かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:小倉朗 管弦楽選集

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリをご紹介します。小倉朗の管弦楽作品を収録したアルバムです。

とはいえ、これは単に小倉朗という人の作品を収録しただけではなく、指揮者の世界を表現したものでもあります。その指揮者とは、父に文学者を持つ作曲家、芥川也寸志です。

芥川氏が指揮をしていたことは、私よりも上の年代の方ならご存じだと思うんですが、私より下の世代の人だと、芥川也寸志となると、作曲家としてしか知らない人も多いのではないかと思います。NHKの「音楽の広場」では指揮もやる人で、第九も指揮した人です(しかもその裏番組が総合のN響第九というw)。

そんな芥川氏が、1978年4月にアマチュアオーケストラ、新交響楽団定期演奏会で2度にわたり取り上げたのが、小倉朗の管弦楽作品だったのです。その様子を一枚にまとめたのが、今回ご紹介する音源です。

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戦前の作品もありますが主に戦後に活躍した20世紀音楽系の作曲家です。このアルバムが収録された時にはまだ存命でした。もしかするとコンサート会場に作曲家が来ていた可能性は大でしょう。そんな中で同じ作曲家である芥川氏がアマチュアオーケストラを指揮して表現するということは、どんな気持ちだったでしょう?

そもそも、なんでアマチュアオケ?って思いますよね。実は新交響楽団はアマチュアオケとはいいながら、以前伊福部の作品をこのブログで取り上げたときにも登場しているセミ・プロと言った方がいい、日本を代表するアマチュアオーケストラで、現在でも精力的な活動をしています、新型コロナウイルスの蔓延がなければ・・・・・

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プロフィルを見てみると、創立時の指揮者が芥川也寸志であることがはっきり明記されています。つまり、芥川也寸志を慕った団員により結成されたオケ、でもあるわけなんですね。ですから、芥川としては手兵のオケともいえるわけで、同年代の小倉氏の作品を振るなら、新響さんだったと想像できるわけ、なのです。

だからこそ借りてきたという側面もあります。芥川が手兵の新響をどのように振っているのかも注目でしたし、1978年という時点での新響さんの実力も聴いてみたい、という側面もありました。

結論から言えば、実力はこのときから折り紙付きだったといえます。ただ、決して小倉氏のそれぞれの作品は難しい和声ばかりではなくむしろ調性の拡大という側面が強い作品ばかりなのですが、多分に新古典主義音楽や国民楽派に影響を受けた作品が並んでいます。1曲目の「日本民謡による五楽章」は1957年の作品でありながら、実に洒脱でヨーロッパ的なのに、日本情緒溢れるものです。そんな作品がずらりと並んでおり、その一つ一つを紡ぎだす芥川のタクトと新響のアンサンブルの生命力の豊富さは絶品です!

所謂アマチュアオケ的な痩せた音は一切なく、プロオケと言ってもいいくらいの実力で、和声的に多少複雑な作品に生命を与え光を当て、私たちの前に作曲家小倉朗という人となりすら浮かび上がらせるといってもいい素晴らしい表現をするのです。こういうアマチュアがいて、現在も活躍しているということを、たとえばN響を批判する人たちはどれだけ知ったうえでのことなんだろうかと思います。

私がずっとアマオケばかり聴いているのは何も資金面の問題ばかりではありません。日本のプロオケに対する距離、なのです。ただ、新型コロナウイルスはそんな私の「距離」すら乗り越えてきました。もうアマチュアだプロだなどと区別している場合ではありません。どちらも我が国の至宝と位置付けて、守っていくにはどうすればいいのかを考えていかねばなりません。プロオケならまだ定期会員という手もあります。しかしアマチュアはなかなかそういう制度がありませんし、私自身、定期会員になったとしてもシフトの仕事をしているためすべての回に行けないので会員にはなれないというジレンマも感じているのです。

けれど、もし私が土日休める仕事であり、なんとか時間のやりくりが付くのであれば、この新響さんや、都民響さんなどは定期会員になりたいオケです。それだけのパフォーマンスを新響さんは持っています。特にこの演奏を借りてきたときに聴いていただけに、今回次々と定期演奏会が中止になっているのはとても残念です。直近では新響さんの演奏会へ行く予定すら立てていました。それがすべて吹っ飛んだのですから・・・・・

是非とも、またこのアルバムのような企画をどんどんやってほしいと思います。表現の場所が奪われて、悶々としている作曲家もたくさんいるはずなのですから。

 


聴いている音源
小倉 朗作曲
日本民謡による五楽章(1957)
オーケストラのためのブルレスケ(1959)
交響曲ト調(1968)
弦楽合奏のためのコンポジション(1972)
オーケストラのためのコンポジション 嬰へ調(1975)
芥川也寸志指揮
交響楽団

※なお、「日本民謡による五楽章」から「交響曲ト調」までが第1夜、「弦楽合奏のためのコンポジション」から「オーケストラのためのコンポジション」までが第2夜です。

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。