かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:クレンペラーが振るメンデルスゾーンの交響曲第3番と第4番

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団によるメンデルスゾーン交響曲第3番と第4番を収録したアルバムをご紹介します。

クレンペラーと言えば、オーケストラと一緒に音楽を作り上げると言われますが、この演奏からは実直な演奏が聞こえてきます。クレンペラーは派手さを追い求める指揮者ではないので、当たり前ではありますが、しかし、ゆったりとしたテンポのなかに、細かい表現がされているのは、聴いていて思わずうなります。

オーケストラを思い切り歌わせ、そのうえで緊張感も存在する演奏は、クレンペラー一人で作り上げるものではないので、やはりフィルハーモニア管弦楽団との共同作業だと言っていいでしょう。とはいえ、そのゆったりとしたテンポ自体はクレンペラーの個性でもあります。その個性に応えるだけの実力があって初めて、共同作業が成り立つということは、基本的なことではありますが押さえておきたいと私は思います。

最近、某SNSで、「私は学究的とか古楽的な演奏を求めているのではない、感動する演奏を求めているんだ」という、演奏への批判を目にしたのですが、果たしてそれは正しいのだろうかと、この演奏を聴いて思います。私自身はもう少しテンポが速い演奏のほうが感動しますが、この演奏でも十分感動します。つまり、異なる美意識を持つ他者を感動させるだけの、説得力を持つ、ということです。

そもそも、楽譜がどれであろうとも、そこから何を掬い取るのかが指揮者の仕事だと言っていいです。指揮者が学究的な音楽を創りたい、そこに作曲家の意志があるのだと信じることは決して悪いことではありません。問題は、その指揮者が、自身のその方針を、一方的に押し付けていないか、という点です。一方的だと、聴いている方は感動することは少ないのでは?と思います。チャレンジして感動させるためには、相当な能力が必要です。

その意味では、クレンペラーは確かに優れた指揮者ではあるんですが、挑戦しているわけではないんです。その点では凡庸な指揮者であると言ってもいいと思います。ですが、凡庸だからこそ、一つ一つをオーケストラと一緒に積み上げる能力があるわけなんです。クレンペラーが優れているのは、その「一つ一つ積み上げる能力」です。冒険しない代わりに、常に一定のレベルをオーケストラと一緒にたたき出す・・・それが、クレンペラーという巨匠です。そして、その積み上げに、説得力が宿っているわけなんです。だから、私のようにもう少し速いテンポのほうが好きな人間にも、感動を与えることができるわけなんです。

このクレンペラーの精神を受け継ぐ人なのかが、演奏を聴く時に一つ重要な指針なのではないか、と思います。カラヤンがよく「外形的」と批判されますが、私はカラヤンは決して外形的ではないと思っています。じっくりスコアから掬い取り、オーケストラに表現させる指揮者です。そのうえで、クレンペラーベームよりは速いテンポを好み、オーケストラに要求し、そのうえで聴衆を感動させています。さらに、学究的と言えば、BCJ鈴木雅明氏は、下手すればカラヤンよりも速いテンポで、古楽であり、学究的なのに、感動的な演奏をオーケストラと合唱団でたたきだします。二人とも、精神だけはクレンペラーをしっかりと受け継いでいるのです。

これが「境界線を引く」ということなのです。自分の個性を大切にし、他者と線引きしながら、いいものを採り入れる・・・この精神がわからない人は多いのだなあと感じます。クレンペラーの芸術の真の意味を読み取るのは、ちょっとした作業になるのかもしれません。

私としては、そのクレンペラーフィルハーモニア管弦楽団メンデルスゾーンを選んだというのは、実に優れた判断だと思います。メンデルスゾーンは、モーツァルト的な音楽を、ロマン派の中で実現させ、そこにベートーヴェンの魂を入れようとした人だと解釈しているからです。メンデルスゾーンは古臭いという見方が日本では強いんですが、本当にそうなのか?という気が、メンデルスゾーン交響曲を聴けば聴くほど感じます。むしろ、古い器に新しいものを取り入れようとした改革者だったのでは?という意識のほうが強いです。冒険しないクレンペラーが、メンデルスゾーン交響曲で表現したいこと、伝えたいことはいったい何だろうかと、思いを馳せることが大切だと思います。ほら、この冒険しない、古い解釈から、新しいものが聞こえてきませんか?という、クレンペラーからの「問い」が、私には聴こえてくるのです。

 


聴いている音源
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
交響曲第3番イ短調作品56「スコットランド
交響曲第4番イ長調作品90「イタリア」
オットー・クレンペラー指揮
フィルハーモニア管弦楽団

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