東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、ラヴェルの管弦楽作品集を取り上げます。ピエール・ブーレーズ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。
フランスの作曲家であるラヴェルの作品を収録したアルバムは数多ありますが、その中でこのアルバムを借りてきた理由は、ブーレーズとベルリン・フィルという組み合わせにあります。ブーレーズと言えばフランス人であり、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と言えばドイツのオーケストラであるわけなのですが、実はこの組み合わせは、意外といいと思ったから、です。フランスものをドイツのオーケストラが演奏する上に、その指揮者がフランス人というマリアージュ。クラシック音楽の演奏においては、しばしば理想的とも言われる組み合わせなのです。
実は、ブーレーズは同じような組み合わせでワーグナーの楽劇も振っています(ニーベルングの指輪)。大学時代、大学図書館に通い、古建築や仏像の本を借りつつ、視聴覚ブースでレーザーディスクを見まくったのもいい思い出です。その時の演奏が素晴らしかったこともあり、このコンビなら何か期待できそうと思い借りてきたのです。
このアルバムに収録されているのは、以下の通りです。
バレエ音楽「マ・メール・ロワ」
海原の小舟(管弦楽版)
道化師の朝の歌(管弦楽版)
スペイン狂想曲
ボレロ
「マ・メール・ロワ」はすでに組曲を神奈川県立図書館で借りていますが、バレエ音楽になっているものはまだでしたので借りてきたということもあります。そもそもはピアノ連弾のための作品です。それを組曲にしたうえで、バレエ音楽にもしてしまったという作品なのです。
いつかはピアノ連弾も聴いてみたいと思っていますが、図書館だと意外にないのが・・・これは、購入案件かもしれません。とはいえ、ハイレゾであるかなあという気も・・・できればハイレゾで手に入れたいものです。
元々のピアノ連弾版と管弦楽版は曲順が変わりありませんが、バレエ音楽だと曲順が変わっています。その視点で言えば、厳密にはピアノ連弾とバレエ音楽とでは性格が異なると考えるほうがいいのでは?と思います。そもそもこの曲は、マザーグースの物語を基に作曲されていますが、面白いことに、そのほとんどがディズニーによって映画化されています。そう考えると、そもそもは別々の物語であるものを、一つのストーリーとして再構築したのがバレエ音楽、と考えてよさそうです。それでも不自然な点がないということも、この作品の特徴かなと思います。ある意味一つのパッチワークとも言えそうです。
2曲目「海原の小舟」と3曲目「道化師の朝の歌」はそれぞれ別の曲のようにCDではタイトルがつけられていたのですが、実際はピアノ組曲「鏡」の第3曲目と第4曲目です。そしてその二つだけラヴェル自身によって管弦楽曲に編曲されたものです。
つまり、このアルバムの第1曲から第3曲までは、もともとピアノ曲だったものを管弦楽作品へと編曲したものを取り上げている、ということになります。ラヴェルのこの方針は、ムソルグスキーの「展覧会の絵」のオーケストレーションをしたことにもつながっていると考えていいでしょう。
第4曲と第5曲は、元から管弦楽作品として作曲されたものになります。第4曲目の「スペイン狂想曲」は、スペインの情景を描いたものです。ラヴェルの母親がバスク人であることが作曲に影響している作品です。ドビュッシーも「イベリア」を作曲するなどスペインを題材にしていますが、フランスにとってスペインという国は国境を接しているゆえに身近ということもありつつも、その後のフランスとスペインの関係から考えますと、私達が思っている以上に複雑な社会となっていることが想像されます。
「ハバネラ」のみ、もともとピアノ曲でしたが、これもまたドビュッシーとのエピソードが残っています。そのあたりも興味深いですが、そもそもは、バスク地方と言えばスペインの中でも民族意識が高い地域でもあります。そのあたりを考慮しても、どこか複雑な背景が感じられるのですが、一方でモーツァルトのようにその複雑な背景はあまり前面に出していません。そもそもスペインを題材にするということ自体が、当時のフランスに置いてエポックメイキングなことだったと考えていいでしょう。
そして第5曲目の「ボレロ」は有名な曲なので説明もいらないくらいだと言えますが、単調なリズムと二つの旋律のみで生き生きとした音楽が表現できることを証明したのは素晴らしいことだと思います。ラヴェルが生きた時代はちょうど産業革命が社会に浸透した時代であり、機械を身近に感じられる社会です。その機械を生命に譬えて芸術として表現したこともまた、エポックメイキングなことだったと考えていいでしょう。
ドビュッシーとの関係性もありますが、ラヴェルは単に印象派というくくりで考えていいのだろうかと、改めて「ボレロ」を聞きますと考えます。ドビュッシーが言う「象徴主義」の延長線上にラヴェルもいるのでは?と私は考えます。それをさらに進めていった結果、印象派を紡ぎ出したと考えてもよさそうです。
むしろ、この演奏においては、オーケストラがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団だからこそ、象徴主義の側面も浮かび上がるような気もしています。硬質なベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のハーモニーだからこそ浮かび上がる、真のラヴェル作品の側面があるように感じられます。ラヴェル自身はフランスのオーケストラを念頭に置いて作曲・オーケストレーションをしたと思いますが、しかし完全な「フランス」という民族主義で作曲したのだろうかという疑念も私の中にあります。もしかすると、ラヴェルが推し進めた「印象派」とは、フランス民族主義とは多少距離を置いた結果たどり着いた地点だったのかもしれません。ブーレーズがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でラヴェルを振るということは、ラヴェルの芸術の意味を問い直すことだったように私には聴こえるのです。こういうCDを図書館に置くという点に置いて、小金井市立図書館の司書さんは有能だなあと感心します。
聴いている音源
モーリス・ラヴェル作曲
バレエ音楽「マ・メール・ロワ」
海原の小舟(管弦楽版)
道化師の朝の歌(管弦楽版)
スペイン狂想曲
ボレロ
ピエール・ブーレーズ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
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