かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:宮前フィルハーモニー交響楽団第51回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和5(2023)年12月24日に聴きに行きました、宮前フィルハーモニー交響楽団第51回定期演奏会のレビューです。

宮前フィルハーモニー交響楽団は、このブログでも何度か登場しております、川崎市宮前区にあるアマチュア・オーケストラです。

miyamae-phil.jimdofree.com

私も、このオーケストラと第九を歌った経験があります。もともと、オーケストラの姉妹団体に所属していたからです。当時の指揮者である守谷弘は、そもそもが宮前フィルハーモニー交響楽団の創設にかかわった人物です。ヨーロッパでは街々にアマチュアオーケストラがあり、音楽を楽しんでいる。それを日本でも実現させたいと、当時住まわれていた川崎市宮前区に創設したのでした。今年9月5日、惜しくも亡くなられました。私自身もさみしい思いがありますが、オーケストラの現団長である土肥実久(実はほぼ同士のようなものです)氏も同じように思っているようで、今回のプログラムに記載がありました。まずは、守谷弘氏の逝去に対し、お悔やみ申し上げます。

さて、では今回のプログラムはそんな守谷氏を悼む内容・・・・・ではありません。プログラムというのは、大抵はその前の定期演奏会の前あたりに決めておくのが通例で、宮前フィルは特にその傾向が強い団体です。すでに決まっていたプログラムを、変更するのは大変なはずで、むしろ、明るい曲が並んだと思います。実に宮前フィルらしい選択ですし、育った「息子(娘)」だと思います。宇宙戦艦ヤマトの「おお、沖田の息子たちが行く(藤堂平九郎地球防衛軍司令長官)」というセリフを髣髴とさせます。

プログラムは以下の通りです。

①ニコライ 歌劇「ウィンザーの愉快な女房たち」序曲
ボロディン 歌劇「イーゴリ公」序曲
ボロディン 中央アジアの草原にて
ベートーヴェン 交響曲第7番

年末の、ちょうど当日はクリスマス・イブ。私が「守谷弘の『息子たち』」と表現したのはまさに、そのクリスマス・イヴの楽しい日に、楽しい音楽を、楽しく演奏するということを目指したプログラムだったから、なんです。私自身は、素晴らしい供養だと思います。すでに守谷弘からは独立し距離を取っていた宮前フィルですが、しかし創設の精神は脈々と受け継がれていると感じました。その精神はすでに地元に根付いていると感じられ、当日会場であるホームグラウンド、宮前市民館大ホールはほぼ満員です。まるで府中市交響楽団さんです。そう、府中市交響楽団さんを取り上げた時、まるで宮前フィルだと言ったのは、常にこの光景が毎回の定期演奏会でみられるから、なんです。これぞ市民オーケストラだと思います。かつては私は横浜市青葉区の住民であり、川崎市宮前区はすぐお隣。当時青葉区緑区から分区したてで、ろくなアマチュアオーケストラも合唱団もなかったため、設立間もない宮前フィルや、その姉妹団体の合唱団に入った、というわけで、だからこそ、宮前フィルの、満員御礼の風景を見慣れていたのでした。今回足を運んだのも、ちょうど守谷弘氏が逝去して初めて迎える定期演奏会であることも、大きな理由でした。正直、丘のうえにある宮前市民館までの道のりは大変でしたが・・・東京多摩地域(いわゆる「武蔵野」)は坂が国分寺崖線小金井市内では「はけ」と呼ばれる)ぐらいしかないですから。

しかし、その丘の上まで足を運んでよかったと思える演奏でした。ただ、弦は若干やせた音が散見された印象がありました。以前聴いたラフマニノフ交響曲第2番よりはやせた音が多かったかな、と思います。勿論そもそもが市民オーケストラなのでどうしてもそのあたりは聞こえてしまうものではありますが、もしかすると守谷弘氏の逝去が影響しているかなとか、あるいはコロナの影響がまだ残っていて練習不足があるのかな?と思ったりしました。一方で、管楽器はすばらしい!特に木管楽器は十分に歌っており、思わずうっとり。

1曲目の「ウィンザーの陽気な女房たち」」は歌劇の中でも喜劇です。その明るい様子が存分に表現されていました。そして楽しい!そのなかでも木管が素晴らしかったのです。クラリネットを吹いている一人は私がまだ姉妹団体にいた時から参加している団員で、特に慣れているなと感じました。また、団長がいるトロンボーンも実に明瞭で表現力豊か。ただ、全体的にちょっと硬い印象を受けました。

