かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:合唱付きの第九ピアノ版

今月のお買いもの、令和3(2021)年1月に購入したものをご紹介しています。今回は合唱が付いた第九のピアノ版を取り上げます。

第九のピアノ版には3つあり、特に有名なのがリストの編曲です。それを通常はピアノ版と呼びますが、ピアノ独奏で収録されることが多く、合唱付きで収録されることはまずありません。「ピアノ曲」のカテゴリになってしまうからです。

しかし、以前ナクソスの全集を取り上げた時にも触れていますが、リストはワーグナー同様、トランスクリプションするときに合唱パートは全くいじっていません。これはどういうことかと言えば、リストもワーグナーも(これはもう一つのフランス語のものでもですが)、オケの代わりにピアノで演奏することを念頭に置いているから、です。

リストやワーグナーが生きた時代は、今のように大編成のフルオーケストラが津々浦々にあるわけではありません。ようやくそのようなオーケストラが出現したはいいけれど、多くの人が聴きに行けるような環境ではなかったのです。そこで、古典派のモーツァルトが自分のピアノ協奏曲をピアノ四重奏版へと編曲したのと同じように、多くの人に聴いてほしい、触れてほしいが故に残したのがピアノへのトランスクリプションだったのです。

ピアノは、リストやワーグナーが生きた時代、ようやく市民へ普及し始めた楽器でした。なら、そのピアノで第九のオケパートを代用してしまえば、あとは合唱団は何とかなるはず、という判断で残したのが、いわゆる「リスト編曲の第九」なのです。

ゆえに、本来はピアノ独奏で終わらせず、第4楽章では合唱もつけて演奏するのが本来なのです。しかし長らく、リストの意図とは異なり、リストがピアノのヴィルトォーソであったということだけで、このピアノ版はピアノ独奏のみで収録され続けてきました。ですがようやく、合唱団も入っての録音が出たことは大変喜ばしいと思います。

なぜ喜ばしいのか。それは、リストが意図したことであるから、です。そしてその意図は、現在新型コロナウイルスの感染拡大という状況を受けて、大変大事なこととなりつつあります。なぜなら、ピアノ1台でオーケストラを代用できれば、全国津々浦々で第九の演奏が可能になるからです。究極のソーシャルディスタンス、と言えるでしょう。

私はそもそもアマチュア合唱団員だったので、日本の合唱曲なども歌った経験があります。このリスト版はまさに、その日本の合唱曲を歌うのとおなじ編成となります。それなら、ピアノは現在日本の津々浦々にあり、下手すれば学校の体育館にすらあります。ホールで難しければ、学校の体育館で扉をあけ放ち、ピアノ一台で合唱団が演奏するということも、可能になるからです。この録音を購入した理由の最大が、その「ソーシャルディスタンスが保てるはずの編成」という点です。

実際、この録音では合唱はRIAS室内合唱団が勤めています。この合唱団、このブログではプーランクの合唱作品を収録したアルバムをご紹介した時にも登場させています。つまり、この録音は、フルオケでないのであれば、第九は室内合唱団くらいの人数でも歌えてしまうことを、証明してしまっているのです。レーベルはソニークラシカル。ソニーにも合唱団が二つありますが、二つとも活動を休止していると聞いています。彼らにも希望の灯がともるようなアルバムだと思います。

この演奏、実は変体演奏で、vor1拍に対しGottは3拍程度!さすがピアノ一台での演奏です。いや、実はリストは2台ピアノでもトランスクリプションがありますが、どちらもピアノという楽器はフェルマータがそうそうできる楽器ではないため、休符もとらず即アラ・マルシアへと移行しています。しかし、それが全く不自然ではない!

はじめ聴くと、合唱団の歌い方がオケとは異なり、まさに合唱曲という感じなので面喰いますが、日本の合唱曲に慣れている人であれば、聴けば聴くほどなじんでくるはずです。ベートーヴェンはフルオケを念頭に作曲していますが、その魂を大切にしたうえで、ピアノ一台でまるで日本の合唱曲を歌うかのような歌い方でも、しっかりと曲の生命が宿り続けていることを、演奏で証明しているのも、また素晴らしい聴きどころだと思います。まるで宗教曲を歌うかのような・・・・・

第九自体は決して宗教曲ではありませんが、人間の連帯を歌い上げた作品という意味では、単に人間の内面世界を表現した作品ではなく、むしろ人間を超えた何かの崇高さを讃えている、と考えれば、宗教曲的に歌っても何らそん色ないとも言えるでしょう。第九という作品の多様性を見せてくれている演奏だと言えるでしょう。今こそ、リスト版での演奏がなされる時だと、私は宣言します。全国のアマチュア合唱団、いざ立て!いかに貧乏な合唱団であっても、ピアノ一台なら、できます!

 


聴いているハイレゾ
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
フランツ・リストによるトランスクリプション
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」
クリスティーナ・ランドシャーマー(ソプラノ)
ダニエラ・デンシュラーク(アルト)
アンドレハマスミー(テノール
ハンノ・ミュラー=ブラッハマン(バス)
RIAS室内合唱団(合唱指揮:ジャスティン・ドイル)
ハインリッヒ・アルパース(ピアノ)

(Sony Classical ハイレゾ96kHz/24bit)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。