東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、フランスのオーボエ名曲集を取り上げます。
と言っても、実はオーボエの独奏曲ではなく、ソナタ集です。つまり、オーボエ・ソナタ集、ということになります。ですが、曲名に「ソナタ」と入っているのは3曲。もう2曲がソナタとは名称がついていない作品で、合計5曲が収録されています。作曲者は、サン=サーンス、プーランク、ボザ、ディティユー、そしてベネットです。
え?ひとりフランスとは異なる人が混じっていませんか?とプロの方から突っ込みを入れられそうです。はい、おっしゃる通り、最後のベネットはイギリス生まれでアメリカで活躍した作曲家です。それ以外はすべてフランス生まれの作曲家が並んでいます。ただ、普通の私たち聴衆にとってはなじみがないのがボザではないでしょうか。しかし、この人が入っていることが、このアルバムを特徴づけているように、私は解釈しています。
まず1曲目のサン=サーンスのオーボエ・ソナタ。「サン=サーンスの白鳥の歌」とも言われる、死の年に作曲されたものです。そもそもは、管楽器のソナタのシリーズを考えていたのですが、サン=サーンスの死によって途絶えてしまったのです。
2曲目は、プーランクのオーボエ・ソナタ。親しくしていたプロコフィエフの追憶として作曲されましたが、自身も翌年に死去しており、作曲した時にも「最後の楽章は典礼の歌に近いものである」と語っています。
確かに、和声的にはサン=サーンスとは異なる、プーランクが生きた時代を反映するものですが、それ以上に、サン=サーンスよりも暗さが目立つ作品でもあります。特に、第2楽章以降は、物悲しさも存在します。
ここまでは、ある意味「死」というものが見え隠れするのですが、次の3曲目で少し雰囲気が変わります。3曲目はボザの「ファンタジー・パストラール」。ボザはパリ音楽院を卒業(師事したのがイベールなどそうそうたる作曲家)しており、作曲家としてだけでなく音楽教育にも資力した人として、フランスでは知られているそうです。実際、この「ファンタジー・パストラール」はパリ音楽院の卒業試験のために書かれたとされており、レベルの高い音楽家を排出するための作品を、特に管楽器の分野で数多く作曲したそうです。
実際、ボザは検索してみると、ウィキの本人説明はヒットするのですが、肝心の作品に関しては、オーボエ奏者の方の、演奏に適した作品を列挙したページ以外にはヒットしません。一方で楽譜はたくさんヒットするのですよね。ということは、オーボエ奏者の学生さんとかが学習などで必要で結構売られている、と考えてよさそうです。そのうえ、ボザはプーランクの影響も受けているそうで、なるほど、その関係で入っているのだなとようやくわかるのです。学生さんだと、おお!ボザだ!となるアルバムだってことです。こういうことを見つけることが、史学科卒業の私にとって喜びなんですよねえ(考古学ってそういうものでもあるので)。そして、作品もとても楽しい、まさに田園の幻想曲という印象。
4曲目は、ディティユーのオーボエ・ソナタ。ディティユーもなかなかなじみがない作曲家ですが、最近演奏機会が増えているような気がします。主に20世紀の作曲家でありながら、和声はちょっと古めかしいというか、印象派的な感じもしますし、どちらかと言えばプーランクに近いような印象です。実際、このソナタも、和声的には無調というよりは調性の中にいます。
そして、最後がイギリスの作曲家である、ベネットです。ジャスの要素もある作曲家だと言われますが、ここに収録されているのは「アフター・シランクス」。実は、ドビュッシーの「シランクス」を元に作曲されており、モダニズム的な、無調に近いような印象を受ける作品です。ドビュッシーが、20世紀音楽という新たな和声を温故知新で生み出したということを踏まえた部分もあるのではないかという印象です。映画音楽にも資力した人です。
そのドビュッシーへの敬愛を踏まえて、収録されたとすれば、かなり俯瞰的なアルバムだ、ということになろうかと思います。編集方針として、完全にフランスの作曲家のソナタだけにしてもいいようなところ、あえてイギリスの作曲家まで加えたうえでフランスの作品をというなんざあ、いかにも「フランスの作曲家だって、いろんな方面に影響を与えていますよ」という、ある意味プロパガンダなのですが、嫌みじゃないのがいいですね!確かに、フランス音楽って、ドイツ音楽に比べますと、下手すれば下に見られる傾向がありますが、実際18世紀まではフランスは音楽先進地域の一つで、むしろドイツのほうが田舎だったわけなので・・・・・これ、鉄道でも同じな部分があります。鉄道に関しては、詳しくは仙台撮り鉄さんの動画をご覧ください。
このアルバムは、そのフランス音楽のすばらしさを、演奏で明らかにしているもの、と考えていいと思います。実はこのアルバム、演奏しているのはドイツ人なんです。オーボエはシェレンベルガー、ピアノはケーネン。ベルリンのイエス・キリスト教会がロケーション。とても上質で、美しい響きの中で、ドイツらしい実直な演奏である故に、フランス音楽のすばらしさが自然とにじみ出ています。それは演奏者のフランス音楽への、敬愛の印だと言っていいでしょう。ドイツ音楽が至上である!なんて言っている国家主義的なファンに対する、柔らかな抵抗であると感じるのは、私だけなのでしょうか・・・・・ドイツ鉄道が、フランスのTGVや日本の東海道新幹線に影響を受けて、自らの技術を信じてICEを走らせた、その歴史を振り返るとき、ドイツという国はすごい国だなって思います。その心意気が、音楽にまでに浸透しているさまを見るのは、なんと幸せなことなのだろうと思います。
聴いている音源
カミーユ・サン=サーンス作曲
オーボエ・ソナタ作品166
フランシス・プーランク作曲
オーボエ・ソナタ
ウジェーヌ・ポザ作曲
ファンタジー・パストラール 作品37
アンリ・デュティユー作曲
オーボエ・ソナタ
リチャード・ロドニー・ベネット作曲
アフター・シランクス(ドビュッシー:無伴奏フルートのための「シランクス」に基づく)
ハンスイェルク・シェレンベルガー(オーボエ)
ロルフ・ケーネン(ピアノ)
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。