2曲目のボロディンからエンジンがかかってきたかなという印象です。「イーゴリ公」はボロディンの書いたある種愛国的作品ですが、実に19世紀の騎士道精神が残っている時代の作品で、敵の皇帝が主人公のイーゴリ公の愛国精神を高く評価し、もてなす場面などは圧巻です(有名な「だったん人の踊り」。わたしも合唱で歌ったことがあります)。そのため、たんなる勇壮な音楽ではなく、むしろ楽しい音楽となっている点が特徴である序曲です。その楽し気な音楽を、楽しく演奏するのはさすが宮前フィルだと思います。こういった点が、宮前フィルの定期演奏会が満員になる理由でしょう。見れば、一番前の席に座っている男の子が、指揮する身振りをしながら聴いています。これぞ市民オーケストラの面目躍如でしょう。

3曲目の中央アジアの草原にては、ボロディンと言えば習う曲ではないかと思います。ゆったりとしたテンポ、歌う管楽器。じつに宮前フィルの実力を存分に出せた演奏だったと思いますし、曲だと思います。

ここまでは、団員全員参加の曲と言っていいでしょう。休憩をはさみ、後半はメインの「ベト7」。「リズムの権化」とも言われる、交響曲第7番第1楽章。ここからオーケストラのエンジン全開!ただ、トランペットはもう少し歌っても良かったかな?という気はします。指揮者の指示だとは思いますが・・・冒頭のトランペットはオーケストラと一緒に演奏されますが役割とすればファンファーレなので、もうすこし歌わせても良かったなあというきがします。ちょっとだけ違和感を感じました。もう少し宮前フィルの実力を、指揮者がみとめてもいいのではという気がしました。金管楽器がトランペットとホルンだけになってしまうのですが、それはむしろ、金管楽器の存在感を前面に出すことをベートーヴェンが意図したものだったように私は思うからです。ちょっと残念・・・

ベートーヴェン交響曲第7番は、非常にエネルギーを使う作品ですが、そのせいか、オーケストラも楽章が進むにつれてどこか疲れてきた印象。考えてみれば、4曲も詰め込んでいますから・・・とてもアマチュアオーケストラらしい選曲ではあるんですが、しかしちょっと多かったかな・・・緩徐楽章は素晴らしい「歌」になっていましたが、第4楽章クライマックスは、もう少し疾走感が欲しかった印象です。ですが、美しく迎えられたのはさすが!やっぱり疲れるよねえと思いました。しかし、全体的には躍動的で感動する演奏でした。

さて、これで帰宅だ・・・ん?まだ何か演奏する感じ・・・アンコールか。と思っていたら、そのアンコールが・・・クリスマスソングメドレー!しかも、おもむろに団員は赤い帽子をかぶったり、引っ込んでいたトロンボーンもサンタの衣装を着たりしていますし(オーボエはMAXフィルさんでもやっていないもみの木のコスチューム)、あげくの果ては指揮者もいったん引っ込んでサンタの衣装!やってくれました・・・そう、当日はクリスマス・イヴ。最後まで楽しませてくれます。さすが、かつて練習場の幼稚園で子供向けコンサートもやって来た宮前フィルです。サービス精神は死なず。これが、私がいう「守谷弘の『息子たち』」という所以です。そういえば、SNSには前日「明日はクリスマス・ィ・・・いや、宮前フィルの定期演奏会です」との投稿がありましたが、なるほど、その投稿はこの複線だったのね、と。思わずニヤリとさせられました。おそらく、このアンコールは全力で演奏していたと思います。まるでこれを演奏するために余力を残すよう、ベト7の最後はあえて疾走しなかったのではと思うくらい。守谷弘氏への、最後までいい供養であったと思います。次回はどんな演奏を聴かせてくれるのでしょうか?私も命ある限り、できるだけ足を運びたいと思います。

 


聴いて来たコンサート
宮前フィルハーモニー交響楽団第51回定期演奏会
オットー・ニコライ作曲
歌劇「ウィンザーの愉快な女房たち」序曲
アレクサンドル・ボロディン作曲
歌劇「イーゴリ公」序曲
交響詩中央アジアの草原にて」
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第7番イ長調作品91
田中一嘉指揮
宮前フィルハーモニー交響楽団

令和5(2023)年12月24日、神奈川県川崎市宮前区、宮前市民館大ホール

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