かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:アイヴズ 交響曲全集2

東京の図書館から、府中市立図書館のライブラリをご紹介します。2回シリーズでアメリカの作曲家アイヴズの交響曲全集をとりあげていますが、今回はその第2集を取り上げます。

第2集には、第2番と第3番「キャンプミーティング」が収録されています。和声的には第4番などと異なり、調性の保持あるいは拡張という感じを受けるのですが、第2番などは完成から初演まで50年かかったといういわくつきの作品です。

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様々な引用がありますけれども、私はむしろこの引用こそ、初演まで50年かかった理由だろうと思っています。なぜなら、これら引用が続いた最後この作品が「くそくらえ!」の不協和音で終わっているからです。

引用されている作品はすべて、調性のあるものです。アイヴズが目指した「調性の破壊」とは真逆のものです。それをあえて調性保持で書くということは・・・・・・アボルダージュだと、私は考えるからなのです。

アボルダージュとは、戦争において、敵の旗を掲げながらも、直前で自分の旗を掲げ敵を攻撃するという、国際法的に認められた海戦方法なのです。

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移乗するためには当然ですが敵艦に近づく必要があります。そのために相手の旗を掲げることもしばしばだったのです。アイヴズの第2番はまさに、「調性音楽に移乗して不協和音にてその音楽を奪う」ことが主目的であり、そのメッセージが明確に伝わっていたがゆえに、50年物歳月が必要だった、と考えれば符合するのです。そりゃあ、嫌がりますよ、守旧的な人たちは・・・・・

もちろん、この21世紀において、この作品のほうがむしろ守旧的に聴こえるほど、時代は変化しました。それだけの時間が、この作品には必要だったといえます。おそらくアイヴズとしては「自分は最先端を行っているんだからもっと評価するのが当然だろ」という意識もあったのかもしれません。なかなか初演に足が向かなかったというエピソードは、どこかアイヴズの自信と慢心が裏表になっている様子すら感じます。まあ、経営者ですからねえ・・・・・

第3番「キャンプミーティング」は調性の保持というよりは調性の拡張というほうが適切な作品ですが、題材は実にアメリカ的というか、保守的という感じすらあります。このキャンプミーティングとは、ありていに言えば、アメリカ西部開拓時代における野外教会説法集会のこと、なんですから。

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ですから、作品は意外にも宗教的雰囲気を持っています。ゆえに、アイヴズの音楽が広く知られるきっかけになったともいえるのではないでしょうか。保守的な題材を、調性拡張により表現する・・・・・その意味では、ようやくアイヴズは自らの音楽でどのように語るのか、慣れてきたともいえる作品だと思います。

演奏は指揮者はマイケル・ティルソン・トーマスですが、オケはロイヤル・コンセルトヘボウに代わっています。それでも、ティルソン・トーマスというアメリカ人がオケと対話した結果が存分に反映されている演奏だと思います。第2番の調性から不協和音への最後のどんでん返し、第3番の不協和音を静謐さや神秘性という部分で上手に使う部分が明確だとか、まさにプロの仕事だなあって思います。その説得力と言ったら!アイヴズの交響曲には徹底的に批判精神が宿っています。ただ、そもそもが完全趣味の世界ですから、実演奏を想定していないという点が困難としてあるだけですが、それも多分ひっくるめて批判精神だという感覚が、演奏から見えてくるんです。なるほど、ティルソン・トーマスの解釈は、私にとっても共感できる部分がたくさんあるなあと思います。

その意味では、多分この先、どこかでたまーに、アイヴズは聴く作曲家になるような気がします。

 


聴いている音源
チャールズ・アイヴズ作曲
交響曲第2番
交響曲第3番「キャンプ・ミーティング」
マイケル・ティルソン・トーマス指揮
ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団

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