かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:フランス・ヴァイオリン・ソナタ

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、フランスの3人の作曲家のヴァイオリン・ソナタを収録したアルバムをご紹介します。

フランスの作曲家と言って、誰を思い描くでしょうか?なかなか交響曲がないので思いつくのも大変かもしれません。このアルバムには、フランク、ドビュッシーラヴェルの三人のヴァイオリン・ソナタがそれぞれ1曲ずつ収録されています。

順番はフランク、ドビュッシーラヴェル。この順番でピン!と来たあなたは相当なクラシックファンです!実はこの順番、成立順になっており、それは19世紀~20世紀にかけてのフランス音楽史にもなっているのです。

この3人のうち、ヴァイオリン・ソナタを複数書いているのはラヴェルだけ。他の2人は一つだけです。さらに言えば、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタドビュッシー最後の作品です。

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

フランクのヴァイオリン・ソナタは4楽章、ドビュッシーラヴェルのは3楽章制です。これはそれぞれの音楽のスタイルに違いがあることを意味します。フランクはどちらかと言えば保守的な音楽を書く人で、ドイツ音楽の影響が強い人。ドビュッシーラヴェルは、新しい時代、特にフランスという国を意識した様式を採用した人です。特に、ドビュッシーの存在は大きく、フランス・バロックに範をとった新しい和声を創造し「象徴主義」の作品を創作。その延長線上にさらに発展させたのが、ラヴェルの「印象主義」です。しかしその萌芽はすでにフランクにおいてでもあることが、このアルバムを聴きますとわかります。和声的にドイツ音楽とは異なる方向を向いており、ドイツ的なのは楽章数とソナタ形式です。それがドビュッシーになるとかなり自由になり、ラヴェルではもうソナタ形式はどこへ行ったのかという感じです。勿論、和声はドイツ的とはいいがたいものです。

ドイツ古典派的な形式美が好きな人だと、フランクは聴けてもドビュッシー以降はなかなか聴きづらいのではないでしょうか。しかし、和声に目を向けると、実に豊潤な地平が広がっていることに気が付かされ、ドイツ音楽とは違った美しさがそこにあることが分かります。

このフランス音楽の自由な形式をもってドイツ音楽を批判する人も多いのですが、私自身はそれぞれ個性なので何も批判はしません。ドイツ音楽も20世紀に入りますと様々変化して、形式などどこへ行ったのかという音楽も多いです。少なくとも様式美を追及するような手法は取られなくなります。古典派の形式美の音楽も好まれますが一方で作曲家たちは人間の内面を描くべく、様々な手法を試し、音楽は多様性の時代に突入します。

私自身は、フランス音楽の自由さという点に囚われてしまうと、多様性の否定に走ると考えています。ドビュッシーが3楽章を採用したのは、フランスバロックの時代は3楽章が多楽章の音楽とされたところと、「自由」の二つの意味を持つわけで、むしろ3楽章という様式が一つの形式美を作っているとも考えられるからです。それはドイツ的な形式美とはまた違ったアプローチです。それぞれの美しさを愛でるほうが、人生はより豊かだとは思わないでしょうか?

そもそも、私たち日本人は海外文化を自分たち流に取り入れる民族です。それは本質を見ないこともあるという欠点を抱えている一方、囚われなく受け入れることもできるという長所も持っています。ならば、本質を理解したうえで、境界線を引いて受け入れても構わないことを意味します。それこそ、日本人の特筆すべき長所だと私は信じています。

実は、この録音を演奏しているのは、シュロモ・ミンツとイェヒム・ブロンフマンの二人。実は二人ともロシア系ユダヤ人なのです。

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

そのうえで、この音源はドイツ・グラモフォン。フランスとは関係ないようなレーベルなのですよね。どこを見てもフランスらしさは見かけることが出来ません。両人ともその出自からユダヤ系のヴァイオリニストに師事したり見いだされたりしています。その二人が、フランス音楽を奏で、一つのアルバムに結実させている・・・ここにこそ、このアルバムの特徴があると言っていいでしょう。この3つの作品はそれぞれ、対等な関係で演奏される曲です。ベートーヴェン以降は全てそうだとも言えますが、19~20世紀にかけてのソナタとは、それぞれが対等の立場でアンサンブルすることがすでに当たり前の時代です。ソナタを書くと言うことは、それだけ友愛を表わすキーワードであるわけです。

ということは、このアルバムの隠れたキーワードは「協調」だとか「友愛」ということになるでしょう。そのためには、時には境界線を引くことも必要ですし、強く相手を拒否するのではなく、相手を認めたうえで出来ないことはできないと言うような姿勢が大切になるわけです。ロシア系ユダヤ人という出自からして、歴史の重みを背負っているとも言えますし、そのバックグラウンドがあるため、これらフランスのヴァイオリン・ソナタを選択したとも言えます。

私たち日本人も、西洋音楽は必ずしも伝統的な音楽ではありません。しかし私たち自身も伝統的な音楽を持っており、同じ伝統的な音楽に対して敬意を表し、愛でることは可能であることを、明治以降世界に示してきました。その歴史は誇るべきものなのだという意識を、そろそろ持っていいのではと思います。友愛の精神で、西欧音楽を愛で、ドイツ音楽が日本のクラシックシーンでは優勢であったとしても、フランス音楽が迫害されているわけではないですし、好きなクラシックファンも数多く存在します。そして、私のようにドイツ音楽もフランス音楽も好きというクラシックファンも存在するのです。その幸せを大事に発展させることが、今後さらに必要ではないのかと、この演奏を聴きますと強烈に思い知らされるのです。

 


聴いている音源
セザール・フランク作曲
ヴァイオリン・ソナタ イ長調FWV8
クロード・ドビュッシー作曲
ヴァイオリン・ソナタ ト短調
モーリス・ラヴェル作曲
ヴァイオリン・ソナタ ト長調
シュロモ・ミンツ(ヴァイオリン)
イェヒム・ブロンフマン(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。