かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:アバドがエリック・エリクソン由来の合唱団を率いて振る「ドイツ・レクイエム」

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、クラウディオ・アバドが振ったブラームスの「ドイツ・レクイエム」のアルバムをご紹介します。

ブラームスの「ドイツ・レクイエム」の録音は数々ありますし、このブログでも取り上げてきていますが、今回はクラウディオ・アバドの指揮の物となります。なぜアバドのを借りてきたのかと言えば、その合唱団がエリック・エリクソン合唱団と、スウェーデン放送合唱団だからです。

この二つの合唱団は、合唱界では垂涎の団体です。私自身、スウェーデン放送合唱団の演奏会には足を運んでいます。

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この時も、本当に実力のある合唱団だと思いました。それは、今回の録音を聴いていても変わりはありません。エリック・エリクソン合唱団も同様なのですが、発声としてはビブラートがかかっているにもかかわらず、その透明で力強い声楽は、ドイツ・レクイエムの魂を掬い取っていると感じます。

実は、エリック・エリクソン合唱団(室内が付く場合もあります)と、スウェーデン放送合唱団は、ある一人の合唱指導者が関わっています。それが、エリック・エリクソン合唱団の名称にもなっている、エリック・エリクソンです。

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しかも、調べてみれば、両合唱団はエリック・エリクソンが設立にも関わっています。

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つまり、エリック・エリクソン合唱団とスウェーデン放送合唱団は、ともにエリック・エリクソンの申し子であると言えるわけです。指導者はそれぞれすでに変わっていますが、しかしエリック・エリクソンの弟子たちとも言えるわけです。実際、私が神奈川県立音楽堂に聴きに行った時の指揮者ペーター・ダイクストラはエリック・エリクソンにも指導を受けています。

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そういった、エリック・エリクソンの薫陶を受けた指導者をいただく合唱団なのですが、その実力は欧州で広く知られているのです。私はアバドベートーヴェンの第九などでなぜスウェーデンの合唱団を使うのだろうかと当初は訝しんだものですが、アバドはその実力を見込んで採用したというわけです。見事に日本では合唱が低くみられていることで私は理解できなかったというわけです。これが教育の恐ろしいところです・・・

アバドの、ゆったり目のテンポの中で、静謐さと感情のドグマとを両立させる解釈に、エリック・エリクソン由来の合唱団はぴったりだと言えます。カラヤンウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と録音したアルバムではウィーン楽友協会合唱団を採用しましたが、アバドベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのこのセッションでは、ベルリンの合唱団を使うという選択肢もあったはずのところを、あえてスウェーデンのエリック・エリクソン由来の二つの合唱団を使うという判断をしたのが、特徴的ですがまさに正しいと言えるでしょう。録音は1992年なので、東西ドイツは一つになっていますので、ベルリン放送合唱団を使うという選択肢もあったわけです。それをせずにスウェーデンのエリック・エリクソン由来の合唱団を使うというのは、これは私の推測になりますが、エリック・エリクソン由来の二つの合唱団はビブラート唱法であるのに対し、ベルリン放送合唱団はノン・ビブラート唱法だからというのがあったのでは?と思います。

私自身はどちらかというとノン・ビブラート唱法のほうが好きなのですが、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団はビブラート唱法になじんできたオーケストラですし、またベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のファンというのも、ビブラート唱法になじんできた人たちであるわけです。おそらく、アバド自身もそうだったと想像できます。であれば、ビブラート唱法の合唱団を選択するのは自然なことでしょう。そのうえで、スウェーデンのエリック・エリクソン由来の合唱団を使うことで、西欧の伝統的なビブラート唱法の合唱団とは一味違った発声の色や美しさを追及しようという意識もあったのでは?と思います。特に、このエリック・エリクソン由来の二つの合唱団は、指導者としてバルト3国で研鑽を積んだ人も結構就任しています。バルト3国と言えば、特にエストニアは合唱が盛んな国であるわけで、裾野が広いことで実力のある合唱団も多いのです。

その実力の高さを、アバドがよく理解していたと考えれば、納得の布陣なのですよね。実際、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の硬質な音色に、しなやかで透明感があり、力強くもあるスウェーデン放送合唱団とエリック・エリクソン合唱団はマッチしています。カラヤン風だ!と言えばそれまでですが、しかしよく聴けば聴くほど、カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とは異なる色が散りばめられています。そこを聴き分けられるか、られないかは、音楽が本当に好きなのかというリトマス試験紙だと、私自身は考えています。私自身、なんでもカラヤンの演奏がいいとは思っていません。実際、カラヤンの演奏で打ち捨てたものもあります。しかし、いいものはいいのです。この姿勢、本来「清濁併せのむ」ことが得意な日本人で結構できていない人が多いのでは?と思います。臨床心理の世界ではこれを「境界線を引く」と言いますが、この「境界線を引く」ということが出来ますと、カラヤンの演奏でも評価すべき録音がたくさんあることに気が付く一方で、批判もできます。実際、図書館で借りてきたのにデータを削除した唯一の物が、カラヤン指揮のチャイコフスキー交響曲第5番です。こういったことが出来るようになるのですよね。

そしてだからこそ、このゆったりとしたテンポのアバドの録音を評価する一方で、その正反対とも言える鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパンの「ドイツ・レクイエム」の演奏も評価できるのです。

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恐らく、この両方を私が評価できるのは、アマチュア合唱団員として活動した経験があるからだと思います。自分の団体の定期演奏会や、多団体への助っ人公演など、いろんな経験をさせてもらったからこそ理解できる、合唱するということ、そして歌うと言うこと、そしてその本質。この理解があればこそだと思っています。クラシック音楽の根底には、教会における聖歌隊の音楽があることを踏まえますと、クラシック音楽の理解には、合唱経験は大いに役に立つと思います。

その意味では、再び合唱が隆盛になる時代が来ることを望みます。そして、実は合唱指導をした経験のある素晴らしい指揮者が、今や日本の楽壇を席巻しつつあることは、歌劇場たたき上げの指揮者が多い欧州の指揮者と同じ道を、日本独自の方法で歩んでいると感じます。その将来が今から楽しみです。アバドがエリック・エリクソン由来の合唱団を使うことでメッセージしたいこと・・・それをぜひとも、今後とも感じていたいと思います。

 


聴いている音源
ヨハネス・ブラームス作曲
ドイツ・レクイエム 作品45
チェリル・ステューダー(ソプラノ)
アンドレアス・シュミット(バリトン
スウェーデン放送合唱団
エリック・エリクソン合唱団
(合唱指揮:グスタフ・ショクビスト)
クラウディオ・アバド指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

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