東京の図書館から、小金井市立図書館のライブラリをご紹介しています。今回はシェーンベルクの編曲を主に取り上げたアルバムをご紹介します。
アーノルト・シェーンベルク。優れた作曲者であり、合唱団の名称にもなっている偉大な音楽家ですが、優れた編曲者であったこともまた、知られているところではないでしょうか。
そんなシェーンベルクが編曲した一つに、ブラームスの作品があります。このアルバムではブラームスの室内楽の至宝の一つである、ピアノ四重奏曲第1番が、見事な交響曲としてトランスクリプションされています。
これが面白いのは、ピアノ協奏曲にはしなかった、という点なんです。本来ピアノ四重奏曲であれば、四重奏の部分をオーケストレーションしてピアノ協奏曲としてしまうほうがオーケストレーションとしてははるかに楽なはずなんです。そもそも、ピアノ四重奏曲というジャンルはピアノ協奏曲を補完する意味があるからです。古典派において、モーツァルトが自作のピアノ協奏曲をピアノ四重奏曲にしたように、です。
シェーンベルクはピアノの部分も含め、管弦楽作品にしたのです。つまりは、交響曲にしてしまったんですね。その意味では、新たなブラームスの交響曲の誕生だともいえるでしょう。第4楽章のジプシー風の旋律とリズムは俗っぽいブラームスならではの洒脱さですが、それが管弦楽でも生き生きと表現されているのは単に演奏が素晴らしいだけはなく、作品そのものが持つ生命力によるものでしょう。決してブラームス風の編曲にはなっていませんが、シェーンベルクの編曲がまた新たな生命を吹き込んでいるように思います。
続く二つのシェーンベルクの作品はさすがご本人の作だけあって不協和音バリバリ。けれども、それがまたいいんですよねえ。特に室内交響曲は編曲したブラームスとの対比で聴き比べても面白く、シェーンベルクという作曲家への偏見が取れるように配慮されているのもまた素晴らしいと思います。
で、演奏するはラトル指揮ベルリン・フィル。ラトルになってこういう作品を取り上げることが多くなったのもまたベルリン・フィルの能力が発揮されていいですね。どうしてもカラヤンの時は大衆迎合的な部分がありました。それはそれで仕方のない点がありましたが、カラヤン亡きあと、しっかりと自分たちの音楽を指揮者と作り上げているとおもいます。カラヤンが切り開いた現代音楽へのアプローチを受け継ぎつつも、音楽を「作り上げていく」ということにおいてはしっかり距離を取っているのも好感できます。
やはりベルリン・フィルは「うまいなあ」と思います。そんなの当たり前かもしれませんが、こういった現代音楽物をしっかりきかせるのはやはり実力あってこそだと思います。
聴いている音源
ヨハネス・ブラームス作曲
ピアノ四重奏曲第1番ト短調作品25(管弦楽版、編曲:アーノルト・シェーンベルク)
アーノルト・シェーンベルク作曲
映画の一場面への伴奏音楽作品34(迫り来る危機~不安~破局)
室内交響曲第1番作品9b
サイモン・ラトル指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
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