かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:グールドが弾くバッハのイギリス組曲

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、グレン・グールドが弾くバッハのイギリス組曲のアルバムを取り上げます。2枚組ですが、今回ひとまとまりで取り上げます。

グールドの演奏に関しては、以前にも取り上げています。基本的には現代ピアノの奏法と私は考えています。しかし、このイギリス組曲も原曲はあくまでもチェンバロ。それを現代ピアノで弾いているわけです。本来は異なる楽器での演奏なのですね。ウィキペディアではクラヴィーアとされていますがあくまでもバッハの時代においてはチェンバロですから。

ja.wikipedia.org

それを、グールドは現代ピアノで弾いているわけです。おのずと奏法もアプローチも異なるは当たり前で、その違いを楽しむのがグールドの演奏の魅力だと私は思います。

さて、現代ピアノなので、打鍵楽器のようなものなのですが、このイギリス組曲の演奏に関しては、チェンバロを意識したような演奏も散見されます。そうなると、グールドはやはりイギリス組曲という作品の本質を理解したうえで現代ピアノで弾いていると言えます。

そもそも、バッハの時代の組曲とは舞曲集です。ですが、イギリス組曲を聞きますと以外にもこれで踊れるの?という曲もあります。そこを打鍵楽器でもある現代ピアノで鋭く弾いています。こうグールドの演奏でイギリス組曲を聴きますと、バッハがイギリス組曲を単なる舞曲としてだけ作曲したのではないような気がしてきます。本来の舞曲を、単なる踊りのためだけと捉えず、躍ることの本質に迫っているようにすら聴こえます。

躍るとはどういうことでしょうか。ちょうど今オリンピックでも新競技ブレイキンがこれから始まりますが、そのブレイキンはアメリカのストリートに於いて抗争をしていたグループがその解決方法として踊りで優劣を決めようとしたことから始まります。レナード・バーンスタインがオペラ「ウェストサイド・ストーリ」で描いたことでご存じの方も多いのではないでしょうか。ではなぜ踊りで解決しようとしたのかと言えば、躍ることで自身のパフォーマンスで満足が得られること、です。

そもそも、古来から踊りとは楽しむ事でコミュニティの安定を図る目的で行わてきました。ヨーロッパ宮廷に於いてバロック・ダンスが広がったのも、そもそもヨーロッパは戦争に明け暮れていたからこそ、言語を超えたもので安定を得るためという側面もあります。

バッハはそれをさらに広げ、躍ることで得られる心の平安に焦点を当てて組曲を作曲したと言えます。グールドはその歴史と背景を踏まえてあえて現代ピアノのまま演奏したとも考えられます。この録音は1970年代初頭ですが、その時期はすでにチェンバロによる演奏もヨーロッパにおいては盛んになり始めた時期です。そんな時期にあえて現代ピアノで演奏することの意味を、グールドは考えての演奏であると言えるのではないでしょうか。現代ピアノのアプローチをしつつ、時としてチェンバロ的な奏法も見受けられつつ、やはり現代ピアノが打鍵による音の発出という側面を演奏に巧みに取り入れて演奏しているさまを聴きますと、本当にグールドは天才であると言えます。

グールドは本来フィットしないはずの現代ピアノで、バッハという作曲家の本質を私たちに見せたピアニストだと言えます。その才能は今でも評価されるべきものででしょう。私はバロック期の演奏は基本チェンバロであるべきという派ですが、しかしグールド並みの才能と見識を持ったピアニストが弾くのであれば、現代ピアノでもいいと思います。ただ、現代に於いてそこまでピアノで演奏しようとしないピアニストが殆どであるということを踏まえますと、バロックという時代の音楽の本質の理解が足りていないのかなと感じざるを得ません。そうなると必然的に時代楽器へ「逃げる」しかないのかなあと思います。そのほうが無難ですから。無難なことを選択したのかそれとも覚悟を持って時代楽器を選んでいるのかは、私達聴衆もしっかり見極める必要があるなあと、グールドの演奏を聴きますと気付かされます。

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
イギリス組曲
第1番イ長調BWV806
第2番イ短調BWV807
第3番ト短調BWV808
第4番ヘ長調BWV809
第5番ホ短調BWV810
第6番ニ短調BWV811
グレン・グールド(ピアノ)

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