かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:オーケストラ・ルゼル第29回演奏会を聴いて

コンサート雑、今回は令和6(2024)年2月23日に聴きに行きました、オーケストラ・ルゼルの第29回演奏会のレビューです。

オーケストラ・ルゼルは東京にあるアマチュアオーケストラです。東京電機大学のOB・OGたちが2004年に創設しました。

www.lezele.org

ボランティア活動もやられているようで、市民オーケストラではないんですが社会と積極的につながる姿勢は好印象です。

さて、このオーケストラ・ルゼル、実は以前からその名前だけは存じ上げておりました。ただ、中大関係ではないので、どうしようかなあと二の足を踏んでいたのでなかなか聴きに行けないオーケストラだったのです。ただ今回、指揮者が橘直樹(ブラバン!甲子園の指揮者)氏だったことと、実は次回第30回にベートーヴェン「第九」を演奏されると言うことで、なら聴きに行こう!と決断し行ってきました。今回は葛飾区にあるかつしかシンフォニーヒルモーツァルトホールでした。

オーケストラ・ルゼルの「ルゼル」とは、フランス語で「ル・ゼル」、つまり情熱という意味。情熱と言えば、私が好きな演奏は「情熱と冷静の間」な演奏。さて、このオーケストラはいかがなものでしょうか・・・

当日のプログラムは以下の通り。

ベートーヴェン 「フィデリオ」序曲
ヒンデミット 交響曲「画家マティス
ブラームス 交響曲第2番

どれも魅力的な曲なのですが、「画家マティス」を演奏するアマチュアオーケストラも少ないですから、ぜひ聞きたかったのですが・・・やっちまいました。スマホを家に忘れて取りに帰る・・・しかも、そもそも出発も遅れていました。

都下から下町までは1時間はかかります。同じ東京と言えど広いのです。そのため、ホールに着いたときは前半終ってました・・・つまり、「画家マティス」は聴けずじまい。これは残念だったなあと思います。

かんちゃんさんがそういう時って、大抵いい演奏だったときですよね?というア・ナ・タ。鋭い!おっしゃる通りです。オーケストラ・ルゼルさん、本当に素晴らしいオーケストラなんです。

今回聴けたのは、後半のブラームス交響曲第2番。そのレビューとなるのですが、冒頭第1楽章のトロンボーンが素晴らしい!オーケストラによっては不安定にもなる部分なのですが、不安定な部分がみじんもありません!当日、指揮者の橘氏から曲の解説があり、トロンボーンは3管が基本で、それは「三位一体」を表わす(音階を自在に出すことが出来るため教会で使われることが多かったためで、実は以前私もブルックナーのモテットのエントリで触れています)ので。ブラームスの言いたいことはいったい何かを常に考えて振っていますと述べられたのですが、それはそれで重要なコメントですが、オーケストラにとっては緊張する一言だったと思います。そのプレッシャーがある中で、見事に朗々と鳴らすとは!

さらに、弦楽器からは全くやせた音が見受けられず、最後まで徹底されていました。アマチュアらしさは、金管のちょっとした雑さくらい。私はプロオケを聴きに来ているのか?と錯覚するくらいです。表現力も豊かで、単にのどかであるだけでなく、途中短調へ転調する部分は、まるでブラームスの心のうちを聴いているかのよう。

トロンボーン奏者が、このブラームス交響曲第2番という曲のトロンボーンの役割と位置付けというものを考えながら、指揮者と意思統一が出来ていると感じました。橘氏は決してオーケストラ・ルゼルの音楽監督ではないんですが、オーケストラと指揮者との信頼関係が出来上がっていると感じました。

