったのだと、いろんなアマチュアオーケストラの演奏を聴きますと強く感じます。やはり、NHK交響楽団は日本を代表するオーケストラだと言えるでしょう。

 


聴いている音源
NHK交響楽団 創立75周年
武満徹作曲
遠い呼び声の彼方へ!
弦楽のためのレクイエム
ペーター・イリイチチャイコフスキー作曲
交響曲第4番ヘ短調作品36
諏訪内晶子(ヴァイオリン)
シャルル・デュトワ指揮
NHK交響楽団


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