かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:クレセント・フィルハーモニー管弦楽団第41回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和5(2023)年8月20日に聴きに行きました、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団の第41回定期演奏会のレビューです。

クレセント・フィルハーモニー管弦楽団に関しては、このブログでも何度も取り上げておりますが、中央大学管弦楽団の卒業生によって設立されたアマチュア・オーケストラです。はじめは「クレセント?」と訝しり、もしかすると中大オケの・・・・・と思っていたらビンゴだったというきっかけですが。それ以来、中大オケの社会人版ということもあり、コンサートには足しげく通っております。

今回は、オール・フランス・プログラム。

ビゼー 「カルメン組曲木管五重奏版)
ラヴェル 古風なメヌエット
プーランク ピアノ協奏曲
④フランク 交響曲ニ短調

マチュア・オーケストラでフランス一色でやることは最近それほど珍しくはないのですが、メインがフランクの交響曲というのが珍しいと思っています。通常はサン=サーンスとか持ってくることも多いですから。ただ、私の経験では、宮前フィルがメインに持ってきたことはあります(その意味でも、宮前フィルはかなり先進的な市民オーケストラだと思います)。

かなり詰め込んだ感はありますが、実質的には3プロで組まれていると言えるでしょう。木管五重奏はアンサンブルで練習できますので、それほど負担にはなりません。全体練習が最も負担なのですよね。とはいえ、全体練習なくして素晴らしいアンサンブルは生まれません。そのバランスをどうとるのか?特にアマチュアオーケストラでは苦労するところだと思います。合唱団ですら、いくつもあれば大変なのですから。

さて、まずはその木管五重奏の「カルメン組曲。オーケストラで演奏されることが多い曲ですが、この演奏会ではデイヴィッド・ウォルターが編曲した木管五重奏版で演奏されました。これは工夫したなあと思うところです。前述したように練習量とレベルの維持のバランスを取った形です。ちょっと美しいサウンドにとらわれすぎたかな?というきらいはあったのですが、全体としては力強さとしなやかさが同居した演奏になっていたと思います。特に「ハバネラ」ではしっかり歌になっていたのも好印象。管楽器だから楽だとは言え、ソリストと合唱の部分なので、その掛け合いをどう表現するのかは、実は難しいところです。

2曲目の「古風なメヌエット」。プログラムの解説を読みますと、メヌエットで古風なので言葉が重なっているという記述がありましたが、メヌエット自体はロマン派の時代であっても残っており、メジャーではなくなったという意味なので、ラヴェルとしては「復興」という意味があったのでは?という気がします。この曲は実は原曲はピアノ曲であり、私もエントリを立てております。

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フランス印象派とは、音楽史においては新しいというよりは「バロック復興」という意味合いのほうが強く、日本語の「温故知新」に近い音楽運動です。フランス・バロックに範をとりつつ、和声は新しいものをというのがフランス印象派の音楽運動です。なのであえてラヴェルは「古風な」という文言を付けたのだとすれば自然です。実際、作品はまるでフランス宮廷の宮廷舞踊のようなリズムですし。アンサンブルとリズムの統合が見事な演奏で、作品の本質をよく捉えた表現だったと思います。ほんと、社会人になると視野が広がって一気にうまくなるのでは?という気がします。

3曲目が、プーランクのピアノ協奏曲。え?プーランクはピアノ協奏曲あったのですか?という方もいらっしゃるかもしれませんが、書いているんです。メロディを聴くと「あれ?どこかで聞いたような」という気がすると思います。

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中大オケ関係で協奏曲と言えば、中大オケにおけるドヴォルザークのチェロ協奏曲を思い出します。あの時は日大の関係のソリストでしたが、ソリストがあまりよくなく、がっかりした経験がありますが、今回は素晴らしいソリスト。作曲家でもあるアヤコ・フジキ女史。ちょっと上品さもあるプーランクを、しなやかにかつ力強く演奏するそのピアノは絶品!オーケストラも単に演奏に酔うだけでなく、しっかりと共に音楽を作り上げていたのはアマチュアオーケストラとしては高いレベルだったのではないでしょうか。できればこのようなソリストを招聘し続けてほしいと思いました。勿論、素晴らしい「若い芽」とのアンサンブルであっても、その演奏が素晴らしければいいと思います。

