かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:Orchestra HAL第27回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和7(2025)年8月23日に聴きに行きました、Orchestra HALさんの第27回定期演奏会のレビューです。

Orchesatra HALさんは東京のアマチュアオーケストラです。「対話を重ねながら紡ぐ音楽(Harmony Achieved through Language)」をコンセプトとされている団体です。

orchestrahal.org

このブログでも何度かエントリを挙げていますが、そのたびに真摯な演奏姿勢に感動を覚えます。それは対話を通じて音楽を紡いでいる故なのだと感じます。音楽は一つのコミュニケーションですが、だからこそ表現者側が対話を積み重ねていくこともまた重要だと思います。対話無しで阿吽の呼吸で行けるのであればそれでもいいとは思いますが、人間は些細なことで対立もする存在。それは人間が社会性の動物であるが故ですので、その「人間とは如何なるものか」という問いに対する答えだと個人的には考えます。

今回のプログラムは以下の通りです。オール・チャイコフスキー・プログラムとなりました。

チャイコフスキー バレエ音楽くるみ割り人形」抜粋
チャイコフスキー 交響曲第3番「ポーランド

特に、交響曲第3番「ポーランド」を取り上げるのはアマチュアオーケストラとしても珍しいと思います。大体4番以降、もしくは第1番か第2番が多い中で、第3番を取り上げるのですから。

くるみ割り人形 抜粋
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」は、1892年に完成されたバレエ音楽です。1890年に作曲が提案され、1891年に着手、1892年に完成、初演されています。

ja.wikipedia.org

コンサートピースとしては組曲のほうが演奏されますが、今回はバレエから抜粋されたため曲順は変わっており、「花のワルツ」は途中に入っています。当日も花のワルツが終ったところで拍手が起こりました。組曲の最後が「花のワルツ」だからです。ですが抜粋の中で聴くとこれを途中にするというのはどういう意図なのかを考えるのも楽しいところです。そもそもはクリスマスパーティーの様子を描きながらメルヘンの世界へと引き込むのがテクスト。次々といろんな踊りが出てきて楽しい!というのがちょうど「花のワルツ」が演奏されるところに当たるので、その中のクライマックスでしかないわけなんですね。それよりもさらに壮麗で壮大な音楽は最後にあります。それが終曲「終幕のワルツとアポテオーズ」。主人公クララが夢から覚める場面なのですが、それがそっと終わるのではなく「夢だったの?でも楽しかった!」という形。確かに、楽しかったことって特に子供の時って淋しいというよりは楽しかった思い出で満たされていたよなあと考えると、壮麗で壮大な音楽で終わるのは理に適っています。演奏も自分たちが子供の時の愉しかった思い出を思い出すかのような、共感と楽しさに満ちていました。それが聴衆のこちらにもしっかり伝わってくるのです。当日は実は母校日大三高夏の甲子園大会決勝戦に進出し惜しくも準優勝になった日で、多少傷心気味で会場に入りましたが(ぎりぎりまでテレビ観戦していたおかげで到着は開演5分前)その心を温かく包み込み、癒してくれました。その場だけクリスマスの暖かい雰囲気でした。それは本当に助かりました・・・テレビを付ければ仕方ないですが勝った沖縄尚学のことばかりですから(それもそれで夏沖縄県勢初優勝なので素晴らしいことなのですが)・・・

チャイコフスキーが「くるみ割り人形」で表現したかったことは、クリスマスというイベントの「包摂性」だったのではないかと感じたところですし、またその魂を引き出した演奏だったと思います。

交響曲第3番「ポーランド
チャイコフスキー交響曲第3番は「ポーランド」と題されていますが、ポーランドを題材にしたのではなく終楽章にポロネーズが使われているから後世名付けられたものです。5楽章というチャイコフスキー交響曲としては唯一の形式を採っていることもまた特徴で、主調が彼の交響曲の中で唯一の長調であることもまた特徴。1875年に作曲、完成、初演されました。

ja.wikipedia.org

ロシア人のチャイコフスキーですから、ポロネーズを使うということは珍しいと言えますが、この辺りに当時のチャイコフスキーの心理が現れているように個人的には考えます。いわゆる国民楽派の時代に於いて、ポーランドのリズムであるポロネーズを採用することはある意味危険を伴う行為ですが、ちょうどチャイコフスキーモスクワ音楽院をやめた時期。チャイコフスキー自身の音楽はロシア的ですがもともとロシア5人組とも親交があったことからその路線から外れることはなかなか勇気がいることだと思います。ですが外れることを選んだということは、チャイコフスキーは民族的な路線ではなく民族色をまといつつもコスモポリタンな姿勢を目指していたと言えるでしょう。それはチャイコフスキーが同性愛者だったこととおそらく無関係ではないと考えます。

音楽は第1楽章序奏で始まりますが第1主題が始まりますと転調しニ長調に。まさに新しい音楽がここから始まるのだ!という宣言にも感じます。演奏はその部分まさに生き生きとなっていましたが、テンポとしては多少どっしり目。ですが溌剌としたものでそのどっしりとしたテンポが重々しく感じないのです。カンタービレしつつもリズムを忘れない演奏であるせいかと思います。それは多分ですがOrchestra HALさんもいわばコスモポリタンの集まりだからなのではと思うところです。ゆえにチャイコフスキーの音楽に共感し、ついそこに感情移入してしまうが故のように感じます。

実際、私自身もチャイコフスキーのそのコスモポリタン的な視点にはつい感情移入してしまいます。だからと言って日本的なものを絶対否定する者でもないですし。戦後生まれの日本人としての感覚はチャイコフスキーが追い求めた音楽に近いと感じています。それはOrchestra HALさんの団員の方々も同じであるように感じます。最後の第5楽章までチャイコフスキーの音楽に共感し、味わい尽くされていました。この曲に於いても最後まで楽しそう。それがまた、こちらも喜びに満ちて来るのです。いいわあ。これもまた母校の準優勝を癒してくれます(って結局引きずっています)。

アンコールは「くるみ割り人形」からチョコレートの踊り。この曲ではかなり思いっきり体をゆすって演奏されていました。メインまででももっと体をゆすってもいい気はします。勿論演奏は素晴らしかったのですがよりさらに聴衆の魂を貫いていくような気がします。次回は2月にシベリウス交響曲第1番と、今度は激烈な曲。さらにホールはOrchestra HALさんとしては珍しいデッドな調布市グリーンホール。デッドなホールでどんな演奏を繰り広げるのか、楽しみです。

 


聴いて来たコンサート
Orchestra HAL第27回定期演奏会
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
バレエ音楽くるみ割り人形」作品71より抜粋
交響曲第3番ニ長調作品29「ポーランド
石毛保彦指揮
Orchestra HAL

令和7(2025)年8月23日、東京、杉並、杉並公会堂大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。