かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:クレンペラーとフィルハーモニア管弦楽団によるモーツァルト交響曲集3

東京の図書館から、3回シリーズで取り上げております、小金井市立図書館のライブラリである、クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団によるモーツァルトの後期交響曲集、今回はその第3回目です。

第3回目は第3集。収録されておりますのは、第29番、第31番「パリ」、第36番「リンツ」の3曲です。第31番が3楽章制、残る二つは4楽章制です。これは第2集と同じ配列なんです。やはり、4楽章制から遡り俯瞰するというアルバムになっているように感じます。

そして、アレグロも「歩く速度で」という感じ・・・・・と言いたいところなんですが、ここでクレンペラーは面白いことをやっています。第36番「リンツ」第1楽章。アダージョの序奏の後のアレグロ・スピリトォーソ。いやあ速い・・・・・思わず私、「え?何この速いのは!」って声出してしまいました。アレグロが猛烈に速い!以下に、洗足学園音楽大学のサイトを揚げておきますが、洗足さんでもアレグロは「速く」と「快活に」という二つの意味を挙げておられます。それに「スピリトォーソ」が加わると、なんと速いことか・・・・・いきなり0系新幹線登場か?と思ってしまうくらいです。ちなみに、スピリトォーソは「生気をもって、元気に、機知に富んで」と記載があります。

www.senzoku-online.jp

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つまり、「リンツ」第1楽章は「速く、生気をもって、元気に、機知に富んで」という指示である、ということです。それにしても、元気すぎだろ・・・・・思わず感じてしまいます。ここにクレンペラーはどんな意味を込めたのか、どのような解釈をしたのか、とても興味深いですね。今までのアレグロの解釈をまるで転回させたようなテンポなんです。総合して考えると、やはりクレンペラーは19世紀の伝統に縛られた人だったんだなあと思います。

とはいえ、ではその演奏が気に入らないのかと言えば、その逆で、むしろ感心しきりです。アレグロを使い分けるという視点。確かに、アレグロってあいまいな指示であることは確かですから。ということは、そこに演奏者、指揮者の解釈の余地がある、ということです。私自身はアレグロの解釈はサヴァリッシュが正しいと思ってはいますが、一方でアレグロという指示があいまいであるのだから、クレンペラーの解釈もアリだと思っています。なので演奏が説得力を持つなら評価しますし、説得力を持たないなら、切って捨てます。基本私はサヴァリッシュの解釈に属する人間なので。でも、クレンペラーの解釈を拒否はしない、ということです。

これも、大学時代に授業で言われたことですが、「史料の行間を読め」と指導されたことがあります。歴史史料は当時の作者がいろんなしがらみの中で自分の表現をしたものが殆どなので、額面通りに受け取っていいのか?というのが史料批判の基礎となるからです。まさにクレンペラーはスコアリーディングの際に、あいまいであるからこそ、その「行間」を読んだ、ということになります。

では、サヴァリッシュの解釈は間違っているのかと言えば、そうではありません。特に第40番に関しては、モーツァルト機能不全家族出身であるということに基づいて、サヴァリッシュもまた「行間を読んだ」結果、速度指示に沿った演奏になっただけ、なのですから。楽譜は作曲者の表現の一環ですが、一方で演奏者は作曲者自身ではありません。自分の人生経験も含めて、知識を総動員して解釈し、その結果を演奏として表現するわけです。いずれにせよ、二人の「行間を読んだ結果」は対照的で、しかしそこがまた面白く、興味深いことなのです。だから、クラシック音楽を聴くのは私にとって楽しいのです。指揮者のスコアリーディングというのが、私にとっての史料批判と同じだから、です。その喜びを感じたということは、このアルバムを借りてよかったなあという喜びにつながっています。こういう仕事は、さすが司書さんが優れているなあと感じます。

 


聴いている音源
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト作曲
交響曲第29番イ長調K.201
交響曲第31番ニ長調K.297「パリ」
交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ
オットー・クレンペラー指揮
フィルハーモニア管弦楽団

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