休憩のあと、メインのフランク。フランクと言えば交響曲というイメージも強いのではと思いますが、そもそもフランクって誰?という人も多いと思います。出自としてはベルギーなのですが、活躍したのはパリ。となれば、交響曲は4楽章というイメージを、ベルギーという国から持つ人もいるかもしれませんが、名探偵ポアロでも触れられているように、ベルギーはフランス語圏なのですよね。なのでフランス文化が強いと言えます。一方でベルギーは王国であり、フランスは共和制。その王国出身のフランクが作曲した交響曲は、3楽章制なのです・・・・・

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フランクが生きた時代において3楽章制とは何を意味するか?です。交響曲が作曲されたのは19世紀末。印象派も伸長している時代です。フランクは印象派とは対立する立場でしたが、「温故知新」の精神はあったでしょうし、何よりも、フランスです。となればキーワードは「自由」。そもそも、フランクはサン=サーンスとともに「国民音楽協会」を立ち上げた一人です。ソナタ形式を備えつつ、第1楽章の旋律が終楽章にも顔を出す、循環形式。フランス音楽の伝統を踏まえ、共和制という時代も踏まえた作品であると言えます。ネットで調べる限りでは言及がないですが、フランクがパリにとどまった理由はおそらく、王政である祖国ベルギーでは息苦しかったから、と言えるでしょう。

となれば、この交響曲にはメッセージが詰まっており、いわばフランクの叫びだとも言えます。独特の和声など、初演時にはさんざんだった評価を、フランクは気にしていないというのも、作品の本質は美しさではないということだと言えます。フランクの内面性なのですから。

そこを、オーケストラはしっかり踏まえて演奏していたと思います。まろやかなのに、力強くホールを満たすフォルティシモ。ピアニシモも美しく、フランクの内面性へ切り込んでいきます。そこには、オーケストラの共感があるのでは?と感じました。社会で生きていればいろんなことがあります。私自身も、まさか難病にかかり仕事を休まねばならなくなるとは思いませんでしたし、おそらく今後、仕事も今の職場で続けるのはかなり厳しいところへと追いやられています。同じように、生きながらいろんな苦悩や経験を積んでいる団員達もまた、フランクの心のうちに共感した演奏だったのではと、聴いていて感じていました。

クレセント・フィルハーモニー管弦楽団は、中央大学管弦楽団のメンバー、つまり学生も幾人か参加しており、相互交流も盛んです。今回も幾人か学生が名を連ねています。今後の少子化を見据え、いいシステムだと思っています。学生も社会人の中で研鑽を積み、一生の趣味として音楽に関わっていくことができると思います。こういった団体が、地域に根差しつつ、音楽の裾野を広げていくのだろうと思っています。そのためにも、何とかクレセント・フィルハーモニー管弦楽団は、応援し続けていきたいと思っています。

 


聴いてきたコンサート
クレセント・フィルハーモニー管弦楽団第41回定期演奏会
ジョルジュ・ビゼー作曲
カルメン組曲(デイヴィッド・ウォルター編曲木管五重奏版)
モーリス・ラヴェル作曲
古風なメヌエット
フランシス・プーランク作曲
ピアノ協奏曲FP.146
メランコリー(ソリストアンコール)
セザール・フランク作曲
交響曲ニ短調作品48
クロード・ドビュッシー作曲
組曲から「小舟にて」(オーケストラアンコール、ビュッセル編曲)
アヤコ・フジキ(ピアノ)
佐藤寿一指揮
クレセント・フィルハーモニー管弦楽団

令和5(2023)年8月20日、東京三鷹三鷹市芸術文化センター風のホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。