かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:クレセント・フィルハーモニー管弦楽団第42回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年1月27日に聴きに行きました、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団の第42回定期演奏会のレビューです。

クレセント・フィルハーモニー管弦楽団は、以前から取り上げておりますが、中央大学管弦楽団のOB・OGたちが結成したオーケストラです。

crephil.moo.jp

現在は中央大学以外の人たちも参加したり、中央大学管弦楽団員が参加したりしています。今回もプログラムを見ていますと結構中央大学管弦楽団のメンバーが参加しています。将来的に少子化が進めば、大学公認の外部団体になって学生と一緒に活動するかもしれませんね。すでに今学生も一緒になって演奏しているわけですから。

さて、今回のプログラムは以下の通りです。

オール・チャイコフスキー・プログラム
①「白鳥の湖クラリネット八重奏曲版
デンマーク国歌による祝典序曲作品15
③スラヴ行進曲作品31
交響曲第3番「ポーランド

この時期にオール・チャイコフスキー・プログラムというのは随分攻めたなあと思います。ロシアの作曲家の作品を演奏することはセンシティヴな問題をはらみますが、世界を見回すとチャイコフスキーの作品というよりはプーチンに近い演奏家たちが追われたという結果になっており、チャイコフスキーの作品をプーチンとは縁遠い人たちが演奏することは否定されていません。この辺りは、クラシック音楽とは縁遠い人たちには理解しにくい点かもしれませんが、そのあたりがあっても自信をもってこのプログラムを持ってきたクレセント・フィルハーモニー管弦楽団に敬意を表したいと思います。如何に日本のオーケストラがプロアマ問わず国際レベルに達して来たかを物語ります。

①「白鳥の湖クラリネット八重奏曲版
白鳥の湖」はチャイコフスキーの作品を代表するバレエ音楽ですが、私自身、室内楽に編曲されていることは知りませんでした。今回は日本人の正門研一氏の編曲によるもので、様々な種類のクラリネットによって演奏されています。弦楽器が得意なスラーを息を使うクラリネットでどのように表現しているかも注目でしたが、クラリネットでも不自然さはあまり感じられず、素晴らしい編曲だったと思います。一方で、アマチュアの限界なのか、もう少し生き生きと演奏しても良かったかな~と思います。私は昨年のラ・フォル・ジュルネで経験したのですが、編曲ものは演奏する人が原作にいかにリスペクトして魂から楽しんで演奏するかで評価は変わってくると思います。演奏者が楽しんで演奏すると編曲ものなのにとても楽しいのです!クラリネットでもこんなに楽しめるんだ!ということを前面に押し出してもよかったかな~と思います。ロケーションが小金井宮地楽器ホール(小金井市民交流センター)大ホールという、ちょっとだけ響かないホールだったこともあるのかもしれませんが、それを言ったら私の知人である白川氏が大泉学園ゆめりあホールで演奏した時は暖かくて楽しい演奏だったことを考えますと、どこか「原作とは違うから」という意識が働いていたような気がします。アマチュアだからこそ、編曲を楽しめるという特権があるように私は感じています。

デンマークの国歌による祝典序曲
これは、1866年に当時のロシア皇太子アレクサンドル(後のアレクサンドル3世)とデンマーク王女ダウマ―(後の皇后マリア・フョードロヴナ)の成婚のためダウマ―王女がモスクワを来訪することを祝して作曲されたものです。以下のウィキペディアには記載されていませんが、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団のプログラムの記載によれば、ダウナー王女は祖国デンマークではあまり喜ばれずむしろロシアに嫁いでかわいそうという考えが一般的だったようで、かの文豪アンデルセンが日記に書き残しています。チャイコフスキーも祖国愛があるとはいえそれを感じ取っていたのか、ロシア国歌の部分を短調で表現し、デンマーク国歌は長調にしています。このことが当局からにらまれるきっかけになり結局この作品は演奏されず、ボタンを授与されただけになったいわくつきの作品です。そのあたりに、今回のクレセント・フィルハーモニー管弦楽団の団員たちの想いが透けて見えるようです。

ja.wikipedia.org

実は、この作品が第42回定期演奏会のオーケストラの演奏の初めの作品なのですが、この作品からオーケストラは全開なんです。しかも、アインザッツはそろっているし、演奏レベルの高さを感じる一方で、気持ちもこもっているんです。ホールが小金井宮地楽器ホールという、小ぶりなホールだったということもあるかもしれませんが、ppからffまでのダイナミクスが実に素晴らしく壮麗で、どことなく「チャイコフスキーは本当はいろんな想いをこの曲に込めていたのではないか」という団員達や指揮者の解釈が、聴いていてはっきりしたように思います。

③スラヴ行進曲
チャイコフスキーの作品の中では有名な作品であるうえでチャイコフスキー愛国心を感じる作品です。1876年にロシア軍がオスマン・トルコ軍と戦うためにセルビアへ遠征に行きますが、そこにおいて負傷した傷病兵の慰問のために作曲された作品です。以下のウィキペディアの文章を読みますと、現在進行形の戦乱と似通っていることに気が付きます。しかし、細かい部分では異なります。その異なる点に焦点を当てて今回のプログラムに入ったように感じるのは私だけなのでしょうか・・・

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しかも、この曲はソ連時代は原作通りの演奏は禁じられています。その点も、今回のプログラムに入れられた理由かなあとも感じています。そしてこの作品も、演奏は実にダイナミックで共感にあふれるものになっています。戦争になって犠牲になるのは市民や最前線の兵士です。

しかも、ヤマトファンなら知っている人も多いかと思いますが、「復活篇」で使われた曲でもあるんですよね。団内にヤマトファンがいるのでは?と思いますが、いかがでしょうか・・・

交響曲第3番「ポーランド
以前この作品もこのブログでは取り上げていますが、チャイコフスキーポーランドの民謡を題材に作曲した作品です。そのため、後にイギリスで「ポーランド」という題名がつけられた作品です。いわゆる、ポロネーズが最終の第5楽章に使われているためです。

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チャイコフスキーの作品はロシアというよりは「汎スラヴ」という側面に特色があると私は考えます。故に、祖国ロシアでは当時は批判にさらされた理由でもあります。しかし一方で今日では汎スラヴということでロシアがウクライナへ侵攻を始めてしまいました。勿論どちらもスラヴ民族であることには違いないですが、一方で歴史の流れの中で、同じスラヴ民族だからこそお互いが干渉しあう中で関係がギクシャクもしています。世界の歴史においてすべて、過干渉になったときは戦争に陥っています。これは何も国家間だけでなく実はシンプルに人間関係でも同じことです。チャイコフスキーが国家間の問題を人間関係に置き換えて考えていたとすれば、なぜ「ポーランド」が成立したのか、そして前2作のロシア的な色の濃いものから脱却しむしろ汎スラヴへと舵を切ったのかが、明確にわかる気がします。偏狭な視野に留まりたくなかった・・・そう考えれば符合します。

それゆえなのか、この作品の演奏においても、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団は情熱的かつ魂がこもった演奏が随所に見られたように思います。この定期演奏会においては徹頭徹尾、オーケストラの演奏は若々しく生き生きとし、そこに人間の想いや魂が反映されているものでした。以前、私は「アマチュアはできる限り小さいホールで演奏するほうが思い切った演奏ができます」と書いてきましたが、クレセント・フィルハーモニー管弦楽団はその点をある程度しっかりとわきまえているような気がします。次回はホールがパルテノン多摩ですが、比較的大きなホールになります。その点をどのように克服し、演奏を聴かせてもらえるのか、いまから楽しみです。

 


聴いて来たコンサート
クレセント・フィルハーモニー管弦楽団第42回定期演奏会
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
バレエ「白鳥の湖クラリネット八重奏曲版(編曲:正門研一)
 第6曲 パ・ダクシオン
 第13-4曲 白鳥たちの踊り
 第21曲 スペインの踊り
 第22曲 ナポリの踊り
デンマーク国歌による祝典序曲作品15
スラヴ行進曲変ロ短調作品31
交響曲第3番ニ長調作品29「ポーランド
白鳥の湖」よりマズルカ(アンコール)
佐藤寿一指揮
クレセント・フィルハーモニー管弦楽団

令和6(2024)年1月27日、東京小金井、小金井宮地楽器ホール(小金井市民交流センター)大ホール

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