かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:リスト ピアノ曲全集40

今月のお買いもの、令和元年9月に購入したものをご紹介しています。今回はe-onkyoで購入したナクソスのリストのピアノ曲全集の第40集を取り上げます。

神奈川県立図書館でかりて以来いわばライフワークになりつつあるリストのピアノ曲全集の購入ですが、この第40集ではリストの意外な面が見えると思います。この第40集もトランスクリプションなのですが、その題材がマイアベーアなのです。

マイアベーアは、現在日本のみならず世界において冷遇されている作曲家だと思います。特に我が国に置いては管弦楽を一切書いていないので、なおさら放置プレイになっているといえるでしょう。

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けれども、リストと言えば、実はワーグナー派です。そんなリストがなぜマイアベーアだったのか?そこに、私はリストという人の複雑さというか、単純ではない部分を見るのです。確かにフレームワークとしてはワーグナー派だったといえますが、一方でリストは祖国としたハンガリーへの想いが愛国者として強い人でもあります。ドイツに対して多少距離を取ることは当然だっただろうと思います。

この第40集ではマイアベーアの「悪魔のロベール」と「預言者」、そして「アフリカの女」のトランスクリプションが収録されています。このラインナップを見ると、リストが決してマイアベーアを悪く見ているわけではないということがよくわかる内容だと思います。そのうえで、このマイアベーアに対しては完全なるトランスクリプションとなっている点も見逃せません。

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それぞれのオペラの解説を読めば、如何にリストが霊感を得るようなものばかりだということがわかります。そしてこれは実はワーグナーも同じ路線なんですね。つまり、リストは生前から現代の学者の次の批判を持っていたということに他ならないだろうと思います。

マイアベーアは栄光を手にしたにもかかわらず、「うわべの効果だけを狙った」という根拠のない中傷をいまだ受けている芸術家のひとりである。ワーグナーマイアベーアのオペラを「理由もなく効果だけを狙った」作品だと酷評している。マイアベーアについては、軽視するような姿勢で臨むのが一種の流行りのようになっているが、彼の作品の技術的な側面のみを認めるのは妥当ではないように思われる。また、彼の作品に対する評価は、評する側の身勝手な関心や評価対象に対する不十分な知識に基づくことが多く、全く信用に値しない。オーケストラの発展という観点から見ると、マイアベーアヴィルトゥオーゾの時代において最も大きな影響を及ぼした作曲家のひとりであり、純粋に音楽的観点からは最も独創性に溢れた発明家だと言える」

マイアベーアは独創的で並外れた才能をすべてオペラに捧げた。管弦楽曲は一切書かず、オペラの場合も序曲ではなく、短い前奏曲を書いただけである。彼の創造力を刺激するのは、劇の一場面であり、その音楽は音による舞台装置と言えるかもしれない。スコアをどこか覗いてみれば、音楽で様々なことを説明しようとする意図がうかがわれる。それが彼の最大の特徴である。マイアベーアの音楽は効果を狙いすぎだと常々批判されている。例外は『ユグノー教徒』の第4幕で、ワーグナーが称賛したからだ。しかし、マイアベーアの卓越した音楽センスと、特にオーケストラの扱い方を考えれば、こうした非難はまったく的外れだ」

そう、題材として何を選ぶかという側面のみで言えば、実はマイアベーアワーグナーもあまり変わりないのです。そしてこの二人は明らかに後世のオーケストレーションだけなく、映画にも影響を与えた人物です。特に、ハリウッド映画にこの二人が与えた影響は果てしないでしょう。合唱こそ入りませんが構成的にマイアベーアが確立したグランド・オペラがどれほど映画に影響を与えたか・・・・・

特に、我が国の「大河ドラマ」はまさにグランド・オペラそのものの構造を持っています。視聴率的には低迷している今年の「いだてん」も構成的にはグランド・オペラです。合唱がないだけです。

ヴィルトォーソであったリストが、ヴィルトォーソ重視だったマイアベーアにシンパシーを持っていても何ら不思議はありません。様式的にワーグナーを支持しただけで人間性までを否定していなかったと考えれば、リストがなぜトランスクリプションしたのかは容易に想像できます。しかも当時人気絶頂のオペラ作曲家です・・・・・

演奏するガッロは、そんなリストの「想い」を鍵盤を使ってどのように表現しようかということで結構迷っているなと思います。思いっきりのある部分があるかと思えば、少し足りない部分も・・・・・・もう少し突き抜けるといいんだけどなあと思うんですが、そこはやはり現在のマイアベーアに対する評価の影響を受けてしまっているように思います。雑念を捨てて楽譜と真摯に向かい合っていれば、もしかすると突き抜けたすさまじいそして素晴らしい演奏になったのになあと、残念でなりません。でもハイレゾですから、ペダルの使い方など、おお!と思うような部分もたくさんあり、霊感を存分に受けていると思います。リストのマイアベーアトランスクリプションの演奏例が極めて少ないことを考えたとき、これはこれで大健闘であるといえるでしょう。

 


聴いているハイレゾ
フランツ・フランツ・リスト作曲
マイアベーアの歌劇「予言者」による挿絵 S414/R223
マイアベーアの歌劇「悪魔ロベール」のカヴァティーナ S412a
マイアベーアの歌劇「悪魔ロベール」の回想 S413/R222
マイアベーアの歌劇「アフリカの女」の挿絵 S415/R224
セルジオ・ガッロ(ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。