帰ってきてからプログラムを読み返しますと、そもそもはオーケストラ・ルゼルさんは古楽的なアプローチをするオーケストラだそうですが、今回はさらに進んで、Histrical Informed Paformanceアプローチを実践したそうで、これは歴史的な視点で、当時の作曲家の意図をくみ取るため歴史的な考察でもって演奏するという意味で、バロックであればノンビブラート奏法で音を張りっぱなしにしないというものになりますが、後期ロマン派であればビブラートをかけてたっぷりということになります。具体的にはアーティキュレーションを大事にしゃべる、歌うと言ったことをテーマにしていたそうで、その結果は実に演奏に出ていたと思います。本当にオーケストラが「歌って」いました。聴いていて本当に饒舌なオケだなあと思いましたが、それはしっかりとした意図のもとだったということになります。

この姿勢は、先日聴きに行ったバッハ・コレギウム・ジャパンの「ドイツ・レクイエム」とはある意味真逆なのですが、しかし両方とも素晴らしい演奏で感動するものでした。こういったところがクラシック音楽を聴く楽しみなんですよね~。考えてみれば、「ドイツ・レクイエム」は作品45、交響曲第2番は作品73。その作品の間には9年という月日が流れており、交響曲第1番もその間に生み出されています。この9年という間に、ブラームスの中で様々なことが変化したとも考えられ、興味深いです。その異なる部分を、スコアと向き合っているからこそ、オーケストラの団員は感じ取ることが出来たとも言えるのかもしれません。おそらくですが、その共通認識が団内であったからこそ、今回指揮者が橘氏だったのかもと思います。そもそもがバッハ・コレギウム・ジャパンのような演奏スタイルであるはずのオーケストラが何も考えずに姿勢を変えることはないはずなので。

姿勢を変えると私は言いましたが、恐らくオーケストラの団員の方たちは、自分たちは全く変わっていないと考えているのかもしれません。歴史的アプローチをしているだけと言うかもしれません。ただ、私自身は古楽的なブラームス交響曲第2番の演奏も聴いて、なるほどこういうアプローチもありか!と目からうろこだったのも事実なので、歴史的アプローチで後期ロマン派的な演奏に立ち戻るのもいい視点かもしれないと思います。

ykanchan.hatenablog.com

私の上記エントリの、トーマス・ツェートマイヤー指揮ヴィンタートゥール・ムジークコレギウムの演奏も実に爽快かつ陰影のある素晴らしい演奏なのですが、ともすれば「古臭い」とも言える今回のオーケストラ・ルゼルさんの演奏を比べて、どっちがいいとか悪いとか正直言えないのです。どっちもいいんです。むしろ、その保守的な演奏でもアマチュアとして感動させる説得力ある演奏をしてしまうそのレベルの高さに脱帽するしかありません。私が比較しているのは、海外のプロオケですよ?比較できるだけの実力を持ったオーケストラが、社会の中で生活しながらあくまでも趣味の域なのに存在する・・・このすばらしさとすごさは、正直日本すごい!系のYouTuberは動画にすべきです。これこそ真に日本の底力ですしすごい点だと私は思うのですが・・・

やはり、このオケを聴き行きたい!という私の「嗅覚」は間違っていなかったと思います。実際、第1ヴァイオリンも結構体全体を使って演奏していて感情が入っているなあと感じましたし。さらにアンコールのポルカ「雷鳴と電光」(!)もまるでウィーン・フィルニューイヤーコンサートです。残響的にムジークフェラインザールに近いかつしかシンフォニーヒルモーツァルトホールだからこそなおさら私はウィーンにいるのか?と錯覚してしまうくらい。プロオケだけがオーケストラではないです。アマチュアの演奏会もぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?人生がより豊かになると思います。

次回は年末12月にベートーヴェンの第九。とても楽しみです!このオーケストラだと、名演の予感しかしません!

 


聴いて来たコンサート
オーケストラ・ルゼル第29回演奏会
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
歌劇「フィデリオ」序曲
パウルヒンデミット作曲
交響曲「画家マティス
ヨハネス・ブラームス作曲
交響曲第2番ニ長調作品73
ヨハン・シュトラウスⅡ世作曲
ポルカ「雷鳴と電光」(アンコール)
橘直樹指揮
オーケストラ・ルゼル

令和6(2024)年2月23日、東京、葛飾、かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。