かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:フィルハーモニカ―・ウィーン・名古屋第19回演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和5(2023)年12月10日に聴きに行きました、フィルハーモニカ―・ウィーン・名古屋の第19回演奏会のレビューです。

フィルハーモニカ―・ウィーン・名古屋さんは、2011年に創設された、東海地方の方を中心にしたアマチュアオーケストラです。名前の由来は、ウィーン音楽、ウィーン式楽器をこよなく愛することからきています。

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いつもは関東地方、それも東京周辺のオーケストラしか聴かない私なのですが、実は地方のアマチュアオーケストラも以前から注目しており、聴きに行きたいとずっと思っておりました。かつて宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」に所属していた時、定期演奏会モーツァルトの「戴冠ミサ」をやるということで、わざわざレファレンスで奈良県の大和八木まで聴きに行ったことがあります(ちょうど正倉院展を見に行った時に掲示を発見したのでした)。それ以来、もし機会があれば東京以外のアマチュアオーケストラも聴いてみたいという想いをずっと持っていました。今回、ちょうどその念願がかなったということになります(実は、これ以前に芦屋交響楽団さんの演奏会へ足を運ぶ予定ていたのですが、諸般の事情で流れました)。ですが、東京を離れてとなりますと、交通費が・・・

今回、ラッキーだったのは、12月10日というタイミングでした。この時期、JRでは青春18きっぷを売りに出します。その使用開始は売り初めから10日後が恒例で、ちょうど青春18きっぷの使用開始日に、コンサートが重なったことが大きかったのです。そのうえで、メインはベートーヴェン「第九」。そりゃあ行くっきゃないっしょ!とチケットを取りました。はじめは往復青春18きっぷ使用の予定でしたが、動画を始めたことからその取材と絡め、行きは夜行バス、帰りに青春18きっぷを使っています。名古屋以遠だと、夜のコンサートとかなら青春18きっぷ使用はおすすめです。ちなみに、青春18きっぷはその名称とは違い、どなたでも使用可能です。学生が休みに入る時期に通勤電車の利用を埋めるべく設定されたのでその名がついているだけなのです。つまり、通学している学生に旅行の手段として普通列車を使ってほしいという意味合いがあるだけで、その対象者は学生に限らないのです。勿論、普通列車に乗ってほしいきっぷなので、新幹線や特急列車を使う場合は特急料金が別にかかるだけでなく、当該区間の運賃も必要になりますのでご注意を。なお、5回使えて12000円ほど。なので、1回あたりは2500円!それで一日普通列車もしくは快速なら乗り放題です。つまり、東京から名古屋までは運賃で7000円近くかかりますが、それが2500円で行けてしまうのです。しかも、昼間のコンサートだけなら往復で、です(7000円近くはちなみに片道)。今回、行こうと決めた理由の一つが、青春18きっぷが利用できることだったのはそのためなのです。

さて、フィルハーモニカ―・ウィーンという名称の通り、ウィーンに関わるオーケストラなわけですが、楽器にはいくつか方式というものがあります。フィルハーモニカ―・ウィーン・名古屋さんの場合、ウィーン式なわけですが、これは管楽器における方式です。特にクラリネットオーボエと言った楽器で顕著で、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聴きますと管楽器で特徴的な響きがあると思います。これはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が最高のオーケストラだからだ!と勘違いしてしまいますがそうではなく、他のオーケストラとは管楽器の方式が異なることが大きな理由です。そのうえでしっかりとしたプロの技術が合わさったものなんですね。そのサウンドに魅了された人たちが、フィルハーモニカ―・ウィーン・名古屋さんに集いし人たちだと言えます。ただ、そのことは決していい方向に行くとは限りません。端的に言えば、今回のコンサートはウィーン式に翻弄された演奏だったと言えます。

今回のプログラムは第九を含め以下の通り。

オール・ベートーヴェン・プログラム
①合唱幻想曲
交響曲第9番

まず、合唱幻想曲ですが、この曲を1プロに持ってくるとは、どれだけ気合が入っているんだ!と感じます。ピアノも編成に入りますし、なによりソリストが第九よりも多いんです。初演時はこの合唱幻想曲がメインだったことを考えれば、当然の編成とは思いますが、それだけ、ベートーヴェンの想いも詰まっている作品でもあります。第九だけでもエネルギーを使うのに、これまたエネルギーを使う作品を持ってくるとは!と思うわけなんです。そして、その想いをしっかりと受け取った演奏でした。ピアニストのアーティキュレーションも繊細で、しかしちょっと力が入りすぎているかな?という印象を受けますが、いい方向に行ったように思います。また、ソリストも素晴らしい!特にアマチュアオーケストラの演奏会ではいいソリストを揃えられないこともあるのですが、今回、本当にソリストが素晴らしい!これは第九でもでしたが、よくぞこれだけのソリストを揃えたなあって思います。指揮者が音楽評論家でもある茂木大輔氏であることもあるのでしょう。軽い発声かつ力強い声楽が響いたと思ったら、勝るとも劣らない合唱!あのう、合唱団もアマチュアなのですが・・・チラシに入っていたのですが、合唱団の名古屋市民コーラスさんは主にプロオケと共に演奏会を開いている団体。いやあ、歌い慣れてますね。合唱指揮は常任指揮者の山本氏でしたが、実に優れた指導者だと思います。アマチュアらしい発声は見受けられましたが、単に力任せではない歌声は、東京の団体と比べても全くそん色ないと思います。オーケストラのウィーン式の響きも相まって、素晴らしい演奏でした。

一方の第九なのですが、ウィーン式なのだからか、管楽器の出だしがそろわないことが散見されたのが残念だったなと思います。弦楽器はアインザッツがそろっているうえにアマチュア特有のやせた音がないんです。なので、アマチュアオーケストラの実力として高いものがあるんですよね。これは感心しました。東京以外でも高いレベルの団体が生まれてきているんです。やはり私がいう、日本のレベルは上がった、海外オケだけが素晴らしい時代は終わったというのは間違っていないと確信しました。

それだけに、管楽器の出だしがそろっていないのは残念に聴いていました。茂木氏のタクトが見にくいのかな?とも思ったりしましたが、打点はしっかりしているように見受けられましたので、オーケストラのほうが気持ちが先走っており、息の吸い込みなどが追い付いていないせいだと考えます。例えば、合唱幻想曲では素晴らしいアンサンブルをしており、合唱幻想曲がどのような作品であるのかまでを、演奏で証明してみせたと思うからなんです。合唱幻想曲はピアノ協奏曲のようだと言われますが、今回の演奏を見て、それは一面を見ているに過ぎないと確信しました。それが特に出たのが、途中ヴァイオリンとヴィオラ、チェロによる独奏部分。考えてみればこれって弦楽四重奏なんですよね。そこから顧みれば、冒頭のピアノはピアノ・ソナタですし、途中はピアノ協奏曲、そして弦楽四重奏があって、最後はオーケストラ付の合唱曲と、ベートーヴェンの当時の歩み、そして未来を暗示した作品であるわけです(なので、冒頭で「この曲はベートーヴェンの想いが詰まった曲」と申し上げたのです)。ですが、第九では合唱幻想曲で見せたようなアンサンブルが崩壊してしまっている。これは明らかに、オーケストラが気持ちが先走っている証拠だと思います。

ですが、第4楽章に入って、合唱が入って一変します。まるで水を得た魚のようにオーケストラが生き生きとし始めます。素晴らしいソリストの上に力強くしなやかな合唱、それからエネルギーをもらったかのように、アンサンブルがそろいだし、力強い連帯の歌を歌い始めます。ということは、ウィーン式という特殊な方式に囚われて、気持ちが先走ったと考えるほうが自然だと判断しています。これは前日聴きに行った板橋第九とはオーケストラと合唱団の立場が逆転したなと思いました。特に前日の板橋第九はオーケストラが東京フィルハーモニー交響楽団ですし、当然ではあるでしょうが。

しかし、演奏全体としては私は高評価です。ウィーン式という特殊な方式にチャレンジしたこと、その中で湧き上がってくる気持ちを両立させようとしたこと、その結果しり上がりに良くなっていったことは、やはりアマチュアオーケストラだからこそ経験できる演奏なんです。第4楽章では何度感動した泣いたことか・・・・・しかも!第4楽章vor Gott!の部分、vor1拍に対しGott!は4拍。2拍分残響という変態演奏!なのに、感動しっぱなし。茂木さんもやりますねえ。会場は愛知県芸術劇場でしたが、超満員。茂木さん目当てで来た人も多かったようで、1階席から満席になると言う・・・・・残響のいいホールではありえない状況でした(このようなホールだと通常は2階席や3階席から埋まり、1階席前方が残っています)。豊橋での取材を終えてギリギリで会場に来たのですが、1階席しか残っていないかなと思っていたら「1階席と2階席は満席です。3階席へお回りください」って・・・・名古屋に茂木さんのファンが根付いているのかなと思いました。実際、私は3階席のしかも一番後ろ、ビデオカメラの横で聴かせていただきました。結果的にはそれがよかったのですが。

私自身、正直フィルハーモニカ―・ウィーン・名古屋さんのファンになりそうです。とはいえ、交通費を考えますとなかなか難しいのですが、ただ今回積み残した取材もあり、それならば毎回足を運ぶのもいいかもしれないと思った次第です。合唱団の名古屋市民コーラスさんの合唱も素晴らしく、さらに演奏が聴きたい!と思わせてくれました。高速バスなら早割だと3500円ほどですし、今回のように夜行バスを使ってもいいですしね。また一つ、いや二つ、聴きに行きたい団体が増えました。できれば、東海道新幹線に乗って「会いに行き」たい団体です。

 


聴いて来たコンサート
フィルハーモニカ―・ウィーン・名古屋第19回演奏会
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
合唱幻想曲ハ短調作品80
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
川島幸子(ソプラノ、第九)
板倉歌奈子(ソプラノ、合唱幻想曲)
舟倉悠利(ソプラノ、合唱幻想曲)
三輪陽子(メゾ・ソプラノ、第九)
田中祐依(アルト、合唱幻想曲)
大久保亮(テノール、第九)
笠木厚憲(テノール、合唱幻想曲)
岩田健豊(テノール、合唱幻想曲)
伊藤貴之(バス、第九)
大倉一將(バス、合唱幻想曲)
児玉真子(ピアノ、合唱幻想曲)
名古屋市民コーラス(合唱指揮:山本高栄)
茂木大輔指揮
フィルハーモニカ―・ウィーン・名古屋

令和5(2023)年12月10日、名古屋市東区愛知県芸術劇場コンサートホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。