コンサート雑感、今回は令和6(2024)年12月21日に聴きに行きました、合唱de歓喜演奏会のレビューです。
合唱de歓喜演奏会は、毎年秋川キララホールで行われている演奏会です。恥ずかしながら初めて知った演奏会でした。きっかけは、「ぶらあぼ」に掲載されていたことです。「ぶらあぼ」は合唱などクラシック音楽が好きな人だと一度は手にしたことがある冊子かと思います。実はウェブ版もありまして、そのWEB版に掲載されていたのが、今回の演奏会です。毎年年末になると、ぶらあぼやぴあがベートーヴェンの第九演奏会をまとめた特設サイトを設けています。そのサイトで見つけて足を運びました。
ホールに詳しい人であれば、秋川キララホールで第九が演奏できるわけがない!と言うかもしれません。確かに、私も秋川キララホールと言えばピアノ曲のアルバムでその名を見たことがあるホールなので、小さいホールだよねという意識はあります。ただ、その演奏がオーケストラではなく2台ピアノとなれば話は別です。
つまり、この演奏会、リスト編曲の2台ピアノ版で演奏されるものなのです!それがどれだけレアなことなのかと言えば、以前私もリスト編曲を「神奈川県立図書館所蔵CD」のコーナーで取り上げていますが、1台も2台も共に合唱はなしです。つまり、ピアノ独奏曲というカテゴライズです。
そして、ようやくピアノ1台版では合唱団が入っているアルバムをご紹介していますが・・・
2台版ではまだなかったのです。以前も付言していますが、リストはピアノへトランスクリプションする時に、合唱部分は全くいじっていません。それは演奏するときにオーケストラの代わりにピアノを用いることを前提としており、つまり本来はピアノ独奏曲としてではなく、交響曲として味わってもらいたい、触れてもらいたいという意識のほうが強いのです。ゆえに本来は第九であってもピアノ独奏ではなく合唱が入ることこそ正当なのです。
そのコンサートを、何ともう13回積み上げてきているとは!上記エントリで「貧乏合唱団いかがですか?」と書いていますが、とっくに秋川でおやりになられていたというわけです。もう敬服するしかありません。勿論、リストのトランスクリプション2台ピアノ版だからこそ、このコンサートに足を運んだのです。
ではなぜ秋川ではリスト版を採用したのか?詳しくは聴いていませんが、まずはホールが小さいということがあるでしょう。そのうえ、このコンサートは無料なんです。演奏会の初めにあきる野市長さんの挨拶がありましたので、ほぼ間違いなく市税ががっつり投入されているかと・・・そうなると、あまりお金はかけられないですからね。ピアノ2台という珍しさもあれば、客もたくさん入るという目論見もあるでしょう。ゆえに、リスト版が採用されたと考えていいと思います。実際当日もほぼ満席。私自身、1か月前にホールまで行き整理券をもらおうとしましたが規定枚数に達したため配布終了・・・ホールの方に主催者に電話してみればもしかすると余っているかもというアドヴァイスをいただいたため、電話してようやく手配できたくらい、人気なんです。主催者の方にこの場を借りて御礼申し上げます。
さて、今回のコンサートはどちらかと言えば合唱団が主体のコンサートだと言えます。合唱団は「合唱de歓喜合唱団」として活動されており、今年もすでに11月24日に西東京交響楽団さんと第九をおやりになられたそうで・・・行きたかったです。ホールも所沢ミューズ・アークホールですし。いい場所で歌われていて羨ましいです。さらに、合唱団には東海大学付属菅生高等学校も参加されているようで・・・そもそも、指揮者の村越さんが東海大学菅生高等学校合唱部の指導をされているそうで、今回も中等部や小学生なども参加されている姿が見えました。いやあ、これまた羨ましい・・・日大三高出身としては東海大菅生は高校野球西東京大会ではライバルですが、文化的にはとても素晴らしい活動をされていると思います。
さて長くなりましたが、今回は曲がてんこ盛りでした。
①ヴェルディ オペラ「運命の力」序曲
②ヴェルディ レクイエムより
レクイエム
キリエ
怒りの日
③ベートーヴェン 交響曲第9番
それじゃあ、第九は第4楽章だけ?と思いますよね?いいえ違います、第九はしっかり全楽章です。あくまでも一部だったのはヴェルディのレクイエムです。特に、「怒りの日」からは「怒りの日」「妙なるラッパの音」「サルヴァ・メ」の3つのみ。本来はもっと長いのですが、それをすべてやってしまうとレクイエムだけで1時間はかかってしまいますのでコンサートの時間が長くなりすぎます・・・まあ、オーケストラ・ダスビダーニャのように3時間という気合の入った団体もありますが、高校生や中学生、あるいはかなりお年召した方もいらっしゃいますので、無理と言うもの。とはいえ、休憩も含めて2時間30分フルでしたが・・・
まず、「運命の力」序曲。ピアノ2台だと、本当にそこにオーケストラがいるかのような、音の厚みがあるのがいいですね。ヴェルディのオペラ序曲に備わっている、力強さと美しさがしっかりと表現されていたのはさすがでした。それだけのピアニストを揃えて無料って・・・あきる野市長さま、1000円くらいはチケット代とってもいいと思いますよ、ほんと。
これは期待できそうと思い、次のレクイエムは・・・合唱団はまだ喉が温まってないかな、という印象で、力任せになっている印象。まあ分からないわけでもないです。ヴェルディのレクイエムは指揮者村越さんもマイクで説明されていた通り3大レクイエムのうちの一つですが、最も激しくオペラ的なレクイエムと言っていい作品です。音楽史家の中には「宗教曲ではない」とすら言い切る人がいるくらいです。どうしても力強く歌うことに神経を使って、かえって苦しい声楽になっているのが残念でした。発声は美しいのに・・・「アイーダ」のほうが良かったかも。でも、いい経験になったのではと思います。
それ以上に残念だったのが、実はソリストで、ソプラノが・・・調子が悪かったのかそれともそもそもなのかは判断突きません。いずれにしてもかなり苦しそうな発声だったのが残念。それ以外のソリストは本当に素晴らしい!特にアルトの存在感が大きかったのが素晴らしいです。アルトってどうしても隠れてしまいがちなんですが、そこで存在感があるって本当に素晴らしい声楽家だと思います。
後半の第九。何とピアニストは交代して女性二人から男性二人に。どっちでもいいとは思うのですが、やはり第九は演奏時間が長いという点もあったのかもしれません。とはいえ、二人とも力強く美しいピアノです。第1楽章冒頭のトレモロ、そしてティンパニ連打のところの打鍵など、聴いていて文句のつけようが基本ありません。ただ、もう少しフレージングを大切に弾いても良かったかなという印象はありました。特に第3楽章や第4楽章でですが。ピアニストだけではなくて指揮者もいてタクトを見ながらということもあったのかもしれません。そのあたりはむしろ指揮者の力量かなという気がします。とはいえ、あまりマイナスというわけでもなく、見やすい指揮だったとは思います。少なくとも12月6日に聴きに行きましたトラウム・ズィンフォニカーさんよりはずっと良かったです。
さて、第4楽章。プレストも激しさがあって、これも2台ピアノのいいところだと思います。特に旋律が別になっているような部分は1台だとなかなか表現しにくいところが2台だといきなり世界が広がるように編曲されている部分が明快で、オーケストラ演奏を聴きなれていても違和感ない演奏になっていました。この辺りはさすがだと思います。
そして、合唱団も歌いなれているせいなのか(特に、1か月前にオーケストラの定期演奏会に参加しているわけですし)、レクイエムで聞こえたような苦しそうな発声があまり聞こえず、美しい第九!それでも力強さもあって素晴らしいです。ピアノ演奏であるがゆえにいつもフォーカスするvor Gott!の部分は明らかに短く変態演奏ですが、これもピアノだからこそ違和感がないのも素晴らしい!
そして、練習番号Mの部分は、2台ピアノだからこその素晴らしいところで、弦楽器が動き回る部分が明確になっているのも良かったです。左のピアノは主にヴァイオリン、右のピアノは低弦楽器の動きが、オーケストラ演奏を聴きなれている人でもはっきり聞こえるのが素晴らしいです。これがプロの仕事だと思います。ゆえに合唱団もノビノビ歌っているんです。発声はあくまでも力強くではなく美しくという感じですが、一方でしっかりと力強くもあるのです。本当に素晴らしい合唱団だなあと思うと同時に、ゆえにヴェルディのレクイエムではきつかったんだろうなあと思いました。もしかすると、そのあたりは村越さんが考えてあえて選択したという可能性もあるかなと思います。
最後のプレスティッシモも、しっかりと「しゃべって」いるのも素晴らしい!若い人も多い合唱団だからこそかもしれません。高校生などが参加するためにどうすればいいのかという、一つの回答かなという気がします。その意味では、東海大菅生高校が参加しているというのは大きいなあと思います。アマチュアオーケストラが第九を演奏する場合でも、学校とタイアップするというのは重要かもしれません。私も大田区民第九合唱団で活動していた時、幼稚園や小学校とも関係がありましたが、なかなか生徒や児童までというのは実現しにくかった記憶があります。ゲネプロやコンサートの見学などは実現できても、参加というところまでが難しいのですよね。その点、指揮者の村越さんが東海大菅生高校合唱部の音楽監督という立場であるのは非常に大きいと思います。
そしてやはり、ソプラノのソリストが調子悪い・・・他三人は素晴らしかったです!テノールも力強く美しい。アンコールは第4楽章最後のプレスティッシモでしたが、むしろ合唱をおやりになられていたピアニストのほうがいいくらい・・・調子が悪かったのでしょうか。1月13日にイオンモール日の出のエントランスで第4楽章だけを演奏するそうなので、それを聴いてみないと何とも言えませんが、今回はかなりダメでした。正直、まだ稲見先生のほうが・・・あ、誰かが来たようだ。
少なくとも、合唱団のレベルは来年も足を運びたいと思わせるだけのものがありました。小さいホールでもあまりお金がなくても第九はやれるということを13回も積み上げてきた関係者各位にここで改めて敬意を表するものです。
聴いて来たコンサート
合唱de歓喜演奏会
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
歌劇「運命の力」序曲
レクイエムより
レクイエム
キリエ
怒りの日(怒りの日、妙なるラッパの音、サルヴァ・メ)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
フランツ・リスト編曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」(ピアノ2台版)
町田百合絵(ピアノ1、ヴェルディ)
遠山沙織(ピアノ2、ヴェルディ)
佐野隆哉(ピアノ1、第九)
有吉亮治(ピアノ2、第九)
村越敦子(ソプラノ)
中野由弥(アルト)
渡辺大(テノール)
高橋洋介(バリトン)
村越大春指揮
合唱de歓喜合唱団
令和6(2024)年12月21日、東京、あきる野、秋川キララホール
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