かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:ユーゲント・フィルハーモニカ―第18回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年3月10日に聴きに行きました、ユーゲント・フィルハーモニカ―第18回定期演奏会のレビューです。

ユーゲント・フィルハーモニカ―さんは東京のアマチュアオーケストラです。実は、YouTubeチャンネルも持っていらっしゃいます。先日エントリを上げた、東京楽友協会交響楽団さんの第116回定期演奏会も、チラシはもらっていましたが最終的にはこのユーゲント・フィルハーモニカ―さんのYouTubeチャンネルで決断したのでした。

jugend-phil.com

www.youtube.com

そして、私の初ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの演奏体験も、実はYouTubeでした。

ykanchan.hatenablog.com

この体験以来、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのコンサートには足を運ぼうと思っていましたし、実はユーゲント・フィルハーモニカ―さんのチャンネルは私も登録してあります。YouTubeは私は鉄道関係を圧倒的に登録していますが(スーツさんや西園寺さん、鐡坊主さんもそうです)、いくつか音楽関係も登録しています。その中にはプロであるバッハ・コレギウム・ジャパンもあります。

そんな中に、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんも含まれており、コンサートが近くなってきて動画投稿が多くなってきた時に、今回の指揮者である橘直樹さんが動画に登場!その時に、東京楽友協会交響楽団さんのコンサートでも振られることを知ったのでした・・・先にチケットを取っていたのは、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのコンサートです。前日はお休みしようと思っていたのですが、せっかく同じ指揮者が、しかも「オルガン付き」を振り、かつ2プロでエルガーを振られるのであれば、ぜひともと思い、さらにチケットを取ったというわけだったのです。ですので、ユーゲント・フィルハーモニカ―さん様様なのです。

そして、実はそのユーゲント・フィルハーモニカ―さんが今回、オール・エルガー・プログラムでした!

①序曲「コケイン」
②チェロ協奏曲
交響曲第1番

そして、指揮者はエルガーの演奏に生涯をかけてきた、橘直樹氏。その熱い思いを動画で語っておられました。なので今回とても楽しみにしていきました。ホールは実は東京楽友協会交響楽団さんと同じミューザ川崎シンフォニーホール。つまり、2日連続で同じホールに足を運ぶということになりました・・・まあ、鉄道ファンである私としては、うれしいのですが。今回は全日の失敗があったので時間に余裕を持ってきました!乗った列車は2分遅れでしたが。

今回のプログラム、私としてはチェロ協奏曲以外は聴いたことがある曲です。エルガーは日本ではよく知られている作曲家である割には、評価は低い国だと思っています。それゆえ今回、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのテーマ「アマチュアオケだからできること(≒プロオケにはできないこと)」として、エルガーを取り上げたのだと思います。そもそも、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの創立が、コンクールに出場しヨーロッパ公演まで行った経験者たちによるものだったということを考えても、志が高い人たちだと言えると思います。

序曲「コケイン」は、1900年~1901年にエルガーが作曲した演奏会用序曲です。「コケイン」とは、実はロンドンの旧称で、決して特定疾病などではありません。

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フランス語の「理想郷」という言葉が下となっており、その後ロンドンの下町を意味する隠語となりました。そのためか、音楽は非常に愉快で楽しいもの。その愉悦や喜びを、思い切った演奏でいきなり表現します。勿論、やせた弦楽器の音などみじんもありません。このレベルの高さ・・・ぜひとも一度をの演奏をYouTubeでいいので体験されることを強くお勧めします。そのうち、今回の演奏もアップされることでしょう。

2曲目のチェロ協奏曲。エルガーが第1次世界大戦で傷ついた心をいやすために書かれた作品です。

ja.wikipedia.org

主題は1918年に書かれており、完成は同年8月。つまり、第1次世界大戦真っ只中です。エルガーにはドイツにも知己が多くいましたが、その多くは敵になってしまいました。そのことがエルガーを精神的に追い詰めたと言います。聴いていても、エルガーの「愛の挨拶」のような明るい前向きな音楽だけではなく、むしろ短調も多く存在し、時として強く鋭い旋律も存在します。なので、ソリストにはかなり技量と表現力が必要になると思います。

今回のソリストは、東京都交響楽団のチェロ副首席奏者である、江口心一さん。え?プロオケのサラリーマンがそんなことして本当に満足な演奏できるのか?と思う方もいるかもしれません。しかし、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんが信じて招へいしたソリストです。しかも、東京都交響楽団は、ナクソスにも登場するだけの、今や国際的なオーケストラでもあります。悪かろうはずがありません。見事な表現力でした。さすがプロオケの奏者だと思います。つまり、プロオケの奏者とは、実際にはソリストもできるだけのレベルを持っていることが、証明されたということになります。

同じ例を、私はエントリで挙げております。

ykanchan.hatenablog.com

このエントリで、私はこう語っています。

「在京オケの首席がソリストを務めるなんて、アマチュアオケで珍しいことでも何でもないですから。」

はいそうなんです。実はアマチュアオーケストラの演奏会に行きますと、ソリストはプロオケの奏者という例は結構あります。アマチュアにソロだけで活動している人を招聘するだけの経済力などありません。となると、すでに定職を持っていて、アルバイトで出来る人を招聘するしかない、となれば、当然プロオケの奏者ということになるわけです。そして実際私は、「王子様」ことNHK交響楽団の当時主席チェロ奏者だった藤村俊介氏(現在は定年のため嘱託)のチェロのすばらしさを聴いていましたから、東京都交響楽団なら当然それくらいのレベルの奏者であろうと判断したわけなのです。おそらく、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの団員の皆さんも同じ判断だったと思います。この辺りは、Facebookの非公開グループ「クラシックを聴こう!」で「王子様」こと藤村俊介氏の「追っかけ」をされている某女史に感謝しかありません。

休憩の後の、交響曲第1番。ティンパニの小さな連打の後、静かに主題を奏する弦楽器。低音からヴァイオリンへと受け渡していく時の繊細さ。ffでのダイナミックかつ力強さ!まさにエルガーの作品が持つ特徴である「ノビルメンテ(高貴な・上品な・気品のある)」を壮麗な音楽と共に演奏しているのが印象的です。それゆえに、チェロ協奏曲がどれだけ苦しい中でエルガーが生み出したのかがコントラストとして浮かび上がります。オーケストラも第1番の「ノビルメンテ」に最大限の共感をしているのが聴き取れますし、また体の動きでもみてとれます。

エルガー交響曲は保守的なのでダメ!という向きもあるのですが、その「保守的」というのはエルガー自身の反骨精神だったように見えるのです。当時ヨーロッパでは、伝統的な交響曲は衰退基調で、交響詩全盛の時代を迎えていました。リヒャルト・シュトラウスがその典型です。エルガーはそれ自体を否定はしませんが、自身は取り組まず、あくまでも無表題の交響曲にこだわったのです。保守的なイギリス人ゆえに、伝統的なドイツ的音楽を、イギリス風味たっぷりに「ノビルメンテ」で作曲したと言えるでしょう。そこへの共感も多分にあったのでは?と思います。なにしろ、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんのコンセプトを思い出してみてください。

「アマチュアオケだからできること(≒プロオケにはできないこと)」

です。プロオケだと、どうしても金を稼がないといけないので、市場がもとめる音楽を演奏しがちです。それは、端的に言えばドイツ音楽優先主義です。私自身ドイツ音楽は好きなのでそれ自体を否定しませんが、それだけが音楽ではないとも思っているので、このユーゲント・フィルハーモニカ―さんの姿勢には強く共感するのです。

その、ユーゲント・フィルハーモニカ―さんの姿勢が、エルガーへの共感として強く表れていると感じました。ソリストのアンコールも日本人作曲家の稲本響さんの作品で、不協和音を多用しつつ味わい深い作品を感情強く演奏されましたし、オーケストラのアンコールが、何と!前日東京楽友協会交響楽団さんが2プロで採用した、エルガーの「エニグマ変奏曲」の最終曲だったのです。

実は今回、隠れたもう一人のソリストがいます。それは、「コケイン」で気づかれた方もいらっしゃるかと思いますが、オルガニストです。そのオルガニストが、梅干野安未さん。そう、前日の東京楽友協会交響楽団さんのコンサートでオルガニストを務めた方なんです!

コケインでも、エニグマ変奏曲でも、オルガンは強くは弾かれず控えめにオーケストラとアンサンブルしますが、前日の東京楽友協会交響楽団さんのサン=サーンス「オルガン付き」で披露した強いアインザッツだけでなく、繊細な演奏もすばらしいその点が、今回のユーゲント・フィルハーモニカ―さんの演奏でも同様でした。むしろ、その自在な表現力が、今回のエルガーにぴったりだと思いました。

おそらくですが、今回の日程は、指揮者橘さんとオーケストラ、そしてオルガニストの間で議論して決めたと思います。2日続けて演奏がある場合、違うホールだとその分調整が大変になります。それなら、2日間同じホールのほうがいいという判断があってもおかしくありません。梅干野安未さんがオルガニストだったから、同じホールだったと考えていいとおもいます。それが、一方のオーケストラでは「オルガン付き」で、一方のオーケストラではエルガーだったということではないかとおもいます。こういった指揮者が、日本にもいるんですよね。プロオケだけではなく、アマチュアオーケストラの演奏会にもぜひとも大勢の方が足をはこんでいただきたいと思います。

私自身、再びユーゲント・フィルハーモニカ―さんの演奏会を楽しみにしたいと思います。定期演奏会は年1回しかやられないんですが、実はもう一つ、福島で毎年演奏をされています。今年はその福島で「オルガン付き」を演奏するとのこと。今年は東北・山形新幹線にE8系がデビューしますし、たまには新幹線に乗って福島までいこうかと、現在画策中です。

 


聴いてきたコンサート
ユーゲント・フィルハーモニカ―第18回定期演奏会
エドワード・エルガー作曲
序曲「コケイン」作品40
チェロ協奏曲ホ短調作品85
交響曲第1番変イ長調作品55
エニグマ変奏曲より第14変奏終曲(アンコール)
ヨハン・クリストフ・ペツェル作曲
塔の音楽(プレ・コンサート)
稲本響
船長(チェロ・ソリストアンコール)
江口心一(チェロ)
梅干野安未(オルガン)
橘直樹指揮
ユーゲント・フィルハーモニカ―

令和6(2024)年3月10日、神奈川、川崎 ミューザ川崎コンサートホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。