かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:グレン・グールドが弾くスクリャービンとシベリウスのピアノ曲集

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、グレン・グールドが弾くスクリャービンシベリウスピアノ曲集を取り上げます。

グレン・グールドと言えばバッハというイメージが強いですが、このアルバムはスクリャービンシベリウスピアノ曲を収録したものです。特にシベリウスピアノ曲となると珍しいという印象を持つ人も多いのではないでしょうか。

どんな作曲家でもピアノ曲というものが作曲していることが多いですがシベリウスもその一人です。特に作曲となるとピアノでという人が多いわけなので、ピアノが弾けないという作曲家はむしろ少数なのではと思います。現代だとPCで作曲したりしますのでピアノが弾けないというケースもあるかもしれませんが・・・

その演奏がグールドとなれば、借りない理由がありませんでした。即決で借りたことを覚えています。データを見てみると2018年。もう6年前なのかと・・・この頃から、いろんな組み合わせを積極的に聴くようになっていきました。特に図書館は有名作を借りるとしていたこともあり、有名無名にかかわらず有名曲は積極的に借りて行こうという方針です。勿論、珍しい作曲家でもですが(特に最近はCD店頭販売が次々に終了していることもあり、図書館で見かけた珍しいものは積極的に借りています)。

まずはスクリャービンピアノ曲が2つ。ピアノ・ソナタ第5番と二つの小品作品57。それぞれ作曲年が1906年、1907年と近い時期に作曲されています。ピアノ・ソナタ第5番は「法悦の詩」のすぐあとに作曲されたこともあって神秘主義の色合いが強い作品です。一楽章形式になっていることもまた特徴で、スクリャービンが作品を作るにあたりひとまとまりにする傾向があったことが伺えます。

enc.piano.or.jp

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一方、2つの小品は一転セパレートになっており、これもまたある意味神秘主義的な印象も受けます。スクリャービンの頭の中を覗いてみたくなるような・・・

enc.piano.or.jp

3曲目からはシベリウス。3曲目から5曲目はソナチネ作品67。一転古典的な印象を受けますが、作曲は1912年。スクリャービンの2つの作品よりも後なんです。シベリウスは新しい様式を積極的に取り入れると言うよりは、その様式が自分の創作にどのように役に立つかで選択している印象を持ちます。特に第1番第2楽章は沈思黙考するかのような曲です。どうやら1908年にがんが見つかり治療しましたが再発を恐れていたとのことで、その影響が見受けられるような感じです。

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最後は「キュリッキ」。聴いていてこの曲がとても印象に残りました。なぜなら、キュリッキとは「カレワラ」の中ではレミンカイネンにさらわれて妻にされた人で、他の娘に会いに行ったことで約束を破ることになって夫であるレミンカイネンに捨てられるという人なのですが、そんな悲劇的な様子が作品にはみじんもなく、むしろ喜びに満ち溢れているのです。むしろ捨てられたことを喜んでいるかのよう・・・

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グールドなので、そのあたりは実に生き生きと表現されているのです。ここにどこかグールドの共感が現れているように聴こえるのは私だけなのでしょうか。考えてみれば、キュリッキはレミンカイネンに「さらわれた」のであり、ある意味自分から進んで一緒になったとはおもえません。そうなると、むしろ約束を破ることも束縛から逃れたいからでしょうし、その結果捨てられることはむしろ束縛からの解放を意味するので喜びと言えるでしょう。これが本気で自分が愛した人ならば捨てられるのは悲劇でしかないですが・・・

そう考えると、このアルバムは、グールドの内面性を表現するために選択された曲たちだったのではという気がします。グールドが実は処方薬依存気味だったことは有名な話です。その病気から回復するために、グールドにとって芸術を表現することが必要なものの一つだったとすれば、私にこれらの曲たちは実に雄弁に語り始めて来るのです。

先人たちが紡いできた、内面性を表現した作品に自身を投影し、さらに磨きをかけていった結果がこの演奏だとしますと、グールドのピアニズムをバッハだけで見てはいけないことを突き付けられます。そのうえで、バッハでの表現を考えることもまた、重要なのではと思う次第です。こういう演奏を聴くことが、私にとって喜びなのです。

 


聴いている音源
アレクサンドル・スクリャービン作曲
ピアノ・ソナタ第5番作品53
2つの小品 作品57
ジャン・シベリウス作曲
ソナチネ第1番嬰ヘ短調作品67-1
ソナチネ第2番ホ長調作品67-2
ソナチネ第3番変ロ短調作品67-3
キュッリッキ(3つの抒情的小品)作品41
グレン・グールド